ネス湖調査に人生まるごと捧げる〝真のネッシーハンター〟スティーブ・フェルサムという生ける伝説について/ネス湖現地レポート
人生を賭してネッシーを追うネッシーハンターは、いかにしてネス湖に魅せられ、湖畔にロッジを構えるに至ったのか? 現地ライターがその半生をインタビューした。
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ネス湖で撮影した「コブ」の正体を追ってネス湖調査団のもとを訪れた筆者。なにものでもありそうな物体について、思わず出た言葉とは?
筆者が2018年の夏に撮影したネス湖面の奇妙な「コブ」の写真。ネッシー懐疑派と否定派の多くは「スキューバダイバーの泡」説を支持しているようだが、スキューバダイバーたちの間では、その可能性を強く否定する声も上がっている。ネス湖畔の村ドアーズの浜辺から、ダイバーたちが潜る様子を何度も観察している伝説のネッシーハンター、スティーブ・フェルサム氏も、ダイバーの泡とは思えないとの意見だった。
筆者が次にアプローチしたのは、世界中のメディアから注目された昨年に引き続き、今年もネス湖大捜索「ザ・クエスト(The Quest)」を率いたネス湖探査団のアラン・マッケナ氏。
「ザ・クエスト」は、昨年2023年の6月に新装オープンした観光施設、The Loch Ness Centre(ネス湖センター)のPR活動の一部で、年次イベントとなったものだが、それを率いるマッケナ氏は同センターの従業員ではない。
マッケナ氏は、小学校低学年だった30年ほど前、祖母の家で見つけたティム・ディンズデールの著書『Stories of the Loch Ness Monster(邦題:『ネス湖の怪獣』)』を父親に読んでもらったのがきっかけで、ネス湖ミステリーに夢中になったという。
1960年代から70年代にかけてネス湖調査を展開していたネス湖調査局の精神を受け継ごうと、2021年に有志団体「Loch Ness Exploration(筆者訳:ネス湖探査団)」を立ち上げた。以来、最低でも月1回の頻度で、居を構えるエディンバラから車で3時間半かけてネス湖を訪れ、調査活動を行っている。
ネス湖センターとは、活動を資金的・物理的に支援してもらう代わりに、同センターのPR活動に定期的に貢献するという提携関係にある。
マッケナ氏が管理人を務めるネス湖探査団のFacebookグループ(https://www.facebook.com/groups/470765477828717/)は、お互いを尊重し、真剣にネス湖ミステリーについて意見を交わすというルールに従うのであれば、ネッシー信者、懐疑派、否定派を問わず誰でもメンバーになれる。このFBグループは、マッケナ氏が定期的に調査レポートや次の調査活動の呼びかけを投稿する掲示板なのだが、ここでも、筆者の写真を自分なりに分析しているメンバーが多彩な説を共有している。
「ザ・クエスト24」期間中の6月1日土曜日、筆者と夫はネス湖センターが運営するソナー搭載ボートに乗船し、マッケナ氏と水中聴音器でネス湖深部の音を聴くクルーズに参加することになっていたが、その前夜、筆者はマッケナ氏に71枚のオリジナル画像を見せるべく、ネス湖西岸にあるドラムナドロキット村へ向かった。
マッケナ氏に同席したのは、ネス湖ミステリーに関する著書をいくつか持ち、ブログも執筆しているローランド・ワトソン氏。彼は、昨年の「ザ・クエスト」初日の夜にネス湖センターで開催されたQ&Aセッションにマッケナ氏とフェルサム氏と並んで登壇しており、今年の「ザ・クエスト24」でもプレゼンを行うことになっていた。
ワトソン氏はその晩、観光ボートの往来が止み、訪問者が立ち去って静かになる日没後のネス湖西岸の埠頭でマッケナ氏と水中聴音器でネス湖の音を録音するため、彼に合流していた。
両氏が筆者の71枚の写真のオリジナル画像を目にするのはこれが初めてのこと。2人とも、昨年にメディアで公開された数枚の写真と、「The Cryptid Factor」ポッドキャストが公開した動画版を何度も自分たちなりに分析したが、その正体の見当はつかなかったという。
2人は画像のメタデータをチェックしたり、撮影時の気象条件や太陽の位置などを考慮しながら湖面の光の反射具合を確認し、写真に見られる水面の擾乱(じゅうらん)の規模や「コブ」の質感などについて、熱心に意見を交わしている。その姿はまるで、宝の地図の謎解きに心を奪われた少年たちのようだった。
「コブ」の写真を見ながらワトソン氏が引き合いに出したのは、「パレイドリア現象」。何かを目にしたとき、普段からよく知ったパターンに置き換えて認識することで、本来そこにあるはずのないものが見えるという心理現象だ。ニンテンドースイッチのコントローラーが犬の顔に見えるというのも、パレイドリア現象である。
