妖怪タウン福崎町に「人面魚」出現! 河童が棲む池の霊力が鯉を妖怪化?
あの大騒動から30年、令和の世に人面魚が出現。しかもそこは、あの世にも恐ろしい河童が住む池だった!
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柳田國男の出生地・兵庫県の福崎町に妖怪が集う。いよいよ百鬼夜行も始まって、観光振興、経済効果も拡大中だ。妖怪は福を招く? 現地を取材した。
*昨年、2024年の記事はこちら。
最近、妙に百鬼夜行を見かける気がする。筆者は先日、京都で行われた百鬼夜行を目撃したばかりだが、今度は兵庫でも出現するとのウワサが耳に飛び込んできた。
これは偶然なのか? それとも、妖怪たちが各地で動きはじめているのか? その答えを探るべく、筆者たちムー取材班は、百鬼夜行が行われる“ある町”を訪れた。
その町とは、民俗学の父・柳田國男の故郷である兵庫県・福崎町。柳田國男生誕150周年を記念し、初の「FUKUSAKI百鬼夜行」が行われるという。
福崎町は「ムー」でお馴染みの妖怪タウン。人口2万人の自然あふれるのどかな町には現在、約30体もの妖怪がひっそり……いや、堂々と棲みついている。 その始まりは、町内の辻川山公園にある“濁った池”だった。どうにも澄まないこの池に、「じゃあいっそ、河童を棲ませてみよう」と、河童のガジロウを設置したことがきっかけだ。
その後は妖怪ベンチや「空飛ぶ天狗」などが町のあちこちに登場し、今では妖怪たちがすっかり“町の顔”になっている。


そして不思議なことに、福崎町が「妖怪の町」を名乗りはじめてからというもの、外から“妖怪っぽい人々”が自然と集まるようになった。妖怪に興味のあるクリエイター、コスプレイヤー、研究者……その顔ぶれは年々バリエーションを増している。
そして今年はついに、全国を巡業する「妖怪サーカス」までもが福崎町へやってきた。どうやら彼らがメインとなって、百鬼夜行を開催するという。ムー取材班は期待をふくらませながら、さっそく現地へと向かった。

福崎町初の「FUKUSAKI百鬼夜行」が行われたのは、ハロウィン本番を目前にした10月25日のこと。この日は日中に「第50回福崎秋まつり」も開かれており、町中がお祭りムード一色だった。

秋まつりのメイン会場「福崎エルデホール」へ足を運ぶと、特別記念公演『何かようかい~つながるあそび~』の開演を待つ人たちが、続々と入り口へ吸い込まれていくところだった。大人も子供もわくわくを隠しきれない様子で、笑い声が外にまで響いている。

「何かようかい」は、パフォーマンス集団「OsakaMasters(オオサカマスターズ)」による作品。世界レベルのパフォーマーたちが妖怪に扮し、「妖怪が昔の遊びで人々の絆を繋ぐ」をテーマに、日本の伝統的な遊びを取り入れた芸を披露している。

のっぺらぼうの福笑いに、ジャグリングする小豆洗い、座敷童子による新体操、ろくろ首の大縄跳び……そう、彼らこそが「FUKUSAKI百鬼夜行」のためにやってきた妖怪たちだ。
「FUKUSAKI百鬼夜行」は、神戸医療未来大学の学祭「魑魅魍魎祭」の前夜祭を飾るメインイベントとして、福崎町と大学がコラボして生まれた企画。前夜祭では「日本妖怪研究所 所長・亀井澄夫の怖~い話」や「妖怪仮装コンテスト」など、妖怪尽くしのプログラムが目白押し。取材班が大学に着く頃には、前夜祭を見に来た地元の人々でキャンパス周辺が賑わい始めていた。

日が暮れて辺り一面がどっぷりと夜に染まった頃、激しい太鼓の音がどこからともなく聞こえてきた。段々と近づいてくる重低音につられるかのように、会場にいた人たちが「なんだなんだ!?」と音のするほうへ駆け出す。やがて軽快なお囃子が鳴り響き、真っ暗闇から妖怪たちが登場!

