臨死体験の新たな評価基準「vNDEスケール」登場! 信憑性を厳密に採点、科学的分析へ重要な一歩

文=仲田しんじ

関連キーワード:

    謎に包まれている臨死体験(NDE)だが、それらはどこまで信じられる話なのか? 新たな研究では臨死体験談の評価尺度が提示されている。

    「真実の臨死体験スケール」を開発

     2001年、オランダで心肺停止に陥った男性が奇跡的に意識を取り戻した。

     その“生還”から1週間以上が経ち、男性の蘇生処置を担当した集中治療室の看護師は、思いがけない出来事に驚愕する。この44歳の男性患者は臨床的に意識不明だった間、看護師が男性患者の入れ歯を外し、近くにあったカートのスライド式の棚に置く光景を見ていたと語ったのだ。

     その看護師は、たしかに自分がそうしたことを憶えていた。入れ歯の件を患者の男性に伝えたことはなかったのに、心肺停止中の男性は入れ歯が置かれた位置を正確に覚えていたのだ。

     同様の臨死体験談は少なくない。患者が医療スタッフ間で交わされた会話の内容を正確に憶えていたり、手術室の背の高い什器の天辺にスニーカーが置かれているのを見たと語り、実際に見つかったという事例もある。

     これらの驚くべき報告は総称して「真実の臨死体験(veridical near-death experiences:vNDE)」と呼ばれる。臨死体験者が臨床的に意識を失っていた間の知覚を後になって語り、その証言内容が事実であることが第三者によって確かめられる事例があるのだ。

    Sasin TipchaiによるPixabayからの画像

     まさに意識が肉体を離れたとしか思えないような話に驚くしかないが、冷静になるべき視点もある。こうした臨死体験談の多くは、患者が精神的に落ち着きを取り戻した頃、つまり、臨死体験から一定の期間が経った後に語られることが多い点だ。臨死体験者は意識的であれ無意識的であれ、残存する感覚や記憶の断片などから特別な記憶を“創作”できることになる。

     そこで研究者たちは、臨死体験の真正性を評価するための初の標準化されたツールを作成した。

     伊パドヴァ大学の心理学者で意識研究者のパトリツィオ・トレソルディ氏をはじめとする研究チームが昨年10月に「Frontiers in Psychology」で発表した研究では、臨死体験研究の第一人者13名と協力し、臨死体験の証拠の強さを評価するための初の標準化されたツール「真実の臨死体験(vNDE)スケール」を作成した。

     この「vNDEスケール」は、直感に頼るのではなく、患者が明らかに意識を失っていたかどうか、報告された知覚が独立して検証されたかどうか、通常の感覚的な説明が可能かどうか、詳細が間違っていたかどうかなど、8つの基準に基づいて各事例を4段階で評価する。

    「vNDEスケール」8つの基準

    「vNDEスケール」の8つの評価基準は具体的に次の通りだ。

    1. 調査のタイミング
    臨死体験が発生した時点から、臨死体験の真偽に関する調査が開始されるまでの期間。

    2.身体的な無反応状態(意識不明)
    医療スタッフによって報告された、知覚のタイミングとその時の状態。知覚が身体的な無反応状態の時に発生したかどうかを示す。

    3. 心停止または呼吸停止、あるいは脳活動の停止
    医療スタッフによって報告された、知覚のタイミングと関連する状態。知覚が心停止または呼吸停止中、あるいは脳機能の停止中に発生したかどうかを示す。

    4. 第三者による検証
    臨死体験者以外の少なくとも1人の信頼できる情報源(医療関係者やその他の信頼できる目撃者など)によって、知覚の正確性が検証されていることを示す。公表された証言、インタビュー、および/または医療記録などの情報源を通じて文書化されていること。

    5. 考えられる物理的説明
    その知覚の性質は、物理的な感覚的手がかりまたは論理的推論によって説明できるものであったかを示す。

    6. 確認された知覚の数
    身体的無反応期間中に、物理的環境内で知覚され、確認された人物、物体、環境特性、または出来事の数。これは直接的な環境(例:病院)でも、遠隔地(例:遠く離れた都市や家)でも構わない。

    7. 誤った知覚
    臨死体験中に体験者が知覚したと報告したが、後に不正確な知覚であることが判明した人物、物体、環境の特徴、または出来事の数を示す。

    8. 検証された知覚の明瞭さ
    体験者が報告した検証済みの知覚の明瞭さと、それらの記憶。

    ch BによるPixabayからの画像

    科学的NDE研究の“はじめの一歩”

