「サスクワッチ」怪談:カナダの奥地で遭遇した謎の臭いと息遣い/西浦和也・UMA怪談

文・イラスト=西浦和也 協力:吉田猛々(ナナフシギ)

    無気味な姿形の正体不明の謎の生き物UMA。UMAと遭遇し、恐怖の体験をした人は多い。忘れようにも忘れられない、そんな恐怖体験の数々を紹介しよう。

    農作業中、突然背後で獣臭と荒い息遣いが!

     数年前、S子さんが友人たちとキャンプへ行ったとき、一緒にキャンプファイヤーを囲んでいたA子さんからこんな話を教えてもらった。

     カナダ人の彼女が生まれ育った家は、カナダでは有名なウィスラーというスキー場から、さらに車で1時間半も行ったところにあるという。
     カナダでも山奥になるため、あたりには店や人家もなく、実家より奥地には未開拓の自然が広がっていた。
     彼女の実家はそんな中で農場を営んでいた。

     あるとき、両親か3日間ほど旅行で家を空けることになった。
    「出かけるなんて久しぶりのことだから、その間だけ実家に戻ってきて農作物の面倒を見てくれない?」と A子さんの母親から電話があった。
     老いた両親がふたりでやっている農場だ。3日くらいなら、自分ひとりでもやれないことはない。
     当時、両親とは離れ、別の場所で家庭を持っていた彼女だったが、夫と子供に家事を任せるとひとり実家へ戻った。
     両親は仕事の内容を伝えると、彼女と入れ替わるように旅行へと出かけていった。

     家の周辺を見渡すと相変わらず手つかずの原生林が取り囲んでいる。原生林の奥は黒い闇に包まれており、奥からは何が出てくるかわからない。
    「昔からここは変わらないわね」
     そういいながら彼女は、大きくため息をついた。
     昔から農場の周りは熊やクーガーなどが頻繁に出没する危険な土地で、昼間であっても周りに注意を払わないといつ襲われるかわからない。   
     しかし小さいころから農場で育った彼女は、鳴き声や臭い、足跡などでそれら野生生物の大きさや種類が判別でき、父親からある程度撃退法を教わっていたので、それほど恐怖心はなかったという。

     2日目の夕方。原生林のそばにある雑木林で、ひとり作業をしていると、突然背後で嗅いだことのない獣臭と荒い息遣いを感じた。
    「まさか、こんなタイミングで……」
     息遣いは彼女のすぐ後ろから聞こえる。
    「ハァハァハァハァ……」
     獣とも人とも区別のつかない荒々しい息。彼女は中腰のまま動くことができない。慌てて動いたり振り向いたりすれば、確実に襲われる距離で息遣いが聞こえる。
     息遣いが聞こえるのはおよそ2メートルの高さ。その位置から、グリズリーほどの大きさのものが後ろに立っているのがわかる。しかし、臭いと息遣いは明らかにグリズリーとは違う何か……。

    逃げようと決意した瞬間に気配が消えた

    「目を合わせてはいけない……」
     そう感じたA子さんは目を閉じ、じっと動かずにその生き物が立ち去るのを待つことにした。
     撃退するような武器も手元になく、襲われたら助からないと覚悟をした。
    ところがその生き物はそれ以上近づいてこない。
     次第に日は陰り、あたりはだんだんと暗くなっていく。
    「えい! ままよ!」
     一か八か逃げだそうと腹を決めたとき、スッと臭いと息遣いが彼女の背後から消えた。
     一瞬、間をおいて後ろを振り向くと、そこに広がるのはすっかり闇に包まれた雑木林と原生林のみで、そばには何もいなかった。
     少しの間があったとはいえ、足音もなくそんなに素早く離れる動物などいるわけもなく、一瞬で気配が消えるなど初めての経験だった。

     改めて怖くなったA子さんは急いで家に走った。今まで出会ったことのない息遣いと臭い。グリズリーとも違うあの息遣いの高い位置。そして何よりも素早く立ち去るその俊敏さ。いったいあれは何だったのか?
     家に入ると彼女は震えながら、留守を頼んだ家族に電話をした。しどろもどろになりながらも電話口で今あったことを夫に伝えると、「そりゃ、すごい! もしかしたらサスクワッチ(ビッグフット)かもしれないから、急いで戻って足跡を捜してきて!」と興奮した声で無慈悲なことを頼まれた。
     それを聞いて彼女は大きなため息をついた。

     翌日、謎の生き物と遭遇した雑木林に向かうと夫にいわれたとおり足跡を捜したが、それらしいものは見つからなかった。
     夕方旅行から帰ってきた両親に、A子さんが雑木林で遭遇した謎の生き物の話をすると、母親は夕食の用意をするといってそそくさと台所へ消えた。父親は否定も肯定もせず「うーん」と唸ったまま黙りこくってしまった。 
     明らかにふたりは何かを知っているに違いないと思ったA子さんは、しつこく父親に詰め寄ると「この土地にいた先住民の言い伝えを覚えているよな?」とだけいい、それはサスクワッチだと遠回しに伝えると再び口を閉ざしたという。

     かつてこの地にはサスクワッチがいたという先住民の伝説が残っている。サスクワッチは、アメリカではビッグフットともいわれ、身長は2メートル、体重は優に300キロを超える猿人のような生物である。全身は褐色や灰色といわれ、強烈な体臭を放っているという。
     先住民の間ではかなり前からその存在が伝えられており、1900年代中盤には多くの目撃例があり、1964年にはロジャー・パターソンとロバート・ギムリンのふたりによって8ミリフィルムに撮影されている。
     A子さんが遭遇したものが、父親のいうとおり本当にサスクワッチなのかはわからないが、彼女の実家の近くには古くからサスクワッチの目撃例もある。
    「なので私は今ではあれがサスクワッチだったと思うの」とA子さんは語ってくれた。

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    西浦和也

    不思議&怪談蒐集家。実話怪談の調査・考察を各種メディアを通じて発信。心霊番組「北野誠のおまえら行くな。」や怪談トークライブ、自身のYouTubeなどで活動する。

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