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怪談師としても活躍中の漫画家・山田ゴロ氏。自身の故郷・やつるぎ村での怪奇体験を振り返る。
村には燃料屋が1軒あった。薪や炭を注文すると,すぐに届けてくれる。村のどの家にも行くので、村の人たちのことを、よく知っていた。
だから、燃料屋の善さは、物知りっていわれていた。
「ゴロちゃん、わからんことあったら、わしに聞け。なんでも教えちゃる」
「善さがわからんことって何?」
「わははっ。そりゃわからんな」
「自分のことは、わからんの?」
「そういうもんじゃ。自分の顔や背中は見えへん。世の中、そんなもんや」
善さは「大きな実用車」と呼んでいた自転車にリアカーをつけて、うんしょ、うんしょっとペダルを漕いで、薪や炭を配達する。とても親孝行で、いつもリヤカーには、善さのおばあちゃん(善さのお母さん)が乗っていて、積み下ろしを手伝ったりしていた。
集金はおばあちゃんの仕事だった。
ぼくがお金を払うと、
「5円はゴロちゃんにあげるわ」
と、払ったうちからお小遣いをくれる。5円は、1日のお小遣いだ。10円になるとキャラメルやアイスが買える。
小学校3年生になったとき、プロパンガスになった。ダルマのようなボンベを善さが配達する。自転車はオート三輪車になった。
ちょうど、学校から帰ってきたとき、善さが配達に来ていた。
「善さ、こんにちは」
「おう!」
プロバンのポンベを地面に転がすようにして、家の奥の台所に行った。
「おばあちゃん、こんにちは」
「こんにちは。ええ子にしとるかね」
「うん、しとるよ。ほんでも与っさは嫌いや。昨日も、与っさのゆるフン、ひっぱったったらビンタされた。ちゃんと絞めたろうとしただけやのに」
「あっはっはっ。そりゃ災難やったね。小遣い、10円あげるわ。見舞金やね」
「ありがとう!」
そこへ、仕事が終わった善さと、母が玄関に姿を見せた。
「いくらやったね」
「****円」
「高いねぇ」
「すんません。ゴロちゃん久しぶりやな。小遣いあげるわ」
「あっ、ええよ。おばあちゃんに、もうもらったで」
「えっ!?」
善さも母も声をあげた。
ぼくは、手のひらの10円を見せた。
「そりゃよかった。ほんなら、また」
そういうと善さは、助手席におばあちゃんを乗せて、帰っていった。
「ゴロ、おばあちゃんいたのか?」
「うん。善さの横に座っとるよ」
「ほうかね……ゴロ、お母ちゃんが10円やるで、その10円と交換して」
「なんで?」
「なんでも」
その晩、善さが家にきて、母は10円を白い紙に丁寧に包んで渡した。
「お母ちゃん子供好きやで、あっちの子、こっちの子にお小遣いあげるんやて。もう、3年にもなるのに……」
「そうやね。ええ人やったね。ほんでも、そんなことしとるで、三途の川、渡れへんのやわね、きっと」
「そうかも知れんね。はよ渡したらなあかん。これ仏壇に供えて、もうちょっと足したらな」
そんな話をして、またオート三輪の横に、おばあちゃん乗せて、暗い夜道をバタバタ帰っていった。
それからは、おばあちゃんを見たことがない。ぼくは三途の川の渡り賃を、もらっていたのかしら。
山田ゴロ
漫画家。1952年、岐阜県羽島郡生まれ。漫画家・中城けんたろう氏に師事、石森プロに入社、 『人造人間キカイダー』でデビュー。1975年からフリー。社団法人日本漫画家協会所属、一般社団法人マンガジャパン所属、デジタルマンガ協会事務局長、Japan Manga Artist Club (J-Mac)代表。近年はノスタルジーを感じさせる唯一無二の怪談を語る怪談師としても活躍
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