ダイコクさまは神か仏か? 英雄神オオクニヌシの変遷/江戸・明治神話絵巻
出雲神話、古代日本神話の主役といえばオオクニヌシ。大国主と大黒様に重なったその姿を辿る。
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土偶のモデルは人ではなく、植物の精霊だという新しい説が登場した。その根拠は何なのか、そして、縄文人が〈植物〉の精霊としての土偶に込めた思いとは何なのだろう。
今、一冊の本が大反響を巻き起こしている。本の題名は『土偶を読む』。人類学者の竹倉史人氏による著作である。題名のごとく、土偶のモチーフに関して、新解釈を提示した内容となっている。
土偶とは、縄文時代の日本列島で作製されていた土を焼き固めた像である。形態的には、手足を持った人ひと形がたを取るものを土偶と呼ぶが、その顔つきやスタイルは、人間とは似ても似つかないものが多い。
多くの土偶は、膨らんだ乳房やお腹を持っており、女性の生殖機能を強調している。このことから、土偶は妊娠女性や地母神像を表しているとする説が一般的である。故意に破壊された土偶があることから、安産や豊穣、繁栄などの願いを込めた信仰や儀式に結びついていると考えられている。
土偶にはさまざまな顔や姿かたちのバリエーションがあるが、これらは人間の特徴をデフォルメしたものとされ、土偶の表面の文様も縄文人の文身や衣服を表しているとされている。一般的には、土偶の文様や形が、人間以外の特定の事物と結びつくとは考えられていない。
ところが竹倉氏は著書の中で、これに真っ向から異を唱えている。土偶のさまざまな特徴は、彼らの食事、特に植物と結びつくというのだ。土偶は、人間を表しているものではなく、植物の精霊を表していると主張している。
植物の精霊というと、ナシの精「ふなっしー」を思い浮かべる読者も多いと思うが、いわば土偶は、縄文時代の「ご当地キャラ」というわけである。
つまり、人間をデフォルメしたものではなく、擬人化された食べ物が土偶だったのだ。
竹倉氏は著書の中で、さまざまな類型の土偶と植物の類似を詳細に比較し、土偶が縄文人の食生活に結びついていたことを明快に説明している。本の内容に沿って、順に見ていくことにしよう。
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縄文土偶にはいくつかの類型が存在するが、それぞれ対応する〈植物〉が異なっているという。まず第1章では、「ハート形土偶」といわれる類型群について検討を行っている。
ハート形土偶とは、東北地方南部から関東地方北部にかけて出土している縄文後期の土偶で、顔の形状がハート形の特徴を持っている。竹倉氏はハート形土偶について、次のような特徴も共通しているという。
❶ 眉弓(びきゅう)が顔面上部の輪郭になり、額がない。
❷眉弓と鼻筋がつながっている。
❸口がないか、ごく小さい。
❹顔面が緩やかな凹面になっている。
❺体表に渦巻き文様がある。
❻体表の縁に列状の穴文様がある。
これらのハート形土偶に共通する特徴をすべて説明できるのが、オニグルミの実だという。オニグルミは日本に自生する野生種のクルミで、硬い殻をふたつに割り、果実を取りだしたときの形は、ハート形となり、上記の❶〜❹までの特徴がすべてそろっている。
その見かけは見事にハート形土偶の顔と一致する。また、オニグルミの殻の表面には、渦巻き状の文様が縦に並ぶこともあり、殻の辺縁部には、列状の小さな穴も見られるというが、これは❺と❻の特徴と一致する。
ハート形土偶は東北地方南部から関東地方北部にかけての山間部、中山間部を中心に出土するが、ハート形土偶の出土分布域とオニグルミの生育分布域には高い近似性が見られるという。
これらの事実から、ハート形土偶は、オニグルミをかたどったフィギュアであるという。
次の第2章では、「合掌土偶」と「中空土偶」に注目している。合掌土偶とは、その名の通り、手を前で合わせ祈るような姿をした土偶である。縄文後期後半の土偶で、青森県八戸市の風張(かざはり)1遺跡から出土し、国宝に指定されている。
竹倉氏は、ここでも土偶の顔に注目している。合掌土偶の顔には、顔面のど真ん中を横断する線刻があり、その下部分には、方向が一定しない斜線によって複雑な文様が施文されているという。頭頂部には、髪を束ねたような尖端部があり、体の一部には特徴的なヘリンボーン文様が見られる。
中空土偶は、北海道の南茅部町で発見された縄文後期後半の土偶で、腰から脚部にかけて、ヘリンボーン文様が見られる。顔面の中央に横断線があることや、横断線の下面に、複雑な文様が見られるなど、合掌土偶と共通する特徴を多く持つことから、共通のモチーフを持つと考えられるそうだ。
では、これらの土偶は何の精霊なのだろうか? 答えはクリの精霊だという。クリの実の殻は真ん中よりやや下付近で、上下で完全にテクスチャーが分かれている。上の部分はツルツルで、下の部分はごつごつとしている。これが土偶の顔に表現されているのだ。