地元の和太鼓チーム「和楽」の演奏とともに踊り歩く一同。その先頭にはガジロウの姿が。「何かようかい」の河童と手をつないではしゃいでいる。初めての体験にガジロウも楽しそうだ。
和楽が妖怪の町・福崎町のアピールのために作曲した「YOKAI音頭」に合わせ、歌い、踊り、ポーズを決める妖怪たち。小豆洗いが沿道に向かって「みんなで一緒にかっぱっぱ~!」と声をかけると、人間たちも「かっぱっぱ~!」と手拍子を返す。その一体感と楽しげな空気は、見ていて思わず笑顔になるほど。


この日は徳島からのゲスト妖怪も参加。仮装をした大学生や町民たちも行列に混ざり、約100体もの妖怪が勢ぞろい! 広場の特設ステージを目指し、大学キャンパス内を練り歩く一行。そして壇上にたどり着いた瞬間……なんと、雨が降ってきたではないか! これも妖怪パワーが起こした現象かもしれない。


雨がざあざあと降りしきる中、ステージで「YOKAI音頭」を一斉に披露。雨音に負けじと、妖怪と人間の掛け声が響き渡る。思い思いの仮装をした大人や学生、子どもたちが、びしょ濡れになりながらも笑顔で音頭に合わせて踊っていた。雷鳴のような太鼓の音が会場全体を震わせ、祭りの熱気は最高潮!

ラストは大きな拍手と歓声が沸き起こり、妖怪たちは再び夜の漆黒へと姿を消していった。……すると、雨がふいに止み、空がすっと開けた。そして夜空に打ちあがる、大輪の花火。まるで妖怪たちからの「また来るよ」というメッセージのようだった。

町に根付く妖怪文化と、大学生たちの創造力、そして外部の妖怪パワーが合わさることで生まれた、福崎ならではの特別な夜。その熱量は、訪れた人の心にも深く刻まれたことだろう。

福崎町はここ数年、観光・教育・文化を横断するかたちで妖怪プロジェクトを育ててきた。妖怪ベンチやモニュメントを設置するだけでは、ただの観光装置で終わってしまう。そこで神戸医療未来大学と手を取り、“妖怪文化を学び、つくり、体験する土壌づくり”を進めてきたのだ。

今年の「FUKUSAKI百鬼夜行」も、その延長線上にある。福崎町が掲げる「伝統とサブカルチャーを融合させ、地元の人たちが『この町が好きだ』と誇りを持てるような、新しい文化観光の形をつくりたい」という想いが、形になったひとつの成果だ。
ちなみに、百鬼夜行の翌日には、学生たちによる本格的なお化け屋敷が登場していた。

入口からして「いかにも」な雰囲気。ムー取材班もさっそく挑戦してみることに。
渡されたのは、小さな懐中電灯ひとつ。「学生企画だから可愛いものだろう」と悠長に構えていたが……足を踏み入れた瞬間、あっさり裏切られた。お化け屋敷内は完全な闇。手元の灯りだけでは数歩先すら見えない。

ところどころで響く物音、出口のわからない不安、視界の効かない空間特有の緊張感。想像以上に本格的な演出だ。物陰から飛び出す学生の脅かし方もキレがあり、大人でも思わず声が漏れるレベルだった。

「妖怪」をテーマに、町の秋祭りと大学の学祭が呼応するように盛り上がる。この土地の妖怪信仰に、若い世代の力が重なったことで、町全体がひとつの“妖怪磁場”として機能しはじめているように感じた。

妖怪きっかけに町に人が集まり、新しいものが生まれ、土地が潤い、縁が広がる。その積み重ねによって、福崎町はここ数年でぐっと活発になった。地元の人が「最近、観光客が増えたね」と口にするのも、決して気のせいではない。
実際、ガジロウが池から飛び出してくる以前は年間約25万人だった観光客が、今では70万人を超えるようになった。柳田國男の生家がある辻川エリアにオープンした観光交流センター「サキちゃんプラザ」も、わずか数年で来館者が10万人を突破。特産のもち麦を使った新商品が話題になったり、古民家を活かした宿泊施設ができたりと、経済的にも文化的にも変化が起きている。

かつて妖怪は、人々に恐れられる存在だった。だが福崎町では、福を呼ぶ存在になっている。見えないものの気配を楽しみ、その物語を共有することで、人と町がつながっていく。妖怪信仰の根っこにある「異界と共に生きる」という感覚は、形を変えながら今も息づいているのかもしれない。
倉本菜生
寺生まれオカ板育ち、京都在住。
魑魅魍魎はだいたい友達なルポライター、日本史研究者。
オカルト×歴史学をテーマに、心霊スポットや怪談の謎を追っている。
住んでいるマンションに何かいる。
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