知られざる伝承呪術「嶽啓道」継承者! 占呪術師きりん/本田不二雄
日本の長い歴史の裏側で、密かに継承されてきた占いとまじないの秘法を伝える占呪術師(せんじゅじゅつし)がいる。その最後の継承者・きりん師に、いかにして秘法を伝授されたのか、その内容はどんなものだったのか
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毎年6月末には全国の神社で大祓(夏なこし越の祓)が行われる。一年の折り返しを迎え、自身に重なった罪ケガレを祓い、リセットを果たす機会だ。嶽啓道・き りん師いわく、巳年の大祓は、辰年で極まった龍神のはたらきを再生・復活させる、またとない機会だという。そこで今回は、合わせ鏡と精霊石を用い、一願成就を実現する特別なまじない秘法を公開していただいた。ぜひ試みていただきたい。
目次
お気づきのとおり、前項のウロコ剥がし①~③は、呪術(まじない)でも何でもない。まじないといえば、「作法・術法の効験で願いを叶えること」と安易に考えがちだが、いわば“ガチまじない”の嶽啓道では、祈願者の環境認識と環境整備が不可欠。つまり、まじないが通る(成立する)ための環境が調っていることが前提なのだ。
「それあってのまじない作法。『まじないだけでなんとかしよう』は絶対に無理だということはお伝えしたい。
巳(身)の改め、すなわち自分でできる脱皮をしたうえで、今回のまじない(精霊の助け)を重ねることで、これまでの自分の行動や思考、感情へのブラッシュアップがされて、善き流れに向かって動きやすくなっていきます。そして、なりたい自分に向かって動きやすくなり、なりたい自分の姿に近づくことができます」(き りん師)
さて、ここからは具体的なまじない作法である。
嶽啓道ふうの語呂合わせでいえば、「巳から辰(今回の巳年から次の辰年)に向けて『身から立つ/身が立つ』祈願成就まじない」というべき秘法。
そのポイントは、「合わせ鏡の呪法によって地龍の精霊を呼び出し、そのアシストを得る」ことにある。
用意するのは、水を入れる器と鏡、手ごろな大きさの石、水溶性の紙。以上である。
器は、皿ではなく、ある程度水がプールできる深さがあるもの。茶碗鏡でもよいが、以下の鏡を中に置けるだけの大きさが必要。ボウルなどを用いるとよい。
鏡は手鏡サイズのものが好適。形は丸でも四角でもよい。また適当な鏡がなければ、銀の蓋で代用も可。器に満たした水の中に、鏡面を上にして置く。
石は、特別な石(宝石・貴石)でなくても可。できれば家の庭にある石が最適だ。庭のない家の場合は、できるだけ近所の土のある場所で捜すこと。大きさは、掌に置いて握って収まる程度の大きさがよい。
紙はオブラートのように水に溶けるものが好適だが、水に溶けるものであればティッシュでも可だ。
水を張った器に、鏡を鏡面を上にして底に置く。これはまず何を意味するのだろうか。
「水鏡といって、水そのものが鏡の代わりになるんですよ。それに鏡を入れることで合わせ鏡をつくるんですね」(き りん師)
合わせ鏡とは、2枚の鏡を平行に向かい合せたものをいう。たとえば、自分の顔の正面と背面に鏡を向かい合わせると、鏡に映った鏡の中に鏡が写り、その中にまた鏡が写る、という具合に、鏡の中は途方もない広がりを見せる。さらに複数枚数の鏡を向き合わせれば、より複雑な写りこみの連鎖が発生する。
その不思議さから、合わせ鏡は魔術のアイテムに用いられるほか、「深夜に2枚の鏡を合わせると、未来や過去が見える」「その何番目の鏡に死に顔が映る」「悪魔の通り道になる」「突然霊的な現象が起きる」などと語られることもある。
「それが洞のまじないにも使われていたんです。私が知っているのも、“バテレンのばあちゃん”が精霊を捕まえる手法としてやっていたものに近いのですが、要するに、水の中に鏡が入ると、表面の水鏡と中の鏡のあいだにできる空間に精霊を呼び出せるんですね」(き りん師)
このあたりの機微は筆者の理解の外だが、要は、ふたつの鏡面を合わせて裏がないようにすることで、水を媒体とした特殊な空間ができる。それはいわば精霊の空間であり、そこにはわれわれを取り巻く時空とは異なるもので、精霊が反応する次元・波長が生じている……ということだろうか。
そしてそこに、(近しい場所の地面にあった)石を入れる。すると、その石を依り代にして精霊が宿るという。
きりん師にいわせると、「水面に紙を置いて水中に網をかけ、そこに石を載せて沈め、まじない言葉(後述)を唱えることで、石で精霊を釣る、あるいは引っかけるイメージです」とのことだ。
こうして“捕まえた”精霊石を水から取り出し、精霊(地龍の眷属)が宿る守護石として持ち歩く――。
以上がこのまじないの概要である。
