奈良県下北山「ツチノコ共和国」の国王が語ったツチノコ土産クオリティの謎/山下メロ・平成UMAみやげ
和歌山県にある「ツチノコ共和国」へ潜入! そこで見た平成レトロ的な光景と洗練されたグッズの謎を追う。
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現代日本で、魔女が増えている。メディアや創作の世界で認知度を高める「現代魔女」と呼ばれるムーブメントは日本でも着実に広がりつつあるのだ。世代の異なるふたりの「現代魔女」に取材を行ったオカルト探偵吉田は、そこに予想以上の深さと可能性をみた。
我々の周りで「魔女」が増えている。比喩的な意味ではない。魔術を駆使するあの「魔女」たちが、現代日本のあちこちで増え続けているのだ。
現在、一部の女性たち――なかには男性もいる――は自らを「魔女」と名乗り、自然崇拝や神秘思想の実践を日々繰り返している。そして冬至や春分やワルプルギスの夜には、どこかに集まり儀式を行っている……。
とはいえ、それらはもちろん現代社会を反映し、今の時代に変化を遂げた魔女術であり魔女宗であり魔女思想である。いわゆる「現代魔女」と呼ばれるムーブメント。オカルトに強いムー読者なら、この状況をご存知かもしれない。私の実感でもここ数年、知り合う人が「魔女」だというケースが幾度もあった。
そういえば近年の映画でも、よく「魔女」の文脈が参照されている。『ドクター・ストレンジ MoM』(2022年)、『サスペリア』(リメイク版、2018年)『ウィッチ』(2018年)または『ヘレディタリー』(2018年)『ミッドサマー』(2019年)……異教徒かつ異能力者の「怖い女」たち。その描写が正当かはともかく、彼女たちの存在感や解像度が増していることは、例えば『サスペリア』オリジナル版と比較しても明らかだろう。少なくとも英米では現代魔女が大衆カルチャーの一要素として認知されている。そして日本でもまた……。
まったく初心者の私が現代魔女について知るため、世代の異なるふたりの魔女――ヘイズ中村氏と円香(まどか)氏――に話をうかがってみることにした。まずは本誌でもおなじみのヘイズ中村氏から。
「現代の魔女たちは百花繚乱といえるほど立場はさまざまです。しかし共通しているのは、既存宗教のように教団をつくることはなく、お互いのやり方に干渉しないというスタイルですね。あとは基本的に、一年の季節の区切りである8つのサバト――それが無理なら4つのサバトを行っていきましょう、となってはいます。魔女術は昔風にいえば“オールドウェイズ”。三大宗教に潰された信仰形態または自然や土着のものを大切にしようという面が強いので。ただサバトにして薬草にしても、ヨーロッパと日本とでは風土が違うのだから、こちらは日本式でやるべきという考え方もあったり。とにかく各人に任されていますね」
伝統宗教のような上からの教義がなく、いわば「ひとり一宗派」であるとは、私も複数の魔女から聞いている。しかしいつ頃からそのような運動が始まったのだろうか?
「現代魔女は基本的に第二次大戦後、ジェラルド・ガードナーというおじさんが立ち上げた運動ですね。ヨーロッパではキリスト教の下に連綿と続く女神崇拝があり、そこに仕える魔女たちがいた、というのが彼の主張。ガードナー自身は1920年代くらいから魔女的な活動をしており、裸で踊る、儀式性交をする、入門儀式で鞭打ちをするなどはある意味、すべて彼が考えだしたものです。そうしたアイデアは、当時のウッドクラフト運動――自然に還れ、自然のなかで裸で踊ろうという潮流から持ってきた。これを軍隊式にしたのがボーイスカウトで、オカルト風味を混ぜたのが魔女です。あとは大先輩であるアレイスター・クロウリーに入門しているので、グノーシスのミサなども取り込んでいますね」
「魔女」の発端が男性だったとは意外だ。しかしいきなり、なにもない地点からガードナーが「魔女」を創設した訳ではないだろう。
「もちろんそうです。昔は女性がオカルト方面に参入しにくかったのですが、例えばゴールデンドーン(黄金の夜明け団)は女性を平等に入れて大きくなった。他にもイースタンスターなどのフリーメイソン亜流も女性を入れるようになり、だんだんオカルトの男女共同参画の下地ができていく。あとは巫女さんや占い師などの女性たちが字を学べるようになったのも大きい。それまでは口伝だけなので広がらなかったけど、文字が読めれば他の知識へ手を伸ばしていく。儀式魔術だったり、当時流行していた神智学や心霊主義だったり。それらがスープのように混ざり合うことで現代魔女術が出てきたのではないでしょうか」
そして戦後、イギリスの魔法禁止法がゆるくなったタイミングで、ガードナーが『今日の魔女術(Witchcraft Today)』を発表し、現代魔女運動が始まっていく。
