道後温泉の怪談ストリップは16時27分から……「いこかー」/松原タニシ・田中俊行・恐怖新聞健太郎の怪談行脚
事故物件住みます芸人・松原タニシと、オカルトコレクター田中俊行、そして高松で活動する怪談バンドマンの恐怖新聞健太郎——3人の異色ユニットが、行く先々での怪奇体験を公開する。 今回は愛媛県のニュー道後ミ
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岩手県奥州市にある「寶城寺(ほうじょうじ)」には、河童のミイラが安置されているという。由来から正体を辿ると、なんと雷とともに現れる伝説の妖怪「雷獣」だった!!
のどかな田園が続く、みちのく岩手は、ちょうど山の木々が紅に色づき、澄みきった青空がどこまでも広がっていた。奥州藤原氏ゆかりの江刺(えさし)を訪ね、とある細い坂道をゆるやかに曲がると、そこに目指す寶城寺(ほうじょうじ)はあった。開基は14世紀、曹洞宗の古刹である。
実は、この寺にはミイラがある。といっても、即身仏ではない。「河童」の全身ミイラが安置されているのだ。世に鬼や天狗といった妖怪のミイラは多いが、河童のミイラ、しかも全身のミイラとなると、数は少ない。
快く出迎えてくれた佐々木和生住職に挨拶をすませ、さっそく話を伺う。由来は意外にも、はっきりしていた。何でも今から20年ほど前、本堂の屋根を茅葺から銅板に改修工事した際、屋根裏から出てきたのだとか。寺そのものは明治5年に改築しているので、少なくとも、そのころにはあったものとみられている。
当初はガラスケースに入っていたが、残念ながら、素性を知る手がかりとなりそうな由来書はおろか、箱書きのようなものもなかったという。丁重に祀られた謎の生物、その妖しき姿に、だれいうこともなく「河童のミイラ」と呼ぶようになったらしい。
また河童の全身ミイラといえば、九州は佐賀県の松浦一(まつらいち)酒造の屋根裏で見つかった河童のミイラが有名だ。大きく凹んだ頭蓋骨に甲羅を思わせる背中の骨、長い指には水かきがある。ミイラが入っていた箱には「河伯(かはく)」と書かれており、少なくとも屋根裏に安置した人たちは河童だと認識していたことは間違いない。
そもそも河童は水神である。屋根裏に水神ゆかりのお札や装飾を施し、“火難除けの守護”として祀った例は少なくない。ここ寶城寺の屋根裏から出てきたミイラも、火難除けとして祀られた水神=河童だと考えられたとすれば、確かに納得できる。
しかし、だ。実際に現物を目にすると、一般的にイメージされる河童の姿からは、かなり遠い。頭部のお皿、顔には大きなクチバシ、背中に甲羅を背負い、手足の指に水かきがある、といった河童特有の姿形が、どこにもない。似ても似つかぬとはいいすぎかもしれないが、どう見ても爬虫類や両生類的な水棲生物ではない。
はたして、このミイラは本当に河童なのだろうか!?
2018年の夏、民話の郷として知られる遠野で「遠野物語と河童」と題した展覧会が遠野市立博物館で開催され、そこに寶城寺の河童のミイラも展示された。聞くところによると、会場を訪れた小学生がミイラを見て、いみじくもこういったそうだ。
「お母さん、これ猫のミイラだよ」
おっしゃるとおりである。ご覧になっていただくとわかるが、だれが見ても猫だ。佐々木住職もあっさりと認め、こう語る。
「おそらく、猫のミイラでしょう。どうして河童と呼ばれるようになったのか、くわしくは正直、わかりませんがね」
何度見ても、体毛のある細身の体は明らかに哺乳類だ。猫特有の耳と目、牙、そして四肢のツメが確認できる。しかし、猫にしては手足が長く、テンや未知の哺乳類である可能性もある。正体については、ミイラの一部を採取し、DNA鑑定すればはっきりするだろう。
だが、問題の本質はそこではない。仮にミイラの正体が猫だったとして、死んだ飼い猫や野良猫の遺体をミイラにし、わざわざ屋根裏に安置するだろうか。ましてや民家ではなく、お寺に、である。
かつて、作家にして博物学の巨匠、荒俣宏先生が寶城寺を訪ね、この河童のミイラを2度ほど実見し、興味深い指摘をしている。
河童は「水虎(すいこ)」とも呼ばれる。荒俣先生は“虎”すなわちトラもネコ科ゆえ、字面と容姿から猫のミイラを河童と見立てたのではないかというのだ。
実におもしろい仮説だ。先代の住職から河童のミイラだと聞かされてきたというから、江戸から明治期にかけて、そう考えた寶城寺ゆかりの博識家がいた可能性はあるだろう。
が、その一方で、火難除け=水神、すなわち河童という推論が間違っていたとしたら、どうだろう。火災の原因は火の不始末だけではなく、天災もある。雷もその原因のひとつだ。実際に、落雷によって火災が起きた記録は数多く残されている。
江戸時代まで、人々は雷を引き起こすのは神仏、もしくは妖怪変化だと考えられていた。なかでも河童や天狗と並んでポピュラーな存在だったのが「雷獣(雷神)」である。しばしば落雷とともに地上に落ちてくるといわれ、その姿は犬やイタチのようで、正体はハクビシンだという説もあるが、容姿を形容するにあたって圧倒的に多いのは猫である。
奥州市のお隣、花巻市の雄山寺(ゆうざんじ)には、その名も「雷神」と称されたミイラが安置されており、その姿はまさに猫である。同様の雷獣ミイラは、新潟県長岡市の西生寺(さいしょうじ)でも祀られている。
雷獣のイメージは場所によって微妙に異なるが、少なくとも関東および甲信越、東北地方において、その姿が猫に似ていると考えられていた。おそらく寶城寺のミイラも、本来は雷獣として祀られ、屋根裏に呪物として密かに安置されたのではないだろうか。それがいつしか忘れ去られ、再び発見されたとき、河童のミイラとされてしまったのだろう。
佐々木住職によると、改築以来、寶城寺では火事が起きていないという。水神である河童のご加護という声もあるが、実際は天神である雷獣のご加護なのかもしれない。
取材を終え、寶城寺を後にした翌日、河童伝説ゆかりの遠野郷八幡宮まで足を延ばした。ここの手水舎は、“赤ら顔の河童”の口から水が流れ出ている。なぜ、河童が赤いのかというと、遠野物語に「他の河童は緑だが、遠野の河童は赤くて口が大きい」という記述があることからのようだ。
そして、この参道には人懐こい猫がいることで知られており、いつしか猫神社と称する祠までできていた。どうやら、猫は妖怪である河童と人間を結ぶ仲人でもあるらしい。
(月刊ムー2020年10月号記事より)
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