メディアに公開された筆者の写真に、人々はカワウソやアザラシ、ビーバーの顔、ワニのような爬虫類系の生物の横顔、ダイバーの大きなお尻(!)、さらにはゴミ袋などを見出している。ワトソン氏によると、これらはまさにパレイドリア現象。「ダイバーの泡」を見出している人々がいるというのも、いわばパレイドリア現象なのだろうか。
2人は71枚のオリジナル画像を繰り返し検証したが、やはりいずれにも「コブ」の正体を決定付ける要素が見られないため、「その正体ではないもの」から特定する消去法アプローチを採るしかないという。自力で動いているもののようだが、カワウソなどの哺乳類ではない。ダイバーの泡とも思えない。
なんとも摩訶不思議だと首をひねるマッケナ氏は、「アレイスター・クロウリーが蘇った!」と冗談半分で叫んだ。
すでにご存じのムー民もいらっしゃることだろうが、「英国史上最も邪悪な魔術師」と呼ばれたアレイスター・クロウリーは、1899年から1918年にかけてネス湖畔にあるボレスキン・ハウス(Boleskine House)という屋敷を所有しており、ここで魔術にふけっていたと伝えられている。
クロウリーの後、この屋敷は何度も所有者が変わり、1971年から1992年までの期間には、レッド・ツェッペリンのギターリストでクロウリーファン(?)のジミー・ペイジがオーナーだった。
2015年に火災で大部分が焼け落ちたのだが、2019年にイングランド人のエソテリストの夫妻が買い取り、現在、彼らが立ち上げたボレスキン・ハウス財団の管理下で修復工事が進められている。
地元の人々の間では、ボレスキン・ハウスとその周辺にはクロウリーが召喚した魔物が今も徘徊していると言われており、フェルサム氏でさえ、ボレスキン・ハウスには絶対に近づかないと断言している。そして、ネス湖ミステリーはクロウリーが解き放った悪霊の仕業だという説もある。
その真相はともあれ、マッケナ氏とワトソン氏は、筆者の写真をめぐる議論はまだまだ続くだろうという結論に至った。
「君の写真を直に分析する機会をくれて本当にありがとう。これらの写真が実に素晴らしいのは、これほどまでに鮮明で数もたっぷりあるのに、その正体は謎に包まれたままであることだ。誰もが納得する結論が出ることはないと思う。とにかく不思議で、眠れなくなっちゃうよ!」
筆者が彼らを信頼してオリジナル画像を見せたことに対し、マッケナ氏は無垢な少年のように瞳を輝かせながら、何度も礼を言ってくれた。
そしてその翌日、ソナー搭載ボートでのネス湖クルーズで、マッケナ氏は誤解を招きやすい湖面現象のいくつかを参加者に解説してくれた。その典型的な一例は、ケルヴィン波と呼ばれる航跡波(こうせきは)である。
ネス湖では、ボートが通り過ぎてかなりの時間が経っても、航跡波が延々と湖面を移動する。そしてボートの存在に気付かなかった人がそれを遠くから見て、「大蛇の背のような複数のコブを目撃した」と報告するケースが頻繁にある。筆者もこのクルーズでそれを実際に体験した。それが下の写真である。
確かに、ヤマタノオロチが水面を泳いでいる姿を想像させる現象だ。だが、筆者が撮影した「コブ」の動きとはかなり違うように見えた。ネス湖のこのような現象を熟知しているフェルサム氏やマッケナ氏、そしてワトソン氏も、航跡波の可能性を完全に否定している。
果たして筆者の写真の「コブ」の正体は、マッケナ氏が「予言」するように、誰もが納得する結論に至ることはないのだろうか。
ちなみに、webムーで2024年6月12日に公開された今年のネッシー大捜索に関する記事では、「ザ・クエスト24」期間中に11歳の少女が「湖面の異変」の写真を撮影したとされているが、その正体は無謀にも単独でネス湖のワイルドスイミングを楽しんでいた男性であった可能性が確認されている。無謀にもというのは、ネス湖は夏でも水温が5℃前後と極めて低く、水深も非常に深いため、地元当局はワイルドスイミングを奨励していないからだ。冷たい湖水や海水でのワイルドスイミングに慣れている人々でも、単独で泳ぎに出ることはない。
一方、同じ記事で報告されている、マッケナ氏が水中聴音器でキャッチしたという「水面下の奇妙な音」について、本人に確認したところ、「確かに夜にネス湖西岸の埠頭で聞き慣れない音を録音したけれど、それは自分が聞き慣れていない音だっただけで、説明のつくものである可能性もあるから、分析が終わるまで公表しないようにと(ネス湖センターに)釘を刺していたのに!」と、いささか憤りを感じているようだった。
ケリー狩野智映
スコットランド在住フリーライター、翻訳者、コピーライター。海外書き人クラブ所属。
大阪府出身。海外在住歴30年。2020年より現夫の故郷スコットランド・ハイランド地方に居を構える。
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