生命の象徴「アンク十字」と万物を見通すの視線「ホルスの眼」/秘教シンボル事典
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タイ地獄寺研究者による仏教美術視点での「地獄」描写解説。アップデートされる地獄表現から現代タイ社会に「地獄」の教えが深く根付いていることがわかる。
これまで見てきたような伝統的な地獄表現に加え、最近では「バイク事故」「薬物乱用」「環境破壊」といった表現も見られるようになった。
特に顕著な例は、「ヤーバー」という覚醒剤の使用を表現した像である。ヤーバーは1970年代まで、タクシー運転手などの間で眠気覚ましとして合法的に使用されていた。地獄寺にはこのヤーバーを使用した薬物中毒者の像や、彼らによって引き起こされたバイク事故の像がつくられている。
また一見何者なのかわからない像(以下)は、木の精霊であるという。チェーンソーを片手に罪人に責め苦を与える木の精霊は、急速な経済成長による環境破壊に警鐘を鳴らしているのだ。これらのモチーフは伝統的な壁画には全く見ることのできない、新しい地獄表現である。
地獄寺の像に書かれた文字や描かれた絵をよく見てみると、政治的なメッセージを含んでいるものがある。
たとえば、チェンマイにあるワット・メーゲッドノーイでは、ここ数十年にわたって起きている政治対立の和解を願った絵が描かれている。他にも政府から農民への圧力、政治汚職、環境破壊などを主題とした絵も散見される。地獄寺の多くはひと気のない農村部にあり、実際に制作を担っているのも地元の人々である場合が多い。
彼らは「教義・教育のため」に像を制作したというが、どうもそれだけではなさそうである。そもそも地獄思想には、必ず「仏」という救いが存在している。同じように、こうした人々の切な願いは、「救い」として地獄寺の像に託されているのである。
地獄寺を単なる「地獄テーマパーク」として捉えればそれまでだが、このようによくよく表現を見ていくと、一時の好奇心でつくった場所では決してないことがわかる。仏教が生活に浸透している国であるからこそ、地獄の表現も現代の生活を色濃く反映したものになるのだ。
筆者をふくめ、日本人は地獄というと、地獄釜や棘の木といった空想上のものしか想起できず、どこか現代の生活とはかけ離れたものであると考える。しかしながら、タイ人の地獄はいつも身近にあり、今もなおアップデートされ続けている。おそらく今後も新しい地獄表現が次々と考え出されることであろう。それを追うことが、地獄寺研究における使命であり、醍醐味である。しばらくはやめられそうにない。
椋橋彩香
1993年東京生まれ。早稲田大学大学院文学研究科にて美術史学を専攻、2022年博士後期課程単位取得満期退学。現代タイにおける地獄表現、「タイの地獄寺」を研究テーマとする。早稲田大学會津八一記念博物館助手を経て、現在は大学非常勤講師。「タイの地獄寺」を珍スポットという観点からだけではなく、様々な社会的要因が複合して生まれたひとつの現象として、また地獄表現の系譜において看過することのできないものとして捉え、フィールドワークをもとに研究・執筆を進めている。著書に『タイの地獄寺』(青弓社、2018年)。
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