8113年に開封される巨大タイムカプセル「文明の地下聖堂」の中身と目的は? 開けるのは人類以外となる…
小学校の庭に「タイムカプセル」を埋めた思い出を持つ読者もいるだろう。しかし、参加した当人はおろか子供や孫の代すら中身を見ることのないタイプカプセルが存在する。今からなんと、6000年後の未来に開封する
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平成初頭、日本じゅうの子どもたちを震え上がらせた包帯怪人「トンカラトン」。鮮烈なデビューから30年を経て今では都市伝説の定番にもなったが、その発祥は謎に包まれている。 今回、オカルト探偵は秘密のカギを握る人物に接触! 怪人誕生の歴史に迫った。
若者たちに「幼少時代の怖かった思い出」を訊ねると、たびたび出てくる名前がある。平成初期に子ども時代を過ごした世代なら聞き覚えがあるだろう、あの怪人の名前だ。
「トンカラトン……が、いちばん怖かったですね」
トンカラトン。
全身が包帯姿の怪人で、日本刀を背負い、自転車に乗りながら「トン、トン、トンカラトン」と歌いながらやってくる。逃げてもすぐに追いつかれ、「トンカラトンといえ」と指示してくるので、その通りにすれば助かる。しかし「トンカラトン」といわないか、または指示される前に「トンカラトン」と口にすれば、日本刀で斬りつけられてしまう。斬られたものは、どこからか現れた包帯に巻かれ、また新たなトンカラトンに生まれ変わってしまうらしい……。
強烈なキャラクター造形と、従わなければ子どもたちをトンカラトンにしてしまう不条理性。夕暮れの道の向こうから、包帯男の自転車がやってくるのではないか……。怪人トンカラトンは平成の子どもたちに、大人になっても忘れられないような恐怖を植えつけた。
近年では、朝里樹氏の監修・著作となる『日本の都市伝説大事典』(新星出版社)『日本のおかしな現代妖怪図鑑』(幻冬舎)でも紹介され、すっかり「現代妖怪」「都市伝説」のひとつに定着した怪人トンカラトン。この怪人が広く知れ渡った経緯については、はっきり明らかになっている。テレビ番組「ポンキッキーズ」のアニメコーナー『学校のコワイうわさ 花子さんがきた!!』(以下『花子さん』)第10回「怪人トンカラトン」こそが、その存在を全国に知らしめた要因だ。
ただし、トンカラトンがテレビ番組の創作キャラクターだったのかといえば……それもまた疑問である。本誌でもおなじみ並木伸一郎先生の著書『最強の都市伝説4』(経済界2010年)を読むと、トンカラトンに「ネタ元」が存在する可能性が示されているからだ。
トンカラトンという都市伝説にはなにかしらのルーツがあるのか。つまり「版元」の編集部に投稿されてきたネタだったのか、それともスタッフが創作したキャラなのか。そこが気になった並木先生は、知人である『花子さん』担当編集者Nさんに電話取材を敢行した。
「トンカラトンって、編集部の創作ですか、それともネタ元はあったのですか?」
「あー、トンカラトンですか。あれが載っているのは、わたしではなくて前任のSさんが担当していた巻ですね。フリーでお仕事をされていた方だったんです。聞いてみましょうか。連絡をとってみますよ。少し時間をください」
それから数日してNさんから電話があった。
残念ながら、吉報ではなかった。
Sさんと連絡がつかないというのだ。近しい知人に聞いたのだが所在がわからないということだった。
とはいえ、未確認情報が得られた。ネタ元がSさんだったらしいこと。そしてこれは創作ではなく、そのSさんの故郷での話だったらしい、ということでもある。(『最強の都市伝説4』(経済界)より)
――この未確認情報が正しければ、トンカラトンは少なくともローカルの怪談・都市伝説としてどこかに「実在」していたことになる。しかし並木先生の調査時点で、すでにSさんは消息を絶ってしまっていた。そのため、Sさんの故郷がどこだったのかは、いまだ謎のままである。
いったい怪人トンカラトンは、どこでどのように誕生した怪人なのだろうか?
