一本足の神像「夔(キ)」が7年に一度の御開帳! 山梨岡神社に祀られる鬼面の雷神の正体/鹿角崇彦
山梨県に、7年に一度しか公開されない謎の神像を祀る神社がある。鬼のような顔で一本足、雷を封じるというその神の正体とは……?
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日本全国のただならぬ神仏像を探索する「神仏探偵」の新刊『怪仏異神ミステリー』より、とっておきの神仏像とその謎を解くリポートを特別に公開!
天刑星像(埼玉・上願寺)
見たことがない像である。だが目が釘付けになる。
両手の第2指を胸前で立てる不思議な印相、緑の肌色、背中から生えた色鮮やかな翼、頭上に戴く(鬼を思わせる)牛頭。こちらを凝視する吊り上がった眼。
近年修復が施されたというが、もともと江戸期以前にさかのぼる古いお像ではないようだ。何ともミステリアスな像容で、ダークヒーローを思わせるその風貌は、スタイリッシュですらある。
翼をもつという点では、各種天狗像やイズナ明神(権現)、秋葉権現などが思い浮かぶが、だいぶ印象が異なる。まったく類例が思い浮かばないが、それもそのはず、所蔵する上願寺の藤川住職も、「これをお祀りするのは、日本中でもウチだけではないか」という。
ともあれ住職は、師匠にあたる祈祷僧の羽田守快師より本像とその供養法を写したテキストを伝授されたのだという。
師から伝えられたその尊名は、「天刑星」だった。
その不思議な像容には典拠があった。あらゆる諸仏・諸神の図像を網羅した江戸時代の『仏像図彙』に、「天刑星」として同様の図像(手印は異なる)があり、「簠簋(ほき)ニ云(う)、牛頭天王(の)前身也」と書かれていた。
ここでいう「簠簋」とは陰陽道の聖典のことで、牛頭天王とは、京都八坂の祇園祭の主祭神として知られる疫病除けのカミである。あえてカタカナでカミというのは、牛頭天王が神道とも仏教とも陰陽道とも融合する混淆神だからだ。
すなわち、神官は牛頭天王をスサノオと同体といい、仏僧は薬師如来の権化(垂迹)といい、そして陰陽家は、天をつかさどる天道神とリンクさせ、天罰を下す神・天刑星と同一視した――といわれている。
なお、羽田師が主宰する金翅鳥院のブログには、「天刑星は天の刑罰、すなわち星の災いだ。それが天刑星だ。だから星の災いは何によらず天刑星を拝めばいい。地に降りては牛頭天王。八方八位の災いを除くのは牛頭天王だ」とある。
一般にはあまりに馴染みのない世界だが、とりあえず、天にすまう星神ゆえに翼をもち、牛頭天王と同体(あるいは前身)であることを標示する牛頭を戴いているお姿なのだと理解しておこう。
中国の道教とその日本的展開である陰陽道の星神観では、天刑星は歳星(木星)と同じく暴れん坊の悪神であるという。
藤川住職はいう。
「その供養法が書かれた『天刑星供』によれば、病難をもたらすのは天刑星、男女の愛敬を妨げるのも、父母への孝養を妨げるのも天刑星だと。要するに諸悪の根源が天刑星だから、一切の願いを叶えたければ、天刑星を供養せよと書かれているんですね」
なお、羽田師の流派(天台寺門宗)は、道教と陰陽道のエッセンスを取り込んだ宿曜占星術を伝えており、藤川住職の上願寺では、天刑星はその人の生年月日時より算出された星の位置にもとづく、大凶運期(破門殺)の災い除けの祈りに用いられている。
ともあれ、悪神なのになぜこんなにスタイリッシュなのか。
そんな素朴な疑問を羽田師に問うてみたところ、「日本のカミ信仰はだいたいそういう構図でしょ。祟りや災厄をもたらすパワーのある神を崇め、なだめ鎮めて善神にする。この天刑星像は、いわばアニメの『デビルマン』みたいなものですよ」とのこと。
なるほど――かのテーマ曲で歌われる「悪魔の力、身につけた」神を、「正義のヒーロー」(同作のテーマ曲)に祭り上げたお姿がこれだったのだ。
ちなみに、この星神と結縁するための秘呪(真言)は以下のとおりだ。
「オン・バタクタ・アダウンシッチ・アギテイ・ウンウンソワカ」
本田不二雄
ノンフィクションライター、神仏探偵あるいは神木探偵の異名でも知られる。神社や仏像など、日本の神仏世界の魅力を伝える書籍・雑誌の編集制作に携わる。
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