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広島県三次市は、物の怪の百鬼夜行で知られる土地だ。
地元に伝わる絵巻『稲生物怪録』によれば、江戸時代中期の寛延(1749)年、稲生平太郎(元服後は「武太夫」)という16歳の少年が、隣に住む相撲取りの三井権八と肝試しをすることになった。
地元の比熊山山頂には、「たたり石(神籠石)」と呼ばれる大きな石がある。
触れれば即死し、指差しただけでも吐血すると噂される恐ろしい石だ。5月の夜中、ふたりは、比熊山にひとりずつ登って、この石に触ってくることにしたのだ。

権八は揺れる草木や動物の鳴き声に怯え、途中で逃げ帰ってきた。ところが平太郎は山頂まで難なく登ると、たたり石に手を当て、なにごともなく帰ってきた。
それからしばらくした7月1日の深夜──。
平太郎が床につこうとすると突然、物の怪の大男が現れた。しかし平太郎は動じず、刀をとると斬り伏せてしまう。
2日の夜は行灯の火が突然燃えあがったが、平太郎は気にもしなかった。
それからも若い女の生首が逆さになって空中を舞い、老婆が寝ている平太郎の顔をなめるなど、怪異は連日に及んだ。そして30日の夜、それまでとは違う武者姿の物の怪が現れる。
「拙者は山ン本五郎左衛門と申す魔物の主である。そなたのような勇気のある者は知らぬ。まこと感服申した」
そういうと物の怪たちとともに、雲の彼方に消えていったという。
ちなみに時代を下るごとに物語にはエピソードが加えられ、山ン本五郎左衛門が平太郎に木槌を渡し、いつでも呼びだしてくれと伝えたというものもある。
稲生平太郎の家系は現在にも継がれており、三次市には平太郎の石碑もある。比熊山の登山道は整備され、かつてのようなおどろおどろしさは見られなくなっているものの、山頂にはいまもたたり石が鎮座し、その前には木槌も供えられている。
はたして祟りは、まだ生きているのだろうか。



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(月刊ムー 2026年06月号)
中村友紀
「ムー」制作に35年以上かかわるベテラン編集記者。「地球の歩き方ムー」にもムー側のメインライターとして参加。
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