安倍晴明が「創作神楽」になった! 陰陽師の伝説が五方山熊野神社へ奉納された意図

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    安倍晴明ゆかりの神社で、晴明をモチーフにした創作神楽が奉納された。「創作神楽」とは一体なんなのか?ユニークな活動を続ける神楽師にインタビュー。

    安倍晴明ゆかりの神社で晴明が舞う!?

     東京都葛飾区の立石に鎮座する、五方山熊野神社。社伝によれば1000年以上前、東国に立ち寄った安倍晴明がこの地に勧進したという由緒をもち、晴明が縄張りし結界を巡らせたという境内地が世にも稀な正五角形をしていることでもよく知られている。

     そんな安倍晴明ゆかりの神社にて、この秋、晴明公をモチーフにした創作神楽が奉納された。神楽といえば基本的には、「天岩戸開き」や「大蛇退治」など記紀神話の一部がモチーフとなるもの。安倍晴明が登場する神楽とはずいぶん珍しい……というか、聞いたことがない。そんな神楽がつくれるのか、そもそも神楽に「創作」ってあるの? 疑問を解決するにはじっさいに見てみるしかない!

     2026年9月22日。うんざりするほど降り続く雨のわずかな晴れ間となったこの日、熊野神社の社殿前で安倍晴明の創作神楽が奉納された。会場は、雨のため足元のぬかるむ神楽殿から急遽変更となった熊野神社の拝殿前。神様の目の前での奉納だ。

     しばし待っていると登場したのは、顔を五芒星の布で覆った装束姿の人物。安倍晴明だ! 
     晴明は印を結び、陰陽道独特の呪法である反閇(へんばい)にも似た足さばきを披露しながら舞を奉納する。

     映画「陰陽師」をも彷彿とさせる舞に目を奪われているうちに続いて登場したのが、4体の異形のものたち。

     よくみれば龍に虎に……これは東西南北の四方を守護するという聖獣、青龍、白虎、朱雀、玄武の四神たちだ。晴明を取り囲み、息のそろった舞を舞う四神。そして晴明が締めくくりのように印を結び、15分ほどの幻想的な神楽は終了した。

     筆者も寺社の祭礼などで少なからず神楽を見学した経験はあるが、やはりこんな神楽はみたことがない。いったい創作神楽とは??
     この晴明神楽を創案し奉納した、神楽師の吉福百合之介さんにお話をうかがった。

    「創作神楽」とは?

     奉納が終わったばかりの息も上がった状態でインタビューに応じてくださったのは、創作神楽集団・吉福社中の代表で、今回晴明公を演じた吉福百合之介さん。出身は鹿児島県で、上京後東京で江戸の里神楽を学び独立、15年ほど前に吉福社中を結成した。

     神楽の世界では創作ってメジャーなんでしょうか? とのそもそもの疑問をぶつけると、やはり「創作神楽」を名乗って活動をされているは現在吉福さんの社中のみだという。

     神楽とは天岩戸の前で女神アメノウズメが舞を舞ったという神話を起源としてはじまったとされるもので、大きくは宮中などで舞われた御神楽(みかぐら)と、民間の里神楽にわけられる。一般的に私たちが「お神楽」というときのそれは後者を指すことが多い。

     吉福さんによると、里神楽には『古事記』『日本書紀』に描かれた神話を人々にわかりやすく伝えために舞劇化されたものという一面もあり、そのため古くからの伝統のままに伝えられている舞もある一方で、時代にあわせて工夫されたり、それぞれの舞手によってアレンジされたりしたものも少なからず存在しているのだという。

    「そういう意味では、あえて「創作」を前面に名乗っているのは私だけですが、さまざまな神楽が創作だともいえるんじゃないかと思います」と吉福さん。

     なるほど、あらゆる神楽に創作あり。とはいっても安倍晴明が登場する神楽は他にないですよね?

    「そうですね、基本的には神楽は神話の物語がベースなので、平安時代の安倍晴明が登場するものはありません。でも神社のご縁起や由緒由来を伝えるためにあるのが神楽だとすれば、ここ熊野神社さんで安倍晴明公の舞を奉納するのは神楽になるんだと思っています」

    創作神楽に用いる衣装と面はすべて手作り。

     吉福さんが独立して創作神楽の活動を始めたのにも、そのような思いがあったからだという。
     というのも、神話を広く人々に伝えるための神楽も、今ではそれなりに解説を加えないと見ている人に伝わらない部分もある。特に全く予備知識のない子供たちは、いきなり神楽をみてもわからないことが多い。また神社によって伝えられている物語もディテールはさまざま。

     ならばもっとわかりやすくそれぞれの神話の意味を伝えられる神楽をつくろうと考えたのが、吉福さんが「創作神楽」を思い立ったきっかけだったのだそう。

     創作にあたっては神社ごとに由緒や社伝を調べ、そして「わかりやすさ」を重視している。たとえば今回の神楽では、現在映画や創作を通して広く共有されるようになった安倍晴明イメージをオマージュして、印を結ぶといった「晴明といえば」的な所作を取り入れたのだとか。

     面や装束もすべて手作り(!)なのだが、そこでも一目でこれは何の神だとわかるビジュアルを心掛けているそう。伝統の継承と伝わりやすさ、そのさじ加減が吉福さんの腕の見せ所なのだ。

    見た人がすぐにそれと理解できるよう、所作はわかりやすさも重視している。
    奉納後にはマイクを手に自ら解説も。

    神楽を神話への新たな入り口に

     そんな創作神楽、演目はご祭神が同じ神社などでは同じものを奉納することもあるが、基本的には各神社の神話、伝説ごとに神楽の構成を考え、都度新作をつくっている。こうした活動が神社から神社へと伝わり、吉福さんがこれまでに創作神楽を奉納した神社はすでに100社をこえたそう。

     2026年はほぼ休みなく毎週末どこかの神社で神楽を奉納。10月には宮城県の竹駒神社で晴明と同じ平安時代の人物、小野篁公をモチーフにした神楽を舞い、また11月には毎年酉の市で賑わう東京都台東区の鷲神社(おおとりじんじゃ)で、同社のために創作した鷲舞(おおとりのまい)を奉納している。

     立ち上げ時には一人だった社中も、今ではレギュラーメンバーが4人在籍。それでも人数的に舞える演目に限りがあるため同士を募り、普段は別の仕事をしながら繁忙期にサポートする準レギュラーが6人と、あわせて10人の大所帯になっている。メンバーはいずれも社中のSNSなどから興味をもち趣旨に賛同して仲間に加わったとのことで、創作神楽は広がり方もとても現代的だ。

    晴明神楽はレギュラー+準メンバーひとりの5人体制で奉納。

    「創作神楽では前後にしゃべりの時間もつくって内容をわかりやすく伝えたいと思っています。この神楽が神話に興味を持つ入り口になってくれたら」と吉福さん。

     創作神楽は神話の世界へのあらたな扉をひらく、現代の「岩戸開き」となっていくのだろうか。これからの展開が楽しみだ。

     さて、そんな晴明神楽奉納の舞台となった五方山熊野神社は、至る所に晴明を思わせる五芒星ゆかりの神紋が。また3本足の八咫烏の意匠もあちこちに配されて独特の雰囲気を放っている。東国では珍しい晴明伝承をつたえる知る人ぞ知る“ミステリースポット”、ふしぎな物語に思いを巡らせながら散策してみるのも楽しいだろう。

    神社のあちこちにヤタガラス。
    拝殿の天井は格子ごとにヤタガラスが!
    *熊野神社をより詳しく知りたい方にはこちらの記事も。

    webムー編集部

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