1979年「ムー」誕生とオカルトポップ王仁三郎の発見/ムー前夜譚(4・完)
70年代の大衆的オカルトブーム最後の花火として1979年に打ち上げられた「ムー」。ではそもそも70年代に日本でオカルトがブームとなった背景は? 近代合理主義への対抗が精神世界という言葉以前の現実問題だ
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日本宗教界の巨人、出口王仁三郎が口述筆記によって残した『霊界物語』は、35万年前の超古代神人の物語から、50世紀の未来予言までがしたためられているという。 王仁三郎の目には、いったいどんなヴィジョンが映っていたのか?
大本教2代目教主・出口王仁三郎の唇がゆっくりと動きはじめた。文机の前に坐る信者が、”聖師”の口から紡ぎだされる一字一句を真剣な面持ちで筆録していく──。
日本霊学史上に摩天楼のごとく屹立し、古今東西を見渡しても世界最大級の奇書として評価される『霊界物語』の初発の一文が記されたのは、大正10年10月18日、京都府綾部松並の松雲閣においてだった。

以後、粛々とした作業はおよそ5年後の大正15年7月1日まで断続的に行われて72巻が完成。さらに昭和8年10月4日から翌9年8月15日にかけて、続編の『天祥地瑞(てんしょうちずい)』9巻が口述筆記された。全81巻83冊。400字詰原稿用紙に換算すると、じつに2万5000枚という膨大な量である。
ちなみに比較文学者の四方田犬彦(よもた・いぬひこ)は、唯一の競争相手として古代インドの叙事詩『マハーバーラタ』をあげたあと、驚嘆の意を行間に滲ませながら、こうつづけている。
「(『マハーバーラタ』が)ほぼ8世紀という長い時間を経て、幾層にも重ね合わされるように形成されたのとは対照的に、『霊界物語』は単一の作者の手によって、わずか5年ほどの短期間に大部分が物語られたものなのだ」

驚愕すべきはボリュームだけではない。口述の速度も尋常ではなかった。要した総日数はおよそ400日。1巻が平均で3日、なかには2日で口述された巻もある。むろん、テープレコーダーはまだ発明されておらず、速記ではなく正字を用いて筆録しており、手書きの速度は遅々たるものだった。にもかかわらず、そのペースに合わせながら、1巻400字詰約300枚の内容を2~3日で口述したのである。
口述の様子も型破りだった。通常はごろりと横になり、30分ほどかすかな鼾(いびき)をかいて眠る。覚醒したあとは横たわったまま、あるいは胡坐(あぐら)を組んで口述をはじめる。
口述が長時間におよんで疲労がたまると再び眠る。目覚めると、筆録者にどこまで話したかを尋ね、筆録者が最後の1~2行を読みあげると、すぐさまつづきを口述するという具合だった。

しかもいい直しはいっさいなく、蚕(かいこ)が糸を吐きだすように一定のペースを守ってよどみなく語りつづけた。それは脳内で構築した物語ではなく、神憑(かみがか)り状態(トランス状態=変性意識状態)に陥った王仁三郎の躰(からだ)を中継して流れだす霊界情報だった。
王仁三郎は日常生活においても慢性的な神憑り状態にあった。感覚器官が自在に霊界と交流できるまでに質的変化を遂げている状態だが、普通人には見分けがつかない。だから、筆録者はしばしば奇妙な光景を目撃してもいる。
たとえば、話題が北極や南極などにおよぶと、真夏でも寒さを訴えてぶるぶると震えるので、炬燵(こたつ)を用意させたり、焼きゴテを躰に当てさせたりした。逆に熱帯の場面になると、真冬でも全身から滝のように大汗を流すので団扇(うちわ)であおがせたという。身は現界にありながら、霊魂を霊界の極地や熱帯に移して口述していたのである。

かくて世に出た『霊界物語』は、「霊主体従」(1~12巻)、「如意宝珠」(13~24巻)、「海洋万里」(25~36巻)、「舎身活躍」(37~48巻)、「真善美愛」(49~60巻)、「山河草木」(61~72巻および特別篇)、「天祥地瑞」(73~81巻)に分類されている。
『霊界物語』はむろん大本教の至高の経典だが、では、そこにはいったい何が書かれているのか。
スタイルはだれもが読めるように神代を舞台とした一種の大河小説の形式を採っている。だが、王仁三郎は言霊(ことだま)学を駆使して二重、三重、四重……と重層的に密意を封印しているため、解読は非常な困難を伴う。
しかも王仁三郎がいう霊界とは、たんに死後の世界や神霊界を意味するのではない。時空を超越して通底し、なおかつシンクロしている三界、すなわち神界・幽界・現界の総称である。つまりは、あらゆる時空間の過去・現在・未来にわたる全記録=アカシック・レコードを余すところなく移写したのが『霊界物語』なのだ。
したがって、読み方によっては35万年前にはじまる太古以来の神々の闘争・経綸(けいりん)を書き記した超古代史になり、予言書として見れば50世紀の未来までを見通した究極の黙示録あるいは神々の経綸プログラム文書となり、さらに視座を変えれば言霊学や神道霊学の奥義書ともなる。いうなれば、読者の求めるものに応じて千変万化するわけで、その解釈は120通りあるといわれる。

