ふたつの三角形で全宇宙を表す「六芒星」と魔術道士たちの表徴「五芒星」/秘教シンボル事典
賢王ソロモンが用いた徽章「六芒星(ヘキサグラム)」と人間自身を模した魔道の星「五芒星」についての基礎知識。
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占術や魔術、神智学で用いられるシンボルを解説。対立と合一を象徴する「ウロボロス」と回転運動によって安定と調和を描く「スワスティカ」について。
「われとわが尾を啖い、交合し、孕ませ、殺し、再生させるところのあの龍……ウロボロスはヘルマフロディトスとして、対立するふたつのものから成っているが、同時にまたこの対立物の合一の象徴でもある。それは一方では死をもたらす毒、バシリスクにして蝎であり、他方では万能薬であり救済者である」
20世紀最大の心理学者にして錬金術研究の泰斗でもあるC・G・ユングは、ウロボロスについてこのように述べている。
ウロボロスとは、自らの尾を呑み込む蛇もしくは龍の姿で示されるシンボルである。語源はギリシア語のouro(尾)とboros(呑み込む者)に由来。終端が発端と連結して完全な円環構造を成すことから、始まりも終りもない円運動、永劫回帰、無限、そして世界の創造を表す。
ヘレニズム時代の錬金術書『クリソポエイア』では錬金術作業それ自体がウロボロスによって図像化されており、その中心に「hen to pan」の文字が見える。これは「一にして全」の意味で、万物を生み出す第一質料〈プリマ・マテリア〉が同時に万物の完成である賢者の石でもあることを示している。
錬金術の教えによれば第一質料はまた人間それ自身である。すなわちウロボロスは、自らを呑み込み自らを円環のプロセスに変容させるという錬金術の思想を体現するといえる。
かくしてこの図像は、対立物、すなわち術者自身の無意識の影を自らと同化・統合することを表す鮮烈な象徴となった。
始点と終点の一致というウロボロスの形態は、『ヨハネの黙示録』において全能者たる神が自ら名乗っていう「私はアルファであり、オメガである」という言葉とも重なる。そしてユングは、キリストは神として自らを産み、自らを犠牲に供し、さらに聖体の儀式において自らの供儀を実行するという点でウロボロスと「寸分違わず一致する」ともいっている。
また、科学史の分野では、19世紀の化学者アウグスト・ケクレが、うたた寝の際にこのウロボロスを夢で見て、現代の石油化学文明を支える有機化学の基盤「ベンゼン環」の構造を思いついたという逸話がつとに有名だ。
スワスティカ(卍、卐)といえば、一般に日本では寺を示す地図記号、ヨーロッパではナチスのハーケンクロイツ(鉤十字、斜め向きの卐)が連想されるが、実際にはこのシンボルは人類の開闢にまで遡る極めて古いものであり、紀元前1万年に遡ると考えられるマンモスの牙に彫刻された作例が出土している。
この形は軸を中心に回転する運動を象徴化したもので、世界軸(アクシス・ムンディ)を中心とする地球の回転、あるいは北極星を中心とする天球の回転を意味していた。「スワスティカ」という言葉自体はサンスクリット語で「幸あれ」の意味で、吉兆、幸運を表す。
この記号は古代インドから小アジア、ギリシア、日本、果ては北アメリカに到るまで、ほとんど全世界に普遍的に分布している。初期キリスト教徒はこれをキリストの象徴として用いたし、古代北欧人ではトールの槌と同一視された。
このように元来は普遍的な記号であったスワスティカだが、19世紀になると、主として新興の比較民族学の方面からアーリア人の太陽の象徴と見做され、その遍在はアーリア人の移民と影響力の伝播を裏づけるものだとする学説が生まれた。ことに19世紀末以後のドイツでは、この象徴が「ゲルマン精神」を称揚し美化する風潮と結びつき、民族主義的な結社のシンボルとして用いられることとなった。これが後のナチスによるハーケンクロイツの採用に繋がる。
一方、かのブラヴァツキー夫人も、スワスティカを地球の自転を初めとする「調和を保ち、宇宙を安定した永遠の運動の状態に置く」求心的・遠心的な力の象徴であるとして、自らの〈神智学協会〉の印章にこれを採り入れた。神智学の運動がその後の人類の思想史に及ぼした隠然たる影響の大きさは今さらいうまでもないだろう。
当然ながら、神智学協会とナチスとの間には直接的な繋がりはない。だがナチスや神智学協会の事例は、人類の意識の根源にまで遡るような古いシンボルが魔術的意図と知識に基づいて使用されるとき、それが人類の意識の深層にいかに大いなる力を発揮するかを如実に物語っている。
松田アフラ
オカルト、魔術、神秘思想などに詳しいライター。
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