馬のような頭部の大型シーサーペント! カナダの海棲UMA「キャディ」の基礎知識

文=羽仁 礼

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    毎回、「ムー」的な視点から、世界中にあふれる不可思議な事象や謎めいた事件を振り返っていくムーペディア。 今回は、北米の海で古くから目撃され、現代にいたるまで目撃が絶えない、正体不明の巨大水棲UMAを取りあげる。

    北米の海に出没する謎のUMAキャディ

     シーサーペントは、海で目撃される謎の巨大生物である。多くの場合、ヘビのように長い首や細長い胴体をもつことから、日本語で「オオウミヘビ」と訳されることもあるが、目撃報告によりその形状はかなり異なっている。

     そこで、未知動物学の草分けであるベルギーのベルナール・ユーヴェルマンなどは、一口にシーサーペントといっても、じつは爬虫類や哺乳類など9種類いると主張している。

     目撃の歴史は古く、紀元前8世紀のアッシリア王サルゴン2世がキプロス島に向けて航海中、地中海でシーサーペントを目撃したという記録も残っている。また紀元前332年、かのアレクサンドロス大王が、地中海に面するフェニキアの小さな都市国家ティールを攻めていた際、巨大な生物が海から現れるのを目撃したともいう。

     シーサーペントの生息域はほとんど世界中の海洋に広がっているようだが、その一種と思われるUMAが、カナダ西部のブリティッシュ・コロンビア州にあるバンクーバー島周辺で頻繁に目撃されており、地元では「キャディ」という愛称で呼ばれている。
     キャディという呼び名は、ジャーナリストのアーチー・ウィリスが命名したもので、この動物がバンクーバー島とブリティッシュ・コロンビア州の間にあるジョージア海峡や、バンクーバー島南部のキャドボロ湾で特に多く目撃されるということで、キャドボロ湾という地名にちなんだものだ。
     ブリティッシュ・コロンビア大学の海洋生物学者ポール・レブロンドと元カナダ自然史博物館館長エドワード・ブースフィールドは、キャドボロ湾とウィリスの名をとって「キャドボロサウルス・ウィルシ」という学名をつけており、こちらの呼び名も広まっている。

    キャディという呼び名をつけたジャーナリストのアーチー・ウィリス。

     実際には、キャディの目撃はブリティッシュ・コロンビア州の北にあるアラスカから南に隣接するアメリカ・オレゴン州の沖合まで、かなり広い地域に及んでいる。そしてその存在は、土着のネイティブ・アメリカンやアラスカのイヌイットの間でも知られていた。

     たとえばバンクーバー島東部にある細長い入江シドニー・インレットに住んでいたマウホウサット族は、こうした怪物を「ヒイトリーク」、ブリティッシュ・コロンビアの東海岸に住んでいたシーチェルト族の神話では「チェイン・コ」、ジョンストン海峡周辺に住んでいたコモクス族は「ヌクセ・レー・クワラ」と呼んでいた。

     また、水温が上がってくると、キャディはバンクーバーから北方へ移動するとも伝えられている。

    馬の頭にコブのある体

     20世紀最初の目撃事例は1905年、バンクーバー島北部にあるアダムズ川河口でサケ漁をしていた漁師が目撃したものとされる。このときの生物は体長1.8メートルほどで、頭部が爬虫類にそっくりだったという。

     1930年代になると、相次いで目撃報告が寄せられるようになった。1932年8月10日には、地元政府の職員ケンプ夫妻が、凄まじい速さで水面を横切る何らかの生物を目撃した。

    ケンプ夫妻の目撃情報にもとづいて描かれたキャディのスケッチ。1933年10月に地元のビクトリア・デイリー・タイムズ紙に掲載された。

     1933年、陸軍少佐ラングレーとその妻が、カザム島とディスカバリー島の間をセーリング中、波間に浮かぶオリーブ色の奇妙なコブを目撃した。

     1939年にはポール・ソワビーが30マイル沖で、海面から1.2メートルの高さに突きだした何かを見た。近づくと体長が12メートルほどもあり、大きな目をもっていた。

     その後も目撃は続き、1947年にはバンクーバー島西岸のエフィングハムで、森林監視員ヘンリー・シュワルツら3人が、岩礁に体を挟まれてもがいている謎の生物を目撃した。体長は約12メートルで、頭部は馬に似ていたという。

