知られざる「八つ墓村」の埋蔵金伝説/MUTube&特集紹介  2026年10月号

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    「八つ墓村」に隠されたもうひとつの伝説

     この秋、横溝正史の名作探偵小説﹃八つ墓村﹄を映像化した新作映画が公開される。
     戦後間もない時期に発表されたこの物語を原作とする映像作品は、すでに映画が3本、テレビドラマが7本あり、今回が実に11回目の映像化。戦国時代の落人殺しや大正時代の無差別大量殺人など衝撃的な場面が多く、金田一耕助シリーズのなかでも屈指の人気を誇る作品だけにファンの期待も高まっている。
     さて、金田一ファンが岡山県を舞台にしたこの小説について熱く語るとき、必ずといっていいほど話題にのぼるのが、物語の冒頭で描かれた大正時代の大量殺人──田治見家の当主・要蔵による村人32人殺し──には、モデルとなった現実の事件が存在するという話だ。これは著者である横溝自身がエッセイに書き残している明白な事実である。
     その事件とはもちろん、昭和初期に同県北部の旧西加茂村(現津山市)で発生した津山事件、いわゆる津山三十人殺しだ。太平洋戦争前夜の1938年、この村の山間集落に住む21歳の青年が猟銃や日本刀で近所の住民を次々襲い、一夜にして男女30人の命を奪うという史上稀にみる凶悪事件が起きた。
     それから約10年後、岡山県に疎開していた横溝が県警の幹部から偶然この事件の話を聞き及び、そこから着想を得て田治見要蔵の凶行を描いたというのはあまりにも有名なエピソードだ。
     だが、ここにひとつ大きな謎がある。
     それは、要蔵の凶行から時代をさかのぼること350年余り前、八つ墓村で発生した「原点の事件」にも、モデルとなった史実や伝説が存在するのだろうかという謎だ。この記事では津山事件とはまた別の「八つ墓村のもうひとつの事実」を紹介していこう。

    「八つ墓村伝説」には知られざるモデルがあった!

     この小説を読んだことのある方ならご存じの通り、田治見要蔵の32人殺しには長い長い前史がある。それは1566年、毛利氏との争いに敗れた出雲(島根県東部)の戦国大名・尼子氏の落人8人が、3000両の黄金を携えて中国山地の奥深くにあるこの寒村に落ちのびてきたところから始まっている。
     当初、村人たちは彼らを温かく迎え入れ、落人たちも村人に心を許してこの地に隠れ住むようになった。ところが、やがて毛利方の追跡の手がこの地方に伸びてくると事態は一変。村人たちは落人を裏切り、不意をついて彼らを皆殺しにしてしまう。
     このとき村人を凶行に駆り立てた動機のひとつは、落人が携えていた黄金だった。
     しかし、落人たちはすでにそれをどこかへ隠していたらしく、村人たちがあたり一帯をいくら捜しても黄金は見つからなかった。
     それどころか、落人殺しを首謀した村の有力者・田治見庄左衛門がそれからまもなく精神に異常をきたし、村人7人を斬り殺したうえで自殺するという惨事が発生。村人たちはこれを8人の落人の祟りだと恐れ、その霊を八つ墓明神として祀った。以来、この村は八つ墓村と呼ばれ、謎めいた埋蔵金伝説が語り継がれるようになったという。
     そして大正時代、この村に悪夢が再来する。今度は庄左衛門の子孫にあたる田治見要蔵が正気を失い、一夜にして村人32人を猟銃と日本刀で惨殺する事件が発生。迷信深い村人たちはまたしても落人の祟りに違いないと恐れおののいた──というのが八つ墓村の呪われたストーリーのあらましなのだが、前述の通り要蔵の凶行についてはモデルとなった事件がはっきりしている。
     一方、その前史となる尼子落人の埋蔵金伝説については、意外なことに、そのモデルが何なのか、そもそもモデルが存在するのかどうかさえ明らかになっていない。横溝自身もこのあたりのことは何も書き残していない。これは「八つ墓村」という国民的物語に残された大いなる謎だといっていいだろう。
     筆者は今から十数年前、新聞記者として岡山県に赴任していたことがあり、そのころからこの謎に魅せられ、細々と調査を続けてきた。だが、地元の史料・伝説をいくら漁っても、尼子氏の落人が黄金を隠したとか、村人に裏切られて皆殺しにされたとかいった類いの話はいっこうに見つからなかった。
     しかし近年になってさらに多くの文献を読み、現地調査を進めるうち、県西北部に位置する新見市で古くから語り継がれてきたある民間伝承が横溝にインスピレーションを与え、八つ墓村伝説のルーツになったのだと確信するに至ったのである。

    (文=穴切史郎)

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