オカルト探偵を名乗る私としては、とにかくSさんの行方を捜すべきだろう。消息不明の人捜しなんて、まさに「探偵」らしい業務ではあるが……この捜査は難航を極めた。
まず並木先生に質問してみたところ「当時の取材資料は残っていないが、本に記載した情報がすべてのはず」とのこと。確かに10年も前のことではあるし、膨大な調査のひとつひとつを細かに覚えてはいられないだろう。
であれば、新たな手がかりを得るには「版元」にあたるしかない。
次に私がコンタクトをとったのは、出版社の竹書房だった。
よく誤解されるが、『花子さん』は「ポンキッキーズおよびフジテレビのスタッフが制作したアニメ作品」というわけではない。株式会社アミューズの主導により、最初からアニメ・ゲーム・書籍を発表する体制で進められた、いわゆるメディアミックス作品なのだ。
並木先生のいう「版元」とは書籍版『花子さん』を出した竹書房のこと。トンカラトンの出てくる第1巻の刊行は1994年8月11日(発売は1日)で、アニメ放送開始(同月15日)よりも前となる。意外に思われるだろうが、トンカラトン初登場はアニメではなく、竹書房の書籍だったのだ。
そして知人の竹書房編集者から紹介してもらったのが、辻井清さん。『花子さん』については、竹書房チームリーダーとして企画当初から参加していた人物である。
しかしZoom取材を開始した直後、辻井氏から発せられたのは次のような言葉だった。
「結論からいうと、Sさんという人間は、竹書房チームにはいませんでした」
並木先生と当時の担当者との間で、情報の齟齬があったのだろうか。これで捜査ルートは潰えてしまったか……意気消沈する私だったが、まだトンカラトンへの糸は完全に切れてもいないようだった。辻井氏は続けて、こんな『花子さん』発足の裏話を語ってくれたのである。
「『花子さん』制作にあたっては、まずアミューズ内の制作チーム(アニメ・ゲーム制作スタッフ)で、都市伝説のネタ出し会議を行いました。というのもオリジナルキャラだと、逆に『それは私の創作物だ』という、思わぬ問い合わせを受けるかもしれないからです。そのネタ出しスタッフ内に、Sさんに当たる人物がいたのかもしれません。当時の『花子さん』制作チームは完全解散してますから、フリーの人と連絡がつかなくなったいても、おかしくはないでしょうね」
「そうした経緯なので、トンカラトンが完全創作ではなく、スタッフのだれかが故郷で聞いた噂ばなし、どこかの地域にあった都市伝説だった……という可能性は、あると思います」
なるほど。Sさん実在の見込みが残ったことは朗報である。しかし同時に、メディアミックス作品ならではの複雑な制作過程が、トンカラトン伝説の発祥をわかりにくくしてしまっているのも事実のようだ。
「会議で出た都市伝説ネタをまとめたのが、原作の森京詞姫さん。私たち竹書房については、キャラクターデザインのための漫画家を紹介してほしい、と打診されました。その代わり竹書房で本を出してもいいよ、という条件ですね。そこで私たちのスタッフで、『花子さん』のキャラを描くための漫画家さんを、全員セッティングしたわけです」
トンカラトンを担当した漫画家は内田かずひろ(『シロと歩けば』竹書房刊など)。アミューズでの会議で出されたネタがどんな内容だったかは不明だが、文章を読んだ内田氏が「全身包帯で片目と口だけ出し、日本刀を背負い、自転車に乗っている」トンカラトンの映像イメージを創り出した。
「あのデザインが、よかったんですよね。キャラクターとして有名になったのは、内田さんの手腕もあるでしょう。あと、これは余談かもしれませんが……」
ここで辻井氏が、また新たな所見を示してくれた。
「……内田かずひろさんが九州男児というのも、おかしな偶然だなあ、と」
今回の取材に先立ち、辻井氏も怪人トンカラトンについて当時のスタッフにいろいろと訊ねてみたらしい。そこである知人から「昔の九州地方で、戦(いくさ)の時のかけ声として使われていた言葉だった」との情報を得たそうだ。
「内田さんも福岡出身だし、トンカラトンに関連するものが、なぜか九州で繋がってしまうなと思ったんです」
確かに、この偶然は興味深い。九州地方で似た語感のものとしては、他に「トンカラリン」がある。熊本県にある謎の洞窟で、松本清張が「邪馬台国・卑弥呼の鬼道(宗教的儀式)に用いられた地下道ではないか」と紹介した、なかなかオカルティックなスポットだ。「トンカラリン」の語源については、ハングルで洞窟を表す「トングル」から来ているとも、古代朝鮮語で「天帝」を指す言葉だったともいわれる。歴史的に朝鮮半島となじみ深い、北部九州エリアならではの説だ。
となると、一文字違いである「トンカラトン」という言葉も、同じような語源から発している可能性はある。問題のSさんの故郷が、もし九州北部だと判明すれば、この仮説も補強されるのだが……。
ともあれ、『花子さん』からトンカラトンへと通じるルートは、このあたりが行き止まりのようだ。
Sさん捜索は今後も継続していくつもりだが、『花子さん』関連の調査は、ここでいったん脇に置くことにしよう。次回はまた別の角度から、トンカラトン出生の謎に迫っていきたい。
日本の都市伝説や現代怪談が、いかにしてトンカラトンへと繋がっていったのか。幾つかの怪人からあぶりだされる、トンカラトンの背景とはなにか。それらの考察については、次回をお待ちいただきたい。
吉田悠軌
怪談・オカルト研究家。1980年、東京都生まれ。怪談サークル「とうもろこしの会」の会長をつとめ、 オカルトや怪談の現場および資料研究をライフワークとする。
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