「ネス湖大捜索」参加の日本人が「奇妙なコブ」を撮影していた! 現地リサーチャーも驚いた奇跡の一瞬/ネス湖現地レポート

文/ケリー狩野智映

    20世紀最大のミステリー、ネス湖のネッシーの真実を現地ライターが追う! あの「大捜索」にかかわるきかっけは、一枚のプライベート写真だった。

    偶然にも「ネッシー(???)撮影」に成功!

     英国北部スコットランドにある風光明媚なネス湖は、古くから未確認生物の目撃が多数報告されており、それは「20世紀最大のミステリー」として語られている。「ネッシー」の愛称で知られるUMAについて、「ムー」読者ならもちろん関心をお持ちのはずだ。

     そんなネス湖で、昨年2023年の8月末、「半世紀ぶりの大捜索」との鳴り物入りで大規模な調査が行われた。サーマルカメラ搭載ドローンや水中聴音器などの新技術を導入して世界中から大きな注目を集めたこのイベントは、日本でも大々的に報道されていたため、多くの読者の記憶に新しいことだろう。

     だがその数日後、在英日本人女性が2018年に撮影したという写真が公開され、英語圏メディアが「ネス湖史上最も衝撃的な写真」と報じてセンセーションを巻き起こしたことをご存知だろうか。

    「ネス湖史上最も衝撃的な写真」報道の数例。 画像:筆者作成

    https://www.thesun.co.uk/news/23739795/secret-picture-loch-ness-monster/
    https://www.mirror.co.uk/news/weird-news/most-exciting-photos-ever-taken-30829621
    https://www.dailyrecord.co.uk/news/scottish-news/woman-reveals-most-exciting-nessie-30831520
    https://news.ntv.co.jp/category/international/bdc63445b75e44168e9956f069acb98a

     上記がその報道の一部だが、その在英日本人女性とは、実は筆者本人なのである。

     当時、翻訳を主な仕事としていた筆者は、華麗な装いで名高い英国競馬の祭典「ロイヤル・アスコット」の開催地であるイングランドのアスコットに、夫と娘の一家3人で暮らしていた。夫がネス湖に近いハイランド地方の主要都市インヴァネスの出身で、8月上旬にインヴァネス近辺で一週間の休暇を過ごすのが毎年お決まりのパターンだったのだ。

     問題の写真を撮影したのは2018年8月13日月曜日のこと。スコットランドにありがちなどんより曇り空で、セーターかジャケットを着用しないと寒いと感じる一日だった。午前中はフランスから来ていた友人たちとインヴァネス郊外にある某ウイスキー蒸溜所を見学し、レンタカーでエディンバラに向かう彼らを見送ったあと、ネス湖東岸にあるドアーズ(Dores)という村に遅めのランチを食べに行った。
     ドアーズにはネス湖の数少ない浜辺のひとつがあり、そこからは湖の奥行きを実感できる素晴らしい景色が楽しめる。2007年に夫に初めて連れて行ってもらって以来、筆者のお気に入り絶景スポットなのである。

     その日、筆者は数年前に夫がプレゼントしてくれたキャノンEOS100Dとスマホ(iPhone 6S)で写真を撮っていた。一番最初に撮ったのは、ネス湖を背景に娘(当時5歳)を抱き上げている夫の姿で、タイムスタンプを見ると14:41となっている。

    これがその写真。 写真:筆者撮影(iPhone 6S)

     湖面の奇妙な動きに最初に気付いたのは確か、娘だったと思う。

     筆者が立っていた場所から200メートルぐらい先の湖面に、横向きに回転するネジのようなうねりの動きが見え、右から左方向に向けて前進していた。
     最初は鮭などの魚だろうかと思ったが、魚は通常、水面からジャンプして再び水中に戻る。だがこの動きは、継続的に湖面スレスレをうねり進んでいるように見えた。夫はじゃれ合う2匹のカワウソじゃないかと言った。だが、カワウソのような哺乳類は、呼吸をするために何度か水面に顔を出す。しかし顔らしきものは見えなかった。

     筆者はとっさにキャノンでその動きを追い、途中で連写モードに切り替えて撮影を続けた。

    ©Tchié Kelly-Kano
    英語圏メディアの報道で最も多く引用された写真の1枚。タイムスタンプは15:56:24。 写真:筆者撮影 ©Tchié Kelly-Kano

     その動きは3分程度続き、その後何も見えなくなった。この動きの最初の写真のタイムスタンプは15:54:50。最後の写真は15:57:06。
     浜辺には筆者一家以外にも数人の散策者がいたのだが、誰もこの湖面の不思議な動きに気付いていないようであった。

     撮影した写真をその場でカメラのモニターで確認したが、いくらズームインしても画面が小さすぎてその正体が何であるのか見当はつかず、「あれって何だったんだろうね」と話しながら、筆者一家はドアーズを後にした。

     数日後、自宅に戻って撮影した写真をパソコンに落とし、大きな画面でじっくり見てみたが、何とも不思議な湖面の動きばかりで、その正体をほのめかすような要素は見当たらない。結論を出せないまま、親しい人々との団らんの際に面白い話のネタになるだろうと思い、とりわけ奇妙に見えるものを16枚ほどコピーして、とりあえずスマホに保存することにした。

     それから2年後の2020年10月、筆者一家はイングランドからスコットランドに居を移し、インヴァネス郊外で暮らすようになった。
     深い歴史と文化を誇り、美しい自然に恵まれたスコットランドでの生活に感化された筆者は、翻訳の仕事を続けながらも、長年の夢を現実のものとし、2022年よりスコットランドからの話題を綴った記事を日本の様々なメディアに寄稿している。