「とはいえ50年代はまだ戦後すぐの保守的な時代ですから。60年代、少し豊かになったところでヒッピームーブメントが起こる。魔女術が大きく世間に広まったのはその頃ですね。ヨガ、禅、ドラッグ、自然に還れ、そして西洋の儀式魔術や魔女術が一緒になって出てきた。さらに70年代にはフェミニスト運動と魔女とがうまく合致した、という流れでしょうね。現代魔女の始まりが戦後とすれば、そこまでで20年ちょっと。まだ柔らかい運動だったのでなんでも取り込めたんでしょうね」
なるほど。一見、神秘主義的で世俗から離れたイメージのある「魔女」だが、社会の動向とずいぶん密接に関わっているようだ。
「魔術師とは、儀式や瞑想により宇宙との合一を目指すのが究極の目標です。魔女はそれと比べると少し異なり、自己向上は目指すけど日常生活を全て捨てない、環境に配慮し地球を大切にしましょう、と考える人たちが多いです。ほとんどが普通の仕事もしているので、社会の動向が考え方に強く影響してくるわけです」
「私の場合は、魔術師になりたい面もあったハイブリッド派。また私が魔女になった時代(※1980年代)には日本人の魔女なんて他にふたりか3人くらいで。参入儀式の際、“将来、社会が少しバランスを崩せば、あなたは磔(はりつけ)にされます。その覚悟はありますか?”と問われました。現代日本では考えづらいことですが、キリスト教圏で何十年も魔女を名乗っている人たちはそれくらいの覚悟があると思ってください」
重みのある言葉だ。ここ数年ほどで現代魔女の参入者は増えたようだが、ヘイズ氏はどう感じているだろうか。
「まあイデオロギーなのかファッションなのかという問題で……。魔女になりたいと思ってなってみても、そのうち親に反対されたり、恋愛相手に“そんなことしていたら親に紹介できない”といわれて辞めちゃう人もいる。オカルトの法則として、“100人が入ったら95人は去っていく”というのがある(笑)。魔女も今は数が多くなりましたが、95パーセントは去っていくだろうな、とは思います」
次に、新しい世代の魔女である円香氏にも話をうかがってみた。
「美大時代からフェミニズムと文化人類学には興味を持っていて。魔女に興味を持つ人は、アートを学んでいたり、民俗学や女性の歴史等に興味のある人も多いですね。自分がウィッチクラフトを調べ始めたときは、ヘイズ中村さんの講座を聞きにいったこともありますし、SNSで情報を調べたり、国書刊行会の魔女の世紀シリーズなどを読んでいました。」
さらに2018年、VR(ヴァーチャルリアリティ)とXR(クロスリアリティ)の滞在研修のためロサンゼルスに留学し、そこで西海岸の魔女文化に触れたという。
「ある日、それまで知識だけだったものが、多くの人と唄ったり踊ったり、火を囲む体験になりました。ロサンゼルスにはとにかく魔女がたくさんいて、お店もたくさんあって。なぜこんなに沢山の魔女がいるのかと驚きました。」
アメリカ西海岸の魔女文化は、イギリスの魔女文化とも大きく違い、異教主義やフェミニズム、エコロジー思想、アナキズム、反核運動、現代美術などさまざまなものと複雑に絡み合って爆発的に広がった経緯もあるそうだ。
「そんななか、もっとも影響を受けた人物はスターホークでしたね。サンフランシスコでソーウィンの日、スパイラルダンスという大規模なサバト(魔女の集会)に参加したんですが、数百人の魔女が手を繋いでぐるぐる踊りまわっている。このグループではこのような儀式が40年続いているのです。彼女が多くの人と実践している魔術というのは地球に根差したスピリチュアリティであるといいます。」
スターホークは「魔女」について調べると必ず出てくる名前だ。現代魔女は「ひとり一宗派」と聞いてはいたが、こちらはまた「連帯」や「アクティビズム」の側面が強い印象がある。
「スターホークが共同設立したリクレイミング(取り戻す)というグループがあって、私はそこでウィッチクラフトを学びました。魔女とは何かを考えるとき、2017年に日本でも翻訳出版された『キャリバンと魔女』(S・フェデリーチ)は是非とも読んでほしい本の一冊です。魔女狩りというのは、国家とキリスト教が結託をし、民間の女性医療家が持っていた知識、バースコントロール技術を目の敵にして産婆を魔女として吊るしあげた歴史であると著者はいいます。北米では1970年代にも『魔女・産婆・看護婦』の中で同様のことが書かれましたが、フェデリーチも魔女は資本主義に移り変わるなかで犠牲になっていった人々だと語っています。魔女狩りの犠牲者には男性も含まれましたが、8割は女性でしたので現在ではフェミサイドであると考えられています。
また、17世紀のセイラム魔女裁判では先住民が標的になっています。ご存じのようにアメリカでは中絶に関する問題が今現在も大問題になっていますが、キリスト教がマジョリティの社会の中ではウィッチクラフトにはそういった産婆や堕胎に関わるニュアンスが現在でもあり、魔女の文化はカウンターカルチャーなのです」
アメリカ西海岸のウィッチクラフト文化を語るうえでは70年代の女性霊性運動も避けて通れない。