いわば、自分の分身たる石に精霊を憑依させ、それを携帯し、自分の祈願ごとをアシストしてくれる守護石にするという呪法である。
「『一石を投じる』といいますが、石(意志)あるものにまじないを入れて、精霊の力を分けてもらい、お守りにする。正確にいうと、本来は見えない、呼び出せない精霊を捕まえて使役するというもの。まあまあ本格的なまじないなんですよ」(き りん師)
ここで、上記の作法を整理してみよう。
1、器を用意して水を張る。
2、水中に鏡を入れ、鏡面を上にして置く。
3、水面に紙を載せる。
4、おまじない言葉①を唱える。「すわやの みやに たち うつせ」(3回お唱え)*精霊の空間(おみや)を設定し、召喚するまじない言葉「さあ、こちらにお移りください」の意念をこめる。
5、水中に石を入れ、鏡と溶けた紙の上に置く。
6、おまじない言葉②を唱える。「かく、かく、と がんぎ あらんせ」(1回お唱え)
*「自分がこうなりますように、この願いが成就しますように」の意念を込め、石(意志)あるものにまじない言葉を唱え、精霊のご加護を分けてくださいと祈る。
7、溶けた紙で石を包むようにして水から採り出す。
8、採ったら手で振って水を切る。
*振ることで、石に宿った精霊を混乱させ(軽く気絶させ)、離れていかないようとどまらせる。
9、持ち歩く。
*鞄に入れるなどして常に離さず携帯する。こすれたり汚れたりしないように専用の小袋に収めておくのもよい。帰宅したら、石を出して皿の上に安置する。
10、願ほどきをする。
*年末の大祓の時期に、土に埋めるか、水で祓落とす。本来は石を砕くのがよいが、それが難しければ、キッチンのシンクにコップを用意して中に精霊石を入れ、15分ほど水を出しっぱなし(水中で石が回転するほどの水量で)にして祓い落とす。すると、ただの石に戻る。
始めるのは、6月から7月のどこか。終了は12月末の大祓。なお、途中で気分が変わったり、思いがけず祈願が叶ったときは、さっさと願ほどきをすること(ここをおざなりにしないことが肝要)。
このまじないを行ううえで重要なことは、まず「祈願をひとつ決めること」だ。これは当然のようでいて、その実、一願成就に集中する機会は案外と少ないかもしれない。
き りん師はこう指摘する。
「『祈願はいっぱいあるから所願成就で』という人がよくいいますが、『所願成就って何?』と聞かれて、それをちゃんと説明する人は少ないでしょう。『恋愛がうまくいきますように』の場合も、どういうこと? だれとどうしたいの? と精霊から突っ込まれかねません。具体的に祈願できればできるほど、祈念にはっきりとした方向性があることから、その人についた精霊はよくはたらきやすい」
「一番わかりやすいのは、子供の祈願。面白いと思ったのは、50メートル走で9秒台で走れるようにとか、逆上がりができますようにとか、とても現実的で切実、しかも具体的な願いごとを口にします。こんなふうに、目標が身近で、それに向けた努力のしがいがある祈願ごとを設定するのが重要ですね」
たとえば、仕事運なら、営業所内で売り上げが○位以内にとか、こういう実績をつかみたいとか。良縁祈願の場合は、具体的にだれと、またはこういう異性と出会いたい。あるいは結ばれたいと。すでに関係が生まれているとすれば、具体的に結婚にたどり着きたいとか、ゴールをはっきりと意識するのもいいだろう。
逆に、具体的な祈願ごとが思い浮かばないという人は、目標をしっかりと明確化する自分をつくる機会にしたい。自分が目指すべき方向性がわからないのは、自分そのものをよくわかっていないということ。これを機に自己理解を深め、リセット(ウロコ磨き)・再起動を試みていただきたい。
「とくに巳年の祈願は、具体的に『ミ』(実、身)になるものになってくるから、具体性が上がれば上がるほど、その祈願は達成しやすくなります。それはつまり、精霊たちの応援がもらえる、『巳方(味方)』がつく、ということでもあります」(き りん師)
ただし、祈願が身近で具体的であればあるほど、その実現が自分の努力によるものか、まじないによるものかがわからなくなっていくこともある。
「でも、それが本来のある形。まじないと行動が一致したときに結果が出る、というのが理想的な形だと思ってください」(き りん師)
『嶽啓道 まじなゐ作法』
駒草出版より¥1,870(税込)にて、2025年7月8日発売予定。
(月刊ムー 2025年7月号掲載)
本田不二雄
ノンフィクションライター、神仏探偵あるいは神木探偵の異名でも知られる。神社や仏像など、日本の神仏世界の魅力を伝える書籍・雑誌の編集制作に携わる。
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