古代の遺骸や遺物は宇宙人? もしくは怪異をもたらす呪物なの…怪!?/黒史郎・妖怪補遺々々

文・絵=黒史郎

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    ナスカの宇宙人遺体が話題だ。その正体も気になるところだが、古代の遺骸・遺物といえば、昔から、怪異をもたらす事例も多く報告されているのをご存じだろうか? やはり長年に渡り〝遺る〟からには何か秘密でもあるのだろうか?ーーホラー小説家にして屈指の妖怪研究家・黒史郎が、記録には残されながらも人々から“忘れ去られた妖怪”を発掘する、それが「妖怪補遺々々」だ!

    遺物がもたらすもの

     2023年9月12日、メキシコ議会で未確認飛行物体に関する初の公聴会が開かれ、「宇宙人の遺体」が公開され話題になりました。これは2017年、ペルーのナスカの地上絵付近で発見されたもので、約1000年前のものと考えられています。
     本記事を書いている数日前、CTスキャンやX線検査により、骨の状態から人工的に作られたものではないとの見解をメキシコの研究所が示したそうです。今後の調査結果がとても楽しみなニュースです。

     遠い時代から朽ちることなく残された遺骸は、それが動物や人のものであっても大変希少な発見です。その遺骸には当時のことがわかる情報がたくさん残っているからです。
     そして、残っているのは情報だけではありません。
     発掘された遺骸・遺物が不思議なことを起こしたという記録が世界の各地にあります。
     今回は、詩人であり仏文学者である平野威馬雄が主宰し、その会員に水木しげるもいたという「お化けを守る会」が発行していた冊子『妖しきめるへん』から、〈遺骸・遺物〉が起こした不思議な話をご紹介いたします。

    古代の骨

     昭和50年代、舞台はハワイです。
     マウイ島の農園で働いていた、ある日本人の方が退職後、島の西側にあるイアオ渓谷へハイキングに行きました。
     そこで彼は人骨の一部を見つけました。
     それは、古代ハワイアンの頭蓋骨の欠片でした。
    考古学的にも大変価値のある大発見ですが、彼はこれを自宅に持ち帰ってしまいました。
     この行為に現地の住人は、とてもショックを受けました。
     自分たちの先祖の骨を、他国の人間が持ち去るだなんて。
     その後、奇妙なことが立てつづけに起こりました。
     この日本人と同じアパートに住む人たちが、不思議な音を聞くようになりました。
     皿が勝手に部屋中を動きまわることがありました。
     アパートのある区域に、空気の冷たい場所があると感じる人が現れました。
     霧のようにボウーッとした人影が、戸口に見えたという人がでました。
     アパートの住人たちは、この日本人に懇願しました。
     先祖の頭蓋骨を、どうか神聖な憩いの場所に戻すようにと。
     それでも聞き入れてくれなかったのか、今度は警官が令状をもってアパートに行くと、日本人の部屋のテーブルには頭蓋骨が置かれ、その前に火をつけたタバコ、ウイスキーを入れたグラス、スコッチのボトルがありました。
     彼は頭蓋骨を相手に、酒を飲んだり煙草を吸って喋ったりして過ごしていたのです。
     おそらくーー頭蓋骨の〝持ち主〟であった霊が彼の伴侶となっていたのです。
     この日本人はヒステリー状態になってしまったということです。

    電波霊と信ずべき

     昭和キッズのトラウマ本のひとつ『わたしは幽霊を見た』(講談社)に掲載された、恐ろしい形相の「幽霊のスケッチ」で知られる大高興博士が、昭和51年、NHK仙台放送局の『話題の広場—土偶は語る』という番組に出演されたときのことです。
     大高博士は「お化けを守る会」の会員であり、考古学研究の第一人者でもあって、とくに亀ヶ岡土器文化に一家を成しておられました。
     大高博士と交遊があり、また同会の会員である和田陽太郎は、青森市内の自宅でこの番組を35ミリカメラで撮っていました。
     カメラの最短距離までテレビ画面に近づき、ファインダーを覗きながらピントを合わせてシャッターを押します。撮り終えて焼きあがった写真を見ると、1枚の写真に目が留まりました。
     画面に大高博士の顔がアップになっており、白文字のテロップが紹介をしている1枚。
     しかし、そこに映っているのは大高博士ではありません。初老の女性です。
     しかし、テロップは大高博士を紹介する内容です。
     これは異様で無気味な写真です。和田は写真にネガを添えて放送局に送り、これを調査してもらいました。しかし、原因は不明とのことでした。
     これを見た大高博士も驚いて、このように話したといいます。
    「今から二千年以上も昔の縄文時代に、土偶を作ったであろう女性の霊が、当時をしのんで語ったわたしの話を懐かしんで、現代人の姿で現れたのかもしれない」ーーと。
     大高博士の発掘した土偶その他の遺物には、太古の先祖霊や強い想いが宿っていた、ということなのでしょうか。それが電波を通じて現れたのだと。
     この写真のネガは、大高博士が保管することになったといいます。
     和田はこの現象について、「電波霊と信ずべき」と書いています。