そうした謎多き大著だけに、限られた紙幅で全貌を説くのは不可能に近いが、ここでは神々の壮大なドラマの一端を簡単に紹介しておこう。
はるかな太古、国祖神クニトコタチは高天原(たかまがはら/現在のトルコ)に神都を築き、”霊”を主とし”体(肉体、物質)”を従とする「霊主体従」政治を敷き、全世界はクニトコタチに任命された12柱の国魂神によって統治されていた。
その時代、国祖神以外にも強力な神がいた。なかでも太陽神界から現在の中国北方に降った盤古(ばんこ)大神、天王星から北米の地に降った大自在天は悠久の歳月を経て次第に勢力を拡大していった。一方、天地の邪気が凝り固まって、地球の各地に邪悪霊が生まれた。
ロシアには八岐大蛇(やまたのおろち)が発生して各地の国魂神や盤古大神配下の神々に取り憑いた。インドには金毛九尾(きんもうきゅうび)の悪狐が発生して女神に乗り移った。ユダヤの地にも邪鬼が発生して妖魅界の盟主の座に就こうとした。
ために地上神界は乱れ、邪気に憑かれた神々は国祖神の政治を批判。ついに盤古大神を担いでクーデターを起こし、国祖退位を余儀なくされたクニトコタチは、地球の艮(うしとら/東北)の地である日本に隠退する。
その後、盤古大神一派と大自在天一派が覇権闘争を展開し、勝利した盤古大神は肉体・物質中心の「体主霊従」政策を推し進めたが、大自在天一派が勢力を盛り返して抗争が再燃し、地上神界は暗黒の時代を迎える。
地上の乱れに心を痛めるクニトコタチはノダチヒコと改名して天教山(富士山)に現れ、妻神のトヨクニヒメはノダチヒメと名を改めて地教山(ヒマラヤもしくは皆神山)に現れた。
両神が宣伝使を各地に派遣して改心を説かせた結果、盤古大神と大自在天は帰順したが、ニセ盤古大神のウラルヒコは従わず、地上神界は567日におよぶ大洪水に見舞われ、巨大地震も起こって地軸が大きく傾いた。
このとき、ノダチヒコとノダチヒメは宇宙の根源神たるオオクニトコタチに贖罪(しょくざい)を祈願し、天教山の噴火口へ身を投じ、地球滅亡の危機は回避された。
かくて太古の地球は更新され、泥海と化した。そこでオオクニトコタチはイザナギとイザナミの2神を降臨させ、大洪水後の地球の修理固生と、『古事記』に記されている「国生み・神生み・人生み」の神業を進めさせた。
だが、ウラルヒコは自分が唯一神であるとする大中教をアルメニアで立教し、地上は再び邪神の荒ぶる世と化す。そこで、地上神政を行うイザナミを輔佐すべく、艮の金神は五大教、坤(ひつじさる)の金神は三大教を興し、両教合一して三五教が誕生する。
次いで天教山の主神コノハナサクヤヒメの後押しのもと、イザナミが神政の中心となり、イザナギの御子・日の出神が世界各地に巡行して魔軍と戦いながら神教宣布を行った。魔軍との戦いは熾烈(しれつ)を極めたが、黄泉島(ムー大陸)中央の黄泉比良坂の戦いで決着し、神軍が勝利を収める。
戦後、神軍は世界の中心であり、万国の聖域でもある日本の天教山に凱旋。イザナギは天教山麓の青木ケ原で禊(みそぎ)を行った。このときアマテラスとツキヨミが顕現する。
イザナギは、アマテラスに太陽界の主宰、ツキヨミに太陰界の主宰を命じ、トヨクニヒメ(ノダチヒメ)の身魂を神格化してスサノオと名づけるとともに地上神界の主宰を命じた。
ここに、『霊界物語』の主人公たるスサノオがようやく登場し、世界救世の大神業が開始されるのである。
ごく荒っぽく振り返れば、①国祖の神政時代、②国祖隠退における日本の神隠し、③大陸中心の体主霊従時代、④イザナギの時代、⑤スサノオによる神業の時代、という流れになる。中軸をなすのは⑤で、72巻のうちの第11~第72巻が充てられている。
記紀神話では、スサノオは皇祖神アマテラスと争う立場で描かれているが、『霊界物語』ではスサノオこそが宇宙主宰神の顕現であり、救世主であると説かれる。そしてそのスサノオの神業が成就したあかつきに「ミロクの世(理想世界)」が到来する、というのである。
ただし『霊界物語』は完結しているのではない。幽の世界を描いた奥義書といわれる『天祥地瑞』は別編と考えるべきで、物語の本編は第72巻で幕を閉じるが、何の結論も記されていない。スサノオの経綸を妨害する金毛九尾の悪狐が正体を現して飛び去っていく場面で終わっているのだ。
つまり、スサノオによる世界救世の大神業は巨大な螺旋構造を描きながら、ほとんど永久につづいていく。しかも大きな渦巻きのなかにミニ・ストーリーが小さな渦を巻きながら織り込まれており、舞台も世界から日本へ、日本から世界へと自在に移り、その地域はヒマラヤ、エルサレム、アルメニア、モスクワ、イラン、イラク、アメリカ、ブラジル、アルゼンチンにおよんでいる。
加えて、その内容は神界・幽界・現界の三界にわたって無限に交錯する霊的ネットワークが重層的に折り重なっており、安直にストーリーを追うことはできない。
物語を通して展開されるスサノオの大経綸を読み解くことは、すなわちわれわれの過去・現在・未来を読み解くことと同義なのであり、『霊界物語』が予言書(預言書)として高く評価される理由はそこにある。