     それが昨年、2023年の8月上旬、月末に予定されている「半世紀ぶりのネス湖大捜索」で湖面観察のボランティア募集中という話を耳にした。
     自分自身がネス湖で不思議なものを目撃していたし、この歴史的なイベントは面白い記事になると考え、夫と娘を巻き込んで一家3人ボランティア登録した。

    2023年6月にオープンした観光施設「Loch Ness Centre」。https://lochness.com/

     この大捜索そのものは、大掛かりな改装工事を経て昨年6月に新規オープンしたLoch Ness Centre(筆者訳:ネス湖センター)が仕掛けたPRイベントだが、指揮にあたったのは、ネス湖調査に情熱と余暇を捧げ、Loch Ness Exploration(筆者訳:ネス湖探査団)という有志団体を立ち上げたアラン・マッケナ氏である。

     大捜索初日の8月26日土曜日、筆者一家はネス湖畔の古城アーカート城の敷地内に陣取り、湖面観察に従事した。その日はあいにくの悪天候。防水加工のジャケットを着用し、大きなゴルフ傘を差していたが、湖面観察を始めてから30分後には3人ともずぶ濡れになっていた。それでも思い出に残る愉快な体験だったと言える。

    ずぶ濡れで湖面観察にあたった筆者一家。 写真:通りすがりの観光客撮影

     その日の夜は、ネス湖センターでネス湖研究家たちとの対談セッションもある特別ツアーが開催されることになっており、筆者は事前にそのチケットを購入していた。そのツアー開始の30分前に会場に到着した筆者一家は、しばらく外で待たされることになったのだが、これが運命を変えることになろうとは、そのとき夢にも思っていなかった。

    世界各国からの報道陣を前に大捜索初日の締めくくり記者会見をするマッケナ氏(中央)。 写真:筆者撮影

     ネス湖センター玄関前で行われたマッケナ氏による初日の締めくくり記者会見を傍聴していると、隣のホテルのテラスに地元の友人が座ってコーヒーを飲んでいる姿が目に入った。挨拶しに行くと、彼のテーブルに同席していたのはなんと、ネッシーを追い続けて32年という伝説のネッシーハンター、スティーブ・フェルタム氏ではないか!

    伝説のネッシーハンター、スティーブ・フェルタム氏(中央)。 写真:筆者撮影

     ネス湖の地形と特有の現象に精通している彼こそ、あの日の写真に写し出されたものの正体を解明してくれる人物ではないだろうか。
     そう思った筆者は、現地の友人にフェルタム氏を紹介されるや否や、スマホに保存していた16枚の写真を見せて意見を求めた。

    「これほど衝撃的なネス湖面の写真は今まで見たことがない!」

     何度も繰り返しズームインしたり、アングルを変えたりしてそれぞれの写真を検証したあと、目玉が飛び出しそうなほど大きく目を見開いたフェルタム氏はそう呟いた。

     まったく予期せぬ彼の異様な驚きと興奮ぶりを目の当たりにし、ショック状態にあった筆者にこれらの写真を公開するよう説得したのは、フェルタム氏本人と、その場に居合わせた地元の報道写真家の2人。ーーこうして彼らの「庇護」のもと、筆者はこれらの写真と「目撃談」を公開することとなった。

    フェルタム氏曰く、「これほど衝撃的な湖面の写真は今まで見たことがない」。 写真:筆者撮影 ©Tchié Kelly-Kano

     一部の英国タブロイド紙は、「私がネッシーを写真に収めた!」、「私が最もエキサイティングなネス湖の写真を撮った!」といった見出しを掲げたが、筆者一家はそのようなことは決して主張していない。単に、「湖面の不思議な動きを撮影した」と言っただけである。この点ははっきりさせておきたい。

     そして、なぜ5年もの間、公にしなかったのかと問われると、それはまず、自分のような凡人が、これほどまでにセンセーションを巻き起こす写真を撮影するなど夢にも思っていなかったから、そして、ネス湖のUMAの存否をめぐっては、「信者派」と「懐疑派」、そして「否定派」の間で激しい論争が繰り広げられ、中傷合戦にエスカレートすることも頻繁にあるため、そのような事態に巻き込まれたくない、そして嘲笑の的になりたくない、という思いがあったからだ。

     最初の報道から一週間ほど、なんらかの手段で筆者の連絡先を探り出したテレビ局や全国紙などからインタビュー依頼が殺到した。フランスやドイツのメディアからもアプローチされた。

     フェルタム氏は「君を説得したのは僕だから、責任を持つ」と言ってスポークスマンの役割を買って出て、筆者一家の盾となってくれた。そして写真提供の依頼には、先述の報道写真家が対応してくれた。あのとき筆者が取材依頼に個人的に対応したのは、日本のメディアごく数社のみである。

     案の定、筆者のカメラが捉えた生物(現象)の正体に関しては意見が大きく分かれ、英米のテレビ司会者などのなかには、「イカサマだ」、「湖面を流れるゴミ袋だ」、「岩だ」だの、「目立ちたがり屋のでっち上げだ」などと侮辱的なコメントをする人物もいた。ソーシャルメディアでは、「AI合成写真だ」などの意見が飛び交っていた。

     だが、ネス湖探査団のマッケナ氏や、彼と同じようにネス湖の謎の解明に情熱を注ぐ人々の間からは、「勇気を出して公開してくれてありがとう。きっと調査研究の役に立つ」など、心あたたまるコメントが数多くあがっている。

     こうしてネッシー論争が再燃するなか、筆者と夫は独自にその謎に迫ることにしたのだった。

     以上が、スコットランドを拠点とする筆者がネッシー調査を始めたきっかけである。
     次回から数回に分けて、ネス湖周辺でリサーチを重ねるネッシー・ハンターたちと、彼らがつかんだ貴重な資料を紹介していく。

    ~続く~

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