    太古の遺物は化け物の姿か、それとも——

     亀ヶ岡式土器つながりで、ちょっと変わった妖怪(?)をご紹介いたします。
    ーーある日、人々は「ギーン」と音を立て、空から青白い火の玉が落ちてくるのを目撃しました。
     火の玉は森の中へと落ちたので確かめに行くと、とてつもなく大きな目玉がギロリと光るのを人々は見ました。それは「日当たりの庭に飛び出した猫の目」のような細い瞳が、目の中を真一文字に走っています。
     村人たちは恐れをなして逃げ出し、それから森に踏み込む者はいませんでした。
     村長は火を焚き、生贄を捧げ、神に祈りました。
     この祈りが通じたのか、森から妖怪は姿を見せず、やがて夜のうちに青白い火の玉が轟音を響かせ、天へと帰っていきました。
     その後、村の者が、森で目撃した「妖怪」の姿を泥人形で拵えて焼きました。
     それは顔面いっぱいに、大きな防塵眼鏡のようなものをかけ、眼鏡のガラス部分に一文字で線が入っており、鼻も口もありません。
     この土偶も長い年月の中で存在を忘れさられ、土の中に埋もれてしまいました。
     それから数千年後、この土偶は亀ヶ岡で出土し、博物館に収められたということです。

     この話は『世界怪奇スリラー全集2 世界のモンスター』(1968年発行)というオカルト系児童書籍に見られるもので、明らかに1886年に青森県つがる市の亀ヶ岡石器時代遺跡から出土した遮光式土偶のことを書いています。
     同書の執筆者・山内重昭は同記事の見出しで「神か妖怪か」と疑問を投げかけ、遮光式土偶の鼻も口もない大きな眼鏡をつけた顔はヘルメットであり、これは「宇宙からの来訪者」なのではないかと考察したうえで、【テラコッタル】と命名しています。

     同シリーズ『世界怪奇スリラー全集6 世界の円盤ミステリー』でも、亀ヶ岡などで発見された土偶は「大きな目は宇宙帽のサングラス」「口には呼吸フィルター」「耳には受信器」「頭の後ろには何かの装置を思わせる四角なもの」「宇宙服のようなダブダブの服」をつけており、研究者の一部では「日本の石器時代人が宇宙人を見て作ったのではないか」と考えられているとしています。著者も違うので、同書には山内が独断で命名した【テラコッタル】は明記されていませんでした。

     この他にも昭和期のオカルト系児童書籍には、古代人と戦う遮光式土偶の姿をした宇宙人のイラストがよく見られました。こういった発想は、もっと以前から海外の作家が公表しており、トロイア遺跡、メキシコのパレンケ遺跡、タッシリ・ナジェールの岩絵、その他の古代遺跡・遺物から、太古の地球を訪れた「宇宙服を着た宇宙人」の姿をイメージした人は多かったようです。

     【参考資料】
     和田陽太郎「電波霊を撮る」『妖しきめるへん』2号
     山川学而訳「ハワイの怪談大会」『妖しきめるへん』10号
     山内重昭『世界怪奇スリラー全集2 世界のモンスター』秋田書店
     南山宏『世界怪奇スリラー全集6 世界の円盤ミステリー』秋田書店
     村松定孝『わたしは幽霊を見た』講談社
     ピーター・コロシモ『宇宙人伝説』大陸書房
     高坂勝巳『地球遺跡 宇宙人のなぞ』立風書房

    黒史郎

    作家、怪異蒐集家。1974年、神奈川県生まれ。2007年「夜は一緒に散歩 しよ」で第1回「幽」怪談文学賞長編部門大賞を受賞してデビュー。実話怪談、怪奇文学などの著書多数。

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