「70年代のフェミニストウィッチ、魔女のレズビアンコミュニティーは自分たちの運動にもスピリチュアリティが必要であると考えた女性たちの「意識昂揚グループ」として草の根的に広がりました。彼女たちは女神を信仰したのですが、これらはフェミニスト神学の「女性のための神」が必要だと考えた女性たちともいえます。自分たちの個人的な経験を語り、過去から現在までずっと奪われてきた女性の言葉、声、身体、歴史を異教的想像力で取り戻そうとしたのです。
この時期のアメリカのゴッデスムーブメントはマリア・ギンブタスやロバート・グレーヴスの『白い女神』などに大きな影響を受けていて現代美術の世界にまでその影響は見られます。しかし、本質主義的だとこれらはフェミニズムのサイドからも批判を浴びていました。魔女、女神運動というのはフェミニズムから見ても周縁的なのです。
クィアのコミュニティーも多くあるカリフォルニアでは、エイズパニックを乗り越え、魔女コミュニティーにもお互い支え合って生きるクィアの魔女たちがいたと聞きます。現在はさまざまなジェンダー背景、セクシャリティ、人種の魔女たちがいます。このような事情もアメリカ西海岸のウィッチクラフトの世界が他の地域と比べてユニークな理由のひとつかもしれません。」
「ウィッチクラフトの世界にはさまざまな魔女や実践のスタイルがあり、そもそもウィッチクラフトというのは世界中のあらゆる文明のなかにありました。私なんかがひとまとめに語ることは絶対にできませんし、魔女の数だけ魔女のパスがあります。
魔女を自認する人たちは残忍な魔女狩りについて考え、その人たちはどんな人たちだったのかに思いを巡らせます。魔女にはさまざまな消された声、語られなかった声が投影されます。モダンウィッチクラフトの文化には魔女を演じ、彼らの知恵や実践を継いで語りなおそうとする先祖の復権的な側面や演劇的なアートの側面もあるのです。
ウィッカでない魔女もとても多くいます。SNSの発達で以前よりも情報は手に入りやすくなっているし、本を読むなどして魔女になった人が多いです。ほとんどの人が折衷派なのです。モダンウィッチクラフトの世界ではDIYは大切な要素です。
スターホークは“ウィッチクラフトはリクリエイトだ”と断言しています。これには“復活なんだ!”という異論があるかもしれませんね。自分が主宰する『未来魔女会議』では現代魔女運動の変遷を様々な視点から紹介していきたいと思っています。」
ではアメリカともまた違う、現代日本の魔女の流行についてどう思うのか。
「流行しているとは思っていないけど、少しずつ増えてはいますよね。最近では美術大学の講義をしたり、ウェルネスの視点から魔女文化についてお話ししたり、ファッションショーのアドバイザーなど、魔術や占い、オカルト方面ではない場でお話をする機会があります。
2019年の未来魔女会議では70人の方が参加してくれたけど、その後にコロナ禍がやってきて対面での儀式は出来なくなりました。コロナ禍ではZOOMのサバトや、日本でもVR空間の火山での集会をする拝火儀式、Discordで魔女の集会が開かれていたりと一気にテクノ異教主義の時代が到来しました。世界中でそんな試行錯誤がここ2年ほど行われました。
魔女文化はそもそもあまり可視化されるものでもなければ、元来は用心深く誰でも仲間に入れるという文化ではないですよね。もともと魔女のカヴンは13人しか入れないのです。また魔女の世界には秘密が多くあり、これが魔術に関連します。境界線の力といわれるものです。
そういう事情もあってもともと閉鎖的な文化だったのですが、それだとやはり初めての人が実践には至らず、本を読んで終わってしまうかもしれない。なので、新月と満月の日に都内に現れる「魔女のコンビニ」(イベントスペースでのポップアップ企画)ではたまにオープンなリチュアルを開催しています。情報交換や友達作りの場所です。いろんな世代の人とも交流出来たら嬉しいです。
魔女は儀式の終わりに「Merry meet and merry part, And merry meet again.」というんですが、どこからともなく集まってきて、歌をうたい、どこかへ散っていく。「一時的自律ゾーン」です。私はこの瞬間を大切に思っています。SNSで沢山魔女見習いさんを見かけるようになりました。今はネットで沢山情報が手に入るけれど、私はまず儀式をやってみるのをオススメしています。」
おふたりにインタビューしてわかったのは、「現代魔女文化は一目ではわからない」ということだ。この新たなオカルト運動は、予想以上の幅と深さ、そして可能性を持っているようである。
(ムー 2022年8月号掲載記事に加筆修正)
吉田悠軌
怪談・オカルト研究家。1980年、東京都生まれ。怪談サークル「とうもろこしの会」の会長をつとめ、 オカルトや怪談の現場および資料研究をライフワークとする。
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