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唐代の中国で玄宗皇帝の寵愛を受け、それが国家を傾ける内乱の原因になったとされる「傾国の美女」──楊貴妃。哀れにも最後は皇帝の命で命を絶たれたという。その彼女がひそかに日本に逃れてきて、今でも墓が大切に守られている……。
そんな話を伝えているのが、山口県長門市油谷にある龍伏山天請寺二尊院だ。
二尊院には、江戸時代末期から明治時代初期に同寺の住職を務めた第55世・恵学和尚が書き残した古文書がある。それによれば、物語は以下のとおり。
奈良時代、向津具半島の岬の西側にある唐渡口に、空艫舟が流れ着いた。舟には気品のある美しい女が乗っており、侍女が里人にこう告げた。
「このお方は唐の玄宗皇帝の愛妃、楊貴妃と申される。安禄山の反乱により処刑されるところを、近衛隊長が密かに命を助け、舟で逃れさせ、この地に流れ着いた」
残念なことに楊貴妃は、まもなく息を引き取ってしまう。そこで里人たちは、故郷である西の海が見える丘に彼女を葬った、 これが現在も二尊院の境内に残る五輪の塔、「楊貴妃の墓」なのだ。

また二尊院には、その名の由来となったこんな後日譚もある。
楊貴妃への恋心が断ち切れない玄宗皇帝はある夜、不思議な夢を見る。
「私は日本に流れ着き、人々からはやさしくしてもらいましたが、体は弱り切って、とうとうこの世の者ではなくなりました。でもいつの日かお会いできるときがまいりましょう」
夢のなかの楊貴妃の言葉に、玄宗皇帝は阿弥陀如来と釈迦如来の2体の仏像と十三重の大宝塔を白馬将軍陳安に持たせ、日本へ遣した。だが陳安は楊貴妃の漂流地を見つけることができず、それらを京都の清涼寺へ預けて帰国する。
その後朝廷は、楊貴妃の墓が長門国の天請寺にあることを知り、仏像を移すように命じた。ところが清涼寺も霊験あらたかな像を手放す気はない。そこで朝廷はそっくりの仏像を2体造らせ、それぞれの寺で分けあって安置させたのだ。

こうして阿弥陀如来像と釈迦如来像の2体を本尊としたことから、天請寺は「二尊院と名乗り、天下太平・五穀豊饒の祈願怠りなく奉るべし」との勅命を賜ったのである。
楊貴妃の墓は願いが成就するパワースポットとして、今もなお多くの参詣者を集めている。


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(月刊ムー 2026年03月号)
中村友紀
「ムー」制作に35年以上かかわるベテラン編集記者。「地球の歩き方ムー」にもムー側のメインライターとして参加。
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