    1947年にバンクーバー島で見つかった死骸。キャディと見られている。
    1984年、ドーバー湾で遭遇した目撃者が描いたキャディのスケッチ。体長はなんと60メートルで、猛スピードで外洋に泳ぎ去ったという。

     1992年5月には、ブリティッシュ・コロンビア州の太平洋沿岸をセーリング中のビクトリア音楽大学教師ジョン・セロナと友人たちが、ヨットから15メートルほど離れた海面を悠然と泳ぐ巨大な生物の背中を見た。体長は約9メートルで、コブのような突起物がいくつもあり、やがて体を翻してボートから離れ、視界から消えた。

     こうした目撃の総数は、過去200年間で300件以上にも達しているという。

     各種の目撃談を総合すると、キャディの体長は、12メートルから21メートルほど。頭はしばしば馬やラクダに似ていると形容され、大きな目とはっきりした鼻孔がある。首は細くて長く、水面上にある程度の高さまで持ちあげることができる。背中にはいくつものコブが並ぶ。

    キャディの頭部のスケッチ。キャディの目撃情報数は300件を超えるが、「頭部は馬やラクダに似ていた」という証言が少なくない。

     胴体は円筒形で、多くの報告では一対の胸びれが確認されており、尾ビレはスペード型とも、ふたつに分かれているともいわれるが、水平についており、胴体を上下に動かして進む。しばしば頭に2本の突起が目撃される。

    クジラの腹から出現した正体不明の腐乱死体

     またキャディに関しては、その死骸が発見されたという報告もあり、幼体らしきものが捕獲されたこともある。

     キャディの死骸と疑われるものは、1937年に見つかった。
     このとき、クイーン・シャルロッテ諸島沖で、1頭のメスのマッコウクジラが捕らえられた。クジラはナーデン・ハーバーにある捕鯨基地に持ち帰られ、解体作業が始まった。ところが、その腹を割いたところ、半分消化されてほとんど骨ばかりとなった、正体不明の生物の死骸が出てきたのだ。
     それは大きな犬のような頭部、哺乳類のような脊椎をもち、尾は鯨のように1枚の軟骨から形成されていた。腐臭を放つこの死骸はしばらく解体場のすみに放置されており、その際写真も撮られた。しかし、放置している間に腐敗臭がますます酷くなり、魚の臭いには馴れている地元の漁業関係者も耐えきれなくなった。

    1937年7月、ブリティッシュ・コロンビア州にあるナーデン・ハーバーの捕鯨基地で、解体作業中のマッコウクジラの腹部から出てきた謎の生物の死骸。キャディではないかと考えられている。
    発見された死骸をもとに描かれたキャディのスケッチ。体長は3.2メートル程度と見られ、首の後ろの部分には突起が認められる。

     そこで、イリノイ州シカゴのフィールド博物館に提供されることになったのだが、以後の消息が知れない。公式記録では現地に運ばれたとされているが、今やどこにも確認できないのだ。 この死骸はナーデン・ハーバーの地名から「ナーデン・ハーバー物体(NHT)」と呼ばれている。

    別の角度から撮影されたナーデン・ハーバーのキャディ。

     幼体らしき生物が最初に捕獲されたのは、1968年のことだ。このとき、パイレーツ湾近くで操業中の捕鯨船の流し網に、奇妙な生物がかかっていた。船員が力を合わせて網を引きあげようとする中、しきりに身をくねらせ、もがき、絡んだ網が体に食い込んだ。

     その様子を見ているうちに、船員のひとりであったウィリアム・ハーグランは、「これはキャディの子どもだ」と閃いた。
     よく見ると下顎にはびっしりと鋭い歯が生え、背中はタイル状の硬いウロコで、下腹は柔らかそうな黄色いちぢれ毛で覆われている。体長は約40センチ。一対のヒレ状の足がちょうど肩のあたりから突きだし、尾はふたつに割れ、先端でヒレ状になっていた。