そして土偶頭頂の先端部は、クリの頭のとんがりを表している。土偶の体のヘリンボーン文様は、クリのイガを表現している。クリの実は、イガに包まれた状態で実るため、土偶の衣服として表現されているという。
クリは全国に広く分布するが、縄文人がクリを常食としていたことは定説で、縄文人の集落周辺からは栗林が見つかることが多い。少なくとも一部の縄文人は、栗林を人工的に管理していたとされている。
これらのことから、合掌土偶と中空土偶はクリの精霊をかたどったものだと考えられるそうだ。確かに類似性は明らかである。しかし、合掌土偶の独特な合掌スタイルを無視している点は気にかかる。何かこのポーズにも理由があるはずだ。
次に取り上げているのが「椎塚土偶」だが、こちらは今までとは若干異なった結果を導きだしている。一般的には、山形土偶と呼ばれるこのタイプの土偶の特徴は、UFOを連想させる三角山の形をした頭部である。
特徴的なので、似た〈植物〉があればすぐに見つかりそうだが、この土偶の頭部に似た〈植物〉は見つからなかったというのが結論である。では、この土偶は食用〈植物〉の精霊ではないのかというとそうともいえないようだ。
竹倉氏によると、椎塚土偶の頭部はハマグリを模しているという。確かに食用だし形も似てはいるが、〈植物〉ではない。しかし、縄文人にとってハマグリはクリと同類だったという。
ハマグリという名前が示すように、浜で採れるクリという認識だったらしい。硬い殻に包まれた食べ物で、山で採れるか、海岸で採れるかの違いがあ
るだけで、同じカテゴリーとして分類されていたのだ。
同じように、次章で取り上げている「みみずく土偶」もイタボガキと呼ばれる牡蠣の仲間をかたどっているという。イタボガキは、現在では絶滅危惧種に指定され、幻の牡蠣とされている。
しかし、みみずく土偶が多く見つかっている関東周辺の貝塚からはイタボガキの殻が多く見つかっており、縄文時代では比較的手に入りやすい貝だったようだ。比較写真を見てみると確かに、みみずく土偶の顔とイタボガキの形態は似ているが、同一と断言できるほどではないように感じられる。
第5章では、「星形土偶」を取り上げている。星形土偶とは竹倉氏が名づけた名称で、分類上は「みみずく土偶」と呼ばれている。しかし、みみずく土偶とは似ておらず、頭部を上から見ると星形に見えるため星形土偶として区別したという。
星形土偶も貝を表していると指摘しているが、こちらは二枚貝ではなく、アワビのように岩にへばりつくタイプの貝である。具体的には、オオツタノハという貝がモチーフになっているという。
しかしオオツタノハは、星形土偶が発掘された関東付近の海には生息していない。伊豆諸島南部や薩南諸島など暖かい海に生息する貝である。つまり、星形土偶を製作した縄文人が常食としていた可能性はなくなる。
だが、アクセサリーの貝輪に加工されたものが、星形土偶の見つかった余山(よやま)貝塚から発見されている。というわけで、この土偶は食べ物ではなく、貝輪として珍重された貝をモチーフに作製されたものだった。
余山貝塚からは、大量の貝輪やその破片が見つかっており、貝輪の一大生産地だったようだ。しかも貝輪製作のピークは、星形土偶が見つかった縄文後葉と時代的にも矛盾しないようだ。
次に取り上げているのは、「縄文のビーナス」と呼ばれる土偶である。
今から5000年前の縄文中期にさかのぼる土器で、甲信地方で見つかったものである。この土偶も、周辺で見つかった一連の土偶とまとめてカモメライン土偶と名づけている。
これらの土偶の特徴としては、顔の眉弓がカモメの羽ばたく姿に似ていることと、細い吊り目と鼻孔を持っていることである。そしてこの特徴は、トチの実の特徴と一致するという。トチの実もクリと同じように、殻がツートンカラーに分かれるが、分かれ目は直線ではなく、カモメの羽ばたきライン状になっている。
トチの実は、栄養価は高いもののアク成分を含むことから、現在では食用としての利用は限られる。しかし、縄文中期にはアク抜き技術が確立し、中期以降の縄文遺跡から大量出土していて、縄文人の貴重な栄養源となっていたようだ。これらの状況からカモメライン土偶は、トチの実の精霊で間違いないという。
続いて、第7章・8章で注目しているのが、結髪土偶刺突文(としとつもん)土偶である。
結髪土偶は、独特の頭部が髪を結っているように見える一群の土偶で、縄文晩期から弥生中期にかけての地層から出土している。
結論から述べると、この土偶の結った髪のようなものは、束ねられた稲わらを表しているらしい。そして土偶表面の文様は、稲穂や稲の細い葉、米粒などを表しているという。縄文晩期にはすでに稲作が行われていたので、こちらも状況的には矛盾しない。
刺突文土偶は、体に無数の小さな刺突文がある土偶である。時代的には結髪土偶とほぼ同じで、体の刺突文は、やはりイネ科の〈植物〉であるヒエをかたどったものだという。