     研究チームは、この「vNDEスケール」を、公表されている17の臨死体験事例に適用した。11名の専門家と3つのAI(人工知能)システムが、これらの事例をそれぞれ採点した。評価者は基準の正確性という意味で必ずしも一致したわけではないが、どの事例がより強力な証拠を提供し、どの事例がはるかに弱い証拠を提供しているかについては、概ね一致した。

     17件の事例のうち、総合的な証拠性(evidential)の強さが70%以上の事例は3件あった。また証拠性の4段階評価の隣接するレベルを組み合わせて合算した場合、17件中14件(82.3%)で75%を超える合意率に達している。

     ちなみに、最も証拠性が強いとされた事例は、心臓専門医のロイド・ルーディ氏が報告したNDEで、手術中に心停止状態になった患者が臨床的死亡期間中の医療チームの会話や行動を正確に描写した事例である。20分以上心拍も脳活動もなかった患者が、その後、自分に施された具体的な緊急処置について説明したのだ。

     もちろん、証拠性の強さがそのまま臨死体験の真正性を裏付けるものではないが、もし将来、最終的にその証拠性が揺るぎのないものであると結論づけられた場合、それは現代神経科学の中心的な前提の一つ、すなわち、すべての思考、記憶、意識体験は脳から生じるという前提を覆すことになるだろう。

     やはり意識は肉体を離れることができるのだろうか。

     科学メディア「Popular Mechanics」によれば、今回の研究には関わっていない米ニューヨーク工科大学の神経科学者ロバート・アレクサンダー氏は、この新たな「vNDEスケール」が重要な方法論的進歩であることに同意しているという。

     しかし、たとえ評価の高い事例であっても、それ自体が特別な証拠となるわけではないと彼は注意を促している。

     アレクサンダー氏にとって主要な懸念は、臨死体験のタイミングの問題である。その体験は、いったいいつ形成されたのか。脳が通常の意識を維持できない状態だった時なのか、脳が機能停止している時なのか、あるいは回復している時なのか。それとも、後になって記憶が断片的な感覚の手がかりをつなぎ合わせて首尾一貫した物語を作り上げたのか。

     研究で使用されたAIシステム(ChatGPT、Gemini、Mistralなど)でさえ、これらの疑問に答えることはできない。アレクサンダー氏によれば、これらのシステムは一貫した採点基準を適用することはできるかもしれないが、患者の記憶が従来の解釈を超えたなにかを捉えているのか、それとも単に脳が断片的な感覚情報を巧みに組み合わせて説得力のある記憶を作り出しているだけなのかを明らかにすることはできない。さらにAIはバイアスのリスクを排除するものではなく「しばしば人間のバイアスを模倣し、独自のバイアスも持っている」とも指摘する。

     とはいえ、アレクサンダー氏はvNDEスケールの可能性を完全に否定するわけではない。

    「厳密な検証に耐えうる事例は注目に値するかもしれない。厳密な観察結果が従来の解釈を覆す場合、われわれはなにかを見落としているに違いない。しかし、我々の理解にギャップがあるからといって、意識が生物学から切り離されて存在しているとは限らない」(アレクサンダー氏)

     もちろん、vNDEスケールは意識が肉体を離れる現象を証明するために設計されたものではない。あくまでも単一の印象的な詳細に頼るのではなく、複数の独立した証拠が同じ方向を指し示しているかどうかを検分するための評価基準である。

    「この尺度の目的は、従来の説明を否定することではなく、より突飛な説明を検討する前に、それらを可能な限り厳密に検証することにある」と研究チームのトレソルディ氏は述べている。

     トレソルディ氏は、研究者は説明が難しいように見えるという理由だけで、最も異常な事例を軽視すべきではないと指摘する。研究チームはそうした報告をほかの科学的主張と同じ科学的基準で評価するための尺度をひとまず開発したのであり、これは“はじめの一歩”に過ぎない。

     今回提案されたvNDEスケールは、今後の臨死体験研究をどう変えていくのだろうか。最終的には「意識のハードプロブレム」にも関わるNDE研究の今後の進展に期待したい。

    ※参考動画 YouTubeチャンネル「Oral Systemic Link」より

    【参考】
    https://www.popularmechanics.com/science/a71786452/test-of-near-death-experiences/

    仲田しんじ

    場末の酒場の片隅を好む都会の孤独な思索者でフリーライター。興味本位で考察と執筆の範囲を拡大中。
    ツイッター https://twitter.com/nakata66shinji

    関連記事

    おすすめ記事