封印された「身代わり人形」の怪/吉田悠軌の怪談解題・呪物編
「呪物」の代表格として挙げられることも多いのが、人形だ。ヒトガタというルーツをもつそれは私たちの分身であり、ゆえにさまざまな不思議な出来事を必然的に招きやすいものなのだろうか。
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杉浦浩二 愛知県
若いころに体験した雛人形にまつわる話です。
仕事帰り、車を運転していた私は道端に何かが転がっていることに気づきました。見れば土雛です。土雛とは、粘土を型で抜いて焼き、泥絵の具で彩色した素朴で温かみのある伝統的な人形のことをいいます。
転がっていたのは1体だけ。かわいそうになり、持ちかえりました。
帰宅後、土雛をタオルで拭きながら眺めていたときのことです。突然、部屋に母が入ってきました。
「そんなもの、いったいどこから持ってきたの!?」
悲鳴に近い声で母がいいます。
「拾ったんだよ。落ちていたから」
ありのままを話したところ、「とにかく捨ててきなさい!」
母が手をかけようとしたので、私は土雛を母から遠ざけました。
「しばらくの間だけだよ。少しの間、飾ったら元の場所に戻してくるから」
私の言葉に安心したのか、母は部屋を出ていきました。
当時の私は市役所の土木課に入りたてで、先輩とペアを組んで仕事をしていました。先輩は年配者のため力がなく、力仕事は私の担当でした。
その日もふたりで鉄板を運ぶ仕事をしていましたが、
「ああ重い! ! もうダメだ」
その言葉の直後、先輩が持っていた鉄板が僕の右足の上に落下。あろうことか骨折してしまいました。
1週間の入院期間中にお見舞いに来てくれた母が口を開きます。
「自転車に乗っていたおじいちゃんが車と衝突しちゃってね」
「えっ!? じいさん、大丈夫?」
「右足を負傷したけれど、それ以外は大丈夫」
1週間後、退院して家に戻ると、祖父は右足に包帯を巻いていました。
ちょうどそのとき電話が鳴ったので急いで出ると、相手は父でした。
「今、病院でな。迎えにこれんか?」
「ダメだよ。俺、まだ右足使えんから運転できんもん」
「実は斧が足に刺さってな」
大工である父が斧を使っていたところ、うっかり斧を落としてしまい、右足に刺さったのだといいます。
どうにか自宅に帰ったものの、依然、出血が止まらず、30 分ごとに包帯を替えていました。
そのときです。高校生の妹が右足をひきずって帰ってきました。
「どうしたんだ?」
そういう父の姿を見て、
「お父さんこそどうしたの? 私は学校の階段から転げおちて右足を捻挫しちゃったの。痛くてたまらない」
“また足か。しかもみんな右足だな”
翌朝、母の叫び声で目を覚まし、台所に飛んでいくと、母の右足に包丁が刺さっています。母は救急車で病院へ搬送され、1週間ほど入院することになりました。
母を見舞ったときのことです。
「雛人形は捨てた?」
「まだ家にあるけど」
「一刻も早く捨てなさい! !」
こんな会話がありました。
そういえば、土雛を拾ってから災難つづきであることに気づきました。
帰宅後、土雛を手にし、車に乗りこみました。そして拾ったところまで車を走らせ、もともとあったところへ置きました。
母が退院するころには僕の右足は完治し、祖父の足の傷も回復。妹も元気に通学しています。
土雛と家族の右足の負傷との関係は不明です。ただ、土雛を手放したことは正解だったと思っています。

(本投稿は月刊『ムー』2026年07月号より転載したものです)
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