    キャディの幼体のスケッチ。体長は約40センチで、「尾はスペード形にふたつに割れ、先端部で細いヒレ状になっていた」という証言もある。

     デッキに引きあげられた生物は水槽に入れられてからも元気に動き回り、船員たちは中を覗き込んだ。水槽の中からこちらを見つめる目には、魚類にはない表情があった。
     その目を見ているうちに、船員たちは同情心が湧いてきて、水槽の扉を開けて逃がしてやった。キャディは素早く身をくねらせ、深みへ泳ぎ去った。

     1991年7月にも、ジョンズ島でフィリス・ハーシュという人物が、長さ60センチほどの赤ん坊のキャディを捕まえたと主張している。このときもハーシュはこれを逃がしてやったという。

     死骸が行方不明になったり、いったんは捕まえながら逃げられたという話は、UMAの物語にはよくあることだが、きちんと保存してあれば正体が判明したかもしれないと思うと残念な次第である。

    既知生物の誤認か? 正体を巡りわかれる議論

     一方、キャディの生息域とされるアメリカ大陸北部太平洋岸には、クジラやアザラシなど他の海洋生物も数多く棲んでいる。実際、バンクーバー島の沖合ではホエール・ウォッチングが盛んだし、アザラシやウバザメなども目撃されている。

     そこで、キャディの目撃報告とされるものは、こうしたさまざまな種類の海洋生物を見間違えたのではないかという否定説もある。

     1943年、ふたりの警官がジョージア海峡で馬のような頭をもつ大きなシーサーペントらしき生物を目撃したが、双眼鏡で確認したところ、並んで泳ぐ7頭のアザラシだと判明したことがある。アザラシたちの連なった動きが、1頭の生物のコブのように見えたのだ。

     謎の腐乱死体が海岸に打ちあげられた事例も、いくつか報告されている。1941年、ブリティッシュ・コロンビア州のキツラノ・ビーチで巨大生物の死体が見つかったが、こちらはサメと判明した。

     1950年にはオレゴン州のデレイクで、4本の尾と密な毛をもつ生物の死体が見つかったが、正体はジンベイザメだった。

     1956年には、アラスカ南部のドライ・ハーバーで全長30メートルもある死体が見つかった。最初は未知の生物の死骸かと思われたが、結局ツチクジラの一種とされた。

     1962年4月には、ウクルエレット近くで、全長4.3メートルほどのゾウのような頭をもつ生物の死体が見つかったが、これはキタゾウアザラシだと考えられている。

     そこで、前述のナーデン・ハーバー物体についても、その正体はウバザメではないかという説がある。

    キャディは写真のウバザメのような海洋生物を誤認したものとする意見も多い(写真=Wikipediaより)。

     しかし、キャディに学名をつけたレブロンドとエド・ブースフィールドは、数多く寄せられた目撃報告から、「キャディはシーサーペントの一種で、いかなる既知の動物でもない」と主張している。

    ブリティッシュ・コロンビア大学の海洋生物学者ポール・レブロンド(写真=GIFTS FilmsのYoutubeチャンネルより)。
    カナダ自然史博物館で館長を務めていたエドワード・ブースフィールド。
    キャディに関する論文をまとめたレブロンドとブースフィールドの共著『Cadborosaurus: Survivor from the Deep』。

     彼らは1992年12月のアメリカ動物学委員会でキャディに関する論文を発表し、カナダ西海岸に繁殖地があり、主に北太平洋に生息していると結論したが、ブースフィールドが温血動物と考えるのに対し、レブロンドは双方の可能性を備えた未知の生物とするなど、この点では意見を異にしているようだ。

     21世紀になってからも、キャディの目撃は続いている。2009年には、漁師のケリー・ナッシュがヌシャガク湾で流れに逆らって泳ぐいくつものコブを発見、これを数分の動画に撮影した。2016年にもフェリーの乗客が、ナナイモ付近で船の近くに水面から現れた長い首を目撃している。

     今後新しい発見がなされ、正体の解明が進むことを期待したい。

    ●参考資料=『未確認動物UMA大全』(並木伸一郎著/学研)

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