妙見信仰で読む本所七不思議と蘇りの呪物!『パラノマサイト FILE23 本所七不思議』考察
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突然ですが、現代を生きるわれわれには"死後の世界などは存在しない、または気にしていない"か、"天国への上昇か地獄への下降"といったイメージを漠然と抱いている方も多いのでは? 死後の世界は空の上か地面の底にあるのだと。
記紀神話においては、イザナミが死後に向かった国が黄泉であることからも、死者の世界="黄泉"と呼ばれる場所だろうと考えられてきましたが、この黄泉=根の国がどこにあるかについては諸説あり不明です。海の底、もしくは海の果て、同一平面上に存在する"常世"とイコールだとする考えまであるのです。沖縄のニライカナイなども常世に近い概念だと考えられており、中国道教の蓬莱思想もまた、こうした常世の概念に影響を与えているとも思えます。
今回ご紹介する『パラノマサイト FILE38 伊勢人魚物語』は、伊勢を舞台とした"人魚"と不老不死の伝承を巡るロマンあふれる物語が描かれる伝奇ミステリーゲームなのですが、伊勢といえば神道の中心である伊勢神宮が鎮座する土地。
神道で"常世"とは、われわれの暮らす"現世"と鏡像のように対を為す概念だと考えられてきました。常世は永遠の夜(常夜)の如き"不変なる永遠の世界"であり"現世"は千変万化しているこの世界。つまり、生=変化することであるように、常世は永遠で変化のない死の世界そのものなのです。
神道の祝詞では、死の穢れや罪過はすべて"黄泉"へと押し流すものとされます。死や罪が流れ着く地下または海の底、はたまた海の果ては、不変の死の世界というイメージを湛えているのです。

じつは本作では、"常世"を"龍宮"と関連づけて、ゲームならではの非常に興味深い表現がなされています。
浦島太郎のエピソードにある「海の底の龍宮の名は"常世"である」との記述に着目し、人魚がいる龍宮="常世"であると見立てて不老不死を巡る物語が展開するのです。
考えてみると、ゲームの世界はある意味で永遠不変。プレイヤーがどんなアプローチや選択をしようとも、それはすべてがゲームの中に用意されたもの、つまりは変わらない常世のようなもの……? 前作『パラノマサイト FILE23 本所七不思議』も、ゲーム世界と現実世界のプレイヤーの存在を考えさせる楽しさをもたらす作品でしたが、そもそもゲームの向こう側の世界は、われわれがどんなことをしても決して辿り着けぬ"彼岸"なのです。彼岸=死者の世界とするならば、ゲームの中の世界とわれわれの世界もまた、常世と現世の構造のような関係。本作をプレイするなかで、あなたも現世と常世の位置づけについて考えるときがくるかもしれません。
また、本作の物語には伊勢志摩の土地に根付いた人魚伝説や歴史が丹念に織り込まれているため、まるで伊勢の人魚ツアーを楽しむかのような心持ちになることでしょう。ムー民の皆様なら、作中で伊勢志摩に取材に訪れたオカルト好きな作家のアヴィとキルケの会話を無限に聞いていられること請け合いです。

詳細はネタバレになるので割愛しますが、本作ではとある呪いを解くために"鏡"を奉納するという儀礼が行われます。一説には伊勢神宮は、倭姫命が天照大神の神霊が込められた三種の神器のひとつ"八咫鏡"を奉納するために旅して最後にたどり着いた地であるとされています。その旅路で得た大神の神託の言葉こそが、作中でキルケ・ルナーライト氏が引用していた「この神風の伊勢の国は常世の浪の重浪帰する国なり。傍国の可怜国なり。この国に居らむと欲ふ」なのです。
伊勢の物語で鏡が重要な役割を示すという設定には、日本神話好きとしてはあまりの美しさに涙が出そう(真珠にはなりませんが)。どうにか彼岸を越境してゲームの中に入り込み、人魚のロマンに魅入られたアヴィ氏やキルケ氏とじっくり語らってみたいものです。

(本作のムー民度 ★★★★☆)
パラノマサイト FILE38 伊勢人魚物語Nintendo Switch/Steam/iOS/Android 配信中 2,480円(税込)
(月刊ムー 2026年05月号)
藤川Q
ファミ通の怪人編集者。妖怪・オカルト担当という謎のポジションで、ムーにも協力。
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