過去・現在・未来が等しく同時に存在している「ブロック宇宙論」! 時間の概念は幻想か
われわれは過去の出来事を振り返り、今現在に対処し、明日以降の未来を思い描きながら日々を送っているが、最先端の理論物理学はそうした時間認識が根本から間違っているという――。
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時が止まった世界は存在するのか――。“ミニ宇宙”を作り上げて行われた新たな研究で、時間は加速もすれば減速もし、時には止まることがあると報告されている。
なんらかの状況下で「時間よ止まれ」と念じたとしても、それが叶わぬ望みであることは明らかだ。しかし最新の研究では、時間の進む速度は早くなったり遅くなったりと変化しており、止まることさえあることが示唆されている。時間は変化が生み出しているものであり、変化がない場合に時間は止まっているというのだ。
そもそも現代科学をもってしても時間とは謎だらけである。一般相対性理論と量子力学を統合する「量子重力理論」において、宇宙全体を一つの量子状態として記述するために考案された「ホイーラー・ドウィット方程式」では、宇宙に固有の時間はなく、粒子が波動性と粒子性の両方の性質を示す量子状態として存在していることのみが示唆されている。
宇宙に時間がないとしたら、今われわれがいる世界で流れている時間のように思えるものは、いったいどこから生じているのか? 新たな研究では、実験室で“ミニ宇宙”を作り上げることで、時間がどのように発生するかを検証している。
英バーミンガム大学の実験物理学者ジョバンニ・バロンティーニ氏が先頃「Physical Review Research」で発表した新たな研究では、まず最初に極低温原子の雲を用いて“ミニ宇宙”が構築された。このシステムは周囲からほぼ完全に隔離されているため、(この宇宙と同様に)時を刻む外部の要素は何もない。絶対零度からわずか数十億分の1度高い極低温のルビジウム原子2万4000個からなる雲は、「ボース・アインシュタイン凝縮」と呼ばれる状態で密閉された量子システムである。
そしてバロンティーニ氏は、この“ミニ宇宙”の中央にレーザー光で仕切りの薄い膜を設け、観測可能な「明るい部屋」と、観測を放棄した「暗い部屋」との2つの領域に分けた。
すると「明るい部屋」の原子は周期的に膜を越えて「暗い部屋」へと侵入し、少しすると再び戻ってきた。バロンティーニ氏は、原子が「明るい部屋」に戻ってくる瞬間を「ビッグバン」、原子が「暗い部屋」へと吸い込まれていく瞬間を「ビッグクランチ」(宇宙の崩壊)と定義。そして、原子が膜を越える際に、エントロピー(無秩序の度合い)が2つの領域間でどのように交換されるかを追跡した。
バロンティーニ氏は「エントロピー時間」という新たな概念を構築し、エントロピーに変化があれば時間は刻々と進み、エントロピーの交換がなければ時間は止まると仮定した。同氏によれば「2つの領域間のエントロピーの交換を、内部の時間変数に変換できる」ということだ。
観測の結果、「明るい部屋」内部のエントロピー時間は「明るい部屋」における出来事を確実に順序づけていた。それは実験室内の時間の流れと一致していたものの、なんとその速度は異なっていたのだ。
膜を越えてエントロピーが大量に流れ込んでいるときは、エントロピー時間は速く流れた。そして流入が鈍ると、エントロピー時間の速度も遅くなった。そして2つの部屋が平衡状態に達してエントロピーの流れがなくなると、エントロピー時間は完全に停止したのである。
「システムの動作状況に応じて、時間の流れが速くなったり遅くなったり、あるいは止まったりすることもありました」とバロンティーニ氏は科学メディア「Live Science」に語る。驚くべきことに、理論上は“時間よ止まれ”という願いが叶う事態もあり得るのだ。
彼はさらに一歩進み、この内部時間の考え方を用いたシュレーディンガー方程式の派生式を導き出し、それが実験で観察された現象を正確に再現することを示した。
「すべてがこれほど見事にまとまったのは本当に驚きでした。実験ではめったにないことですが、実にきれいにまとまった」(バロンティーニ氏)
式によると、時間そのものと時間の矢(時間が一方向に流れる理由)は、どちらも同じ源――すなわち観察者が情報を放棄すること――から生じる可能性があるという。バロンティーニ氏が「暗い部屋」の観察を放棄したことによって観察者効果が無効化し、もう一方の「明るい部屋」に時間が生み出された。そしてエントロピーの変化によって時間の進み方も加減速し、エントロピーに変化がなければ時間が止まるのである。
「時間も、時間の流れも、おそらく“知らないこと(観察の放棄)”から生まれるものでしょう。時間をもつためには、ある程度の自由を手放さなければならないのです」(バロンティーニ氏)
バロンティーニ氏はこれをほんの始まりに過ぎないと考えている。彼の“ミニ宇宙”は、原理的にはブラックホール現象、初期宇宙の状態、そしてビッグクランチの瞬間になにが起こるかといった、ほとんど謎に包まれた宇宙現象をシミュレートするようにも設計できるという。彼の“ミニ宇宙”を用いた実験で、今後もさらに宇宙の謎に迫ることが期待できそうだ。
【参考】
https://www.livescience.com/physics-mathematics/time-was-speeding-up-slowing-down-or-even-stopping-physicist-demonstrates-a-key-theory-of-time-by-building-a-mini-universe-in-his-lab
https://www.birmingham.ac.uk/news/2026/scientist-creates-miniuniverse-to-measure-time-without-a-clock
仲田しんじ
場末の酒場の片隅を好む都会の孤独な思索者でフリーライター。興味本位で考察と執筆の範囲を拡大中。
ツイッター https://twitter.com/nakata66shinji
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