ここまで本の構成に沿う形で、土偶と食べ物の類似性を紹介してきたが、最後に真打ちの登場となる。土偶といえば、だれもが真っ先に思い浮かべるであろう遮光器土偶である。驚くことに竹倉氏は、この土偶で注目すべき特徴は目ではないという。
注目すべき特徴として、❶紡錘形の四肢、❷広い肩幅と腰幅、❸胴部のくびれ、の3か所を挙げている。そして、これらの特徴が表しているものはサトイモであるとする。
紡錘形の四肢に関しては、よく目にするサトイモの形そのものなので、問題はないだろう。だが❷と❸は、サトイモの特徴といわれてもピンとこないのが普通だろう。それは、われわれが想像するサトイモがきれいに洗われ店頭に並んだものだからだ。
収穫直後の泥のついたサトイモを見れば、一目瞭然である。サトイモは、種芋を土に植え、そこに親芋、子芋が育っていくことで収穫される。親芋が頭部で、そこにくっついた子芋が四肢というわけだ。
頭部の出っぱりはサトイモの葉で、大きな目は、親芋から子芋を取り外した後に残る窪みを表している。その他、詳細は省くが、遮光器土偶の文様や乳房の形もサトイモの一部の特徴と一致している。
以上、大まかにではあるが、土偶と縄文人の食物との類似性を見てきた。ひとつだけを取ってみるとそうかもしれない程度のものもあるが、これだけ多くの土偶が、縄文人の食べ物の特徴を備えているとなると、偶然とは思われない。
土偶は土器と違い、生活上での実用的な役目は果たさないにもかかわらず、複雑な形態や文様を持つなど、非常に手の込んだつくりである。単なる暇つぶしや、子供のおもちゃにしては、手間暇をかけている。
やはり、何らかの信仰と関わった呪術的要素を持つものだと考えるのが妥当である。土偶が、〈植物〉などの精霊をモチーフに作られているとすると、やはり五穀豊穣を祈願して作られた可能性が高いだろう。
このように土偶には深い意味が込められていたようだが、実は、筆者は前前から、土器の文様にも深い意味が込められているのではないかと考えている。
ご存じのように縄文土器には、縄文に代表されるさまざまな手法で、複雑な文様が施されているが、これらの文様はただの飾りだろうか? 少なくとも一部の文様は何らかの情報を含んでいるのではないか。たとえば五穀豊穣を祈願する文様の土器で煮炊きを行ったり、子孫繁栄を意味する文様が刻まれた土器を、出産祝いにプレゼントしたりなどだ。こう考えると、五穀豊穣の文様が刻まれた土器が、次第に実用的要素を失い、祭祀に特化する形で独立し擬人化され、土偶が生まれたのかもしれない。
発掘された土偶の多くが破損していることから、祭祀で故意に破壊されたともされている。
だが、筆者には、あれほど丁寧に作られた土偶を故意に破壊するとは想像しにくい。土偶が、〈植物〉の精霊をかたどっているとすればなおさらである。祭祀で使用する中で、たまたま破損したものを精霊が死亡したと見なし、大地に戻す目的で破壊し、埋めたのではないかと考えている。精霊の埋葬である。
ところで、筆者の手元には八咫烏(やたがらす)土偶と呼ばれる不思議な土偶のレプリカがある。江戸時代の1736年に、奈良県桜井市の等彌(とみ)神社の境内から発見されたものである。神武天皇との結びつきが深い場所であることと鳥のような顔つきから、八咫烏の名前がついている。
その独特の顔つきとポーズから、ほかに似た土偶はないと思っていたが、今回、よく見てみると、見事なカモメラインを備えている。どうやら、八咫烏ではなくトチの実の精霊のようだ。
土偶が〈植物〉の精霊をかたどっているとして、精霊を擬人化したのは、縄文人のたくましい想像力の産物だろうか?
実は、アジアには〈植物〉の精霊の実在を信じている人々が存在する。もっとも典型的な例が、タイ王国のナリーポンとマカリーポンである。
ナリーポン・マカリーポンは、聖なる「ワクワクの木」になる木の実の精霊で、成熟すると木から落下し、歌ったり踊ったりできるという。通常、美しい少女の姿をしているとされるが、ナリーポンが少女、マカリーポンは少年とすることもある。寿命は1週間ほどで、死ぬと乾燥して収縮しミイラ化するとされる。タイ各地の寺院や博物館には、ナリーポン・マカリーポンのミイラとされるものが保管されている。
中でも、シンブリー県の寺院ワット・プラプラー・ムーニに展示されているものは、その威容な姿と科学的検査が行われたということで有名である。国立病院でのレントゲン検査の結果、人と似た構造で内臓も確認できたという。少なくとも作り物ではないという結果が出ている。
もしかしたら、縄文時代の日本にも、〈植物〉の精霊を思わせる人形の生き物が実際に存在したのではないだろうか。それを見た縄文人が、〈植物〉には精霊が宿ると考えて擬人化し、多種多様の土偶の製作が始まったのかもしれない。
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