以下、予言に的を絞って話を進めたいが、『霊界物語』に封印されている予言の解読は容易ではない。比喩や寓意、象徴に満ちた言葉のさらに深奥に、言霊や鎮魂帰神などの古神道霊学の系譜が脈打っているし、聖数や数霊の理論、旧暦に対する新暦の照応などを要する場合もあるからだ。
とはいえ、『霊界物語』の予言が驚異的なまでの的中率を誇っていることは、すでに多くの研究家が指摘している。
たとえば、第31巻の「ヒルの都の大地震」には関東大震災が、第56~第60巻に描かれる「テルモン山」をめぐる物語には、大東亜戦争時における旧ソ連の参戦、日本人戦犯の処刑、政治犯の釈放、海外からの復員、農地解放などの終戦前後の日本の姿が正確に提示され、連合軍司令官マッカーサーの進駐までもが暗示されている。



そのほかにも、植民地だった台湾の喪失、戦前の天皇体制の崩壊などの的中予言が続々と見出されているのである。
さらに驚くべきことに、王仁三郎の予言は彼が生きた近未来にとどまっているのではない。はるかな未来に起こった阪神・淡路大震災をも予言していたことが明らかとなり、研究家を慄然とさせた。
「東路の地のさわぎを余所にして静に浮かぶ淡路島山」
王仁三郎が神戸港から四国の伊予高浜港へ渡航するおり、淡路島沖合でこの和歌を詠んだのは旧暦の大正12年12月12日だった。
「東路の地のさわぎ」とは、3か月前に起こった関東大震災のことで、普通に解釈すれば、関東大震災の大騒動と大混乱をよそに、淡路島はまるで関係がないかのように静かに浮かんでいる、ということになろう。
だが、この和歌には驚くべき密意が封じ込められていた。王仁三郎は『霊界物語』第69巻の序に収録させたうえで、登場人物の末子姫にこう語らせているのだ。
「あなた(国依姫)の歌は後日になって拝読しますと、お歌がみな預言録になっております。近いうちに地震があるとおっしゃっているのですか……」
和歌が詠まれた日を新暦に直すと、大正13年1月17日。それから十二支を6巡りした72年後の平成7年1月17日に阪神・淡路大震災は起こったのだ。研究家ならずとも慄然とせざるをえまい。

『霊界物語』の大半は、今日なお未解読のまま放置されているといっていい。したがって、こうしたスポット的予言はわれわれが気づいていないだけで無数にあるだろう。ならば、東北地方の太平洋沿岸部に潰滅的被害をもたらした東日本大震災と福島第一原発の事故の予言もなされている可能性が高い。
しかも王仁三郎は「ミロクの世」が到来する前に、人類は「立替え立直しの大峠(おおとうげ)」を越えなければならない、と警告している。「大峠」とは一大カタストロフィーのことで、王仁三郎は小三災(飢饉・疫病・戦争)と大三災(天変地異)をあげている。
さらに無気味なことに、大本教には「型」の思想がある。大本に起こったことは、ある一定期間後に拡大版となって日本に、日本に起こったことはやがて世界規模になって現実の世界に起こる、というのだ。

東日本大震災と世界を震撼させた原発事故は「大峠」の予兆であり、注目を集めているマヤ暦の終焉をはじめとする2012年問題と関連しているのだろうか……。
●参考資料=「出口王仁三郎の霊界大予言」(不二龍彦/「ムー」101号所収)、「王仁三郎が予言した世界の終わりと神々の警告」(天地京/「ムー」127号所収)、「巨人出口王仁三郎の黙示」(武田崇元/「ムー」147号所収)、「救世主・出口王仁三郎の大降臨」(武田崇元/「ムー」301号所収)ほか
(月刊ムー2011年8月号初出)
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