ふたつの三角形で全宇宙を表す「六芒星」と魔術道士たちの表徴「五芒星」/秘教シンボル事典
賢王ソロモンが用いた徽章「六芒星(ヘキサグラム)」と人間自身を模した魔道の星「五芒星」についての基礎知識。
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毎回、「ムー」的な視点から、世界中にあふれる不可思議な事象や謎めいた事件を振り返っていくムーペディア。 今回は、ヒトラーの暗殺計画を予言し、のちに〝ヒトラーの指南役〞とも噂された天才占星術師を取りあげる。
ナチス・ドイツは、国家ぐるみのオカルト集団だったともいわれる。この主張の一環として、アドルフ・ヒトラーにはお抱えの占星術師がおり、その助言に基づいて政策を決定していたという風説もあるようだ。その占星術師の名は、カール・エルンスト・クラフトとされる。
では、このクラフトとは、実際にはどういう人物だったのだろうか。
クラフトは 1900年、スイスのバーゼルで生まれた。父のカール・クラフトは、ホテル経営や醸造業を営む実業家で、彼が所有していたホテルは、経営者こそ変わっているものの、バーゼルでも指折りの由緒正しい高級ホテルとして現存しており、アメリカのコンタクティ、ジョージ・アダムスキーが1963年5月にバーゼルを訪れた際にはここに滞在している。
クラフトは少年時代から利発で学業成績はよく、特に数学には並々ならぬ才能を発揮したという。実業家の父はこの才能を見込んで、将来は銀行や保険業などの金融の道に進むことを期待したのだが、クラフトは父の反対を押し切ってバーゼル大学で科学を専攻した。
クラフトの神秘主義的傾向があらわになったのはこのころである。1919年、妹のアンネリーゼが死亡したときには、2年前にその予知夢を見たと主張した。その直後から心霊主義に傾倒して関係書を読み漁り、テレパシーの実験も行っている。
最初に占星術に触れたのもこのころで、ジュネーヴ大学で統計学を学ぶようになると本格的に研究を始めた。
ジュネーヴでは、1820年以後に生まれた6万人もの男女の出生データを収集、星座と彼らの人生との関わりを調査した。同時に、2800人の音楽家の出生図も調べ、生まれ星座と音楽的才能の関係を発見している。
こうした研究の結果、クラフトは「出生時の星の配置は、その人間の肉体的条件や体質を決定し、その後の星の運行が肉体的状況を強めたり弱めたり、さらには死さえ招くもの」と結論した。
彼にとってこの発見は、占星術の正しさを科学的に証明するものであるばかりでなく、「宇宙生物学」とも呼ぶべき新しい学問の始まりでもあった。
自身の研究成果を「個々の人間に対する宇宙の影響」という論文にまとめ、大学のセミナーで意気揚々と発表したクラフトであったが、評価は分かれた。統計学や数学の教授は、彼の手法に統計的な誤りはないと評価したが、なにしろテーマが占星術である。結局ジュネーヴ大学は、クラフトへの博士号授与を見送った。
失意のクラフトはジュネーヴを去り、1926年からは親戚が経営するチューリッヒのデパートで職を得た。ここでは新たに筆跡学も学び、筆跡学や占星術による性格分析を活用して、職員の採用やカウンセリングを行った。その性格判断は評判を呼び、他の銀行なども彼に職員の性格分析を依頼してきた。
デパートを辞めてからも、クラフトは心理学アドバイザーや心理療法士を名乗りつつ、占星術による経済予測やノストラダムス研究を続け、地元の占星術雑誌にも寄稿するなどして、次第に名前を知られるようになった。
このころクラフトと会見し、その判断に大きな衝撃を受けた人物が、当時ロンドンに在勤していたルーマニア人外交官、ヴィオレル・ティレアであった。
ティレアは1937年春、妻の病気の治療のためチューリッヒを訪れたところ、妻を診察した医師からクラフトを紹介された。最初半信半疑でクラフトを訪ねたティレアは、クラフトから自分の過去の出来事をことごとく指摘されて心底驚いた。
すっかりクラフトに心酔したティレアは、翌年再びクラフトを訪ね、当時のルーマニア要人2名の筆跡と生年月日を託し、匿名での鑑定を依頼した。
最初の人物についてクラフトは、分裂気質の人物であり、1938年11月以後は生きていないだろうと述べた。
もう一方の人物については、現在権力を得ているが、1940年9月に破壊的な逆転が起こるという判断を下した。
このクラフトの予言は、後日恐ろしいほど正確に的中した。
ティレアが鑑定を依頼した最初の人物は、ルーマニアのファシスト政党鉄衛団党首コルネリウ・コドレアヌだった。クラフトの占いの直後、コドレアヌは反政府活動の容疑で逮捕され、懲役10年をいい渡された。さらに逃亡を図ったという理由で、この年の11月30日に処刑されている。
もうひとりの人物は、当時のルーマニア国王カルロ2世であった。彼もまたクラフトの予言通り、1940年9月にルーマニア国民やドイツ、ソ連などの圧力に屈して退位し、国外に亡命した。
そして、もうひとり、クラフトとその占星術に強い関心を持った人物がいた。ボン大学のハンス・ベンダーである。
ハンス・ベンダーといえば、ドイツにおける超心理学の草分けであり、戦後になってからもローゼンハイム事件やユリ・ゲラーの金属曲げなど、多くの事例を調査し、終生超能力の研究に携わった人物である。
ベンダーは1937年にクラフトと知り合い、占星術の信憑性を調査するうえで、クラフトの協力をとりつけた。この共同研究のため、クラフトはベンダーの斡旋で、南ドイツのウルベルクに移り住んだ。
クラフトに次の転機が訪れたのは、1939年11月のことだった。
このころ、ドイツ情報部に勤める知り合いからドイツ政府への協力を打診されたクラフトは、ヒトラーのホロスコープを精査してみた。すると11月の7日から10日の間、ヒトラーの生命が爆発物によって危険にさらされるという判定結果が出た。クラフトはこれを情報部の知り合いに送ったのだが、この情報は引き出しにしまわれたままだった。
しかし11月8日、ミュンヘンのビアホール「ビュルガーブロイケラー」で、クラフトの予言通りヒトラー暗殺未遂事件が起きた。
ヒトラーは、1923年のミュンヘン一揆を記念して、毎年この場所で演説を行っており、爆弾は演説時間中に爆発するようセットされていた。しかし、ヒトラーはなぜか予定より早めに演説を終えて立ち去ったため、爆発はヒトラーが去った直後に起きた。
ナチスの秘密警察組織ゲシュタポはただちに事件の背後関係を調査し、予言を書き送っていたクラフトも捜索対象となった。もちろん、事件に関与していないことはすぐに明らかとなって釈放されたが、事件をきっかけにクラフトは宣伝省で働くことになる。そこで期待されたことは、ノストラダムスの予言書にドイツ寄りの解釈を付して連合国側にばらまくことだった。
情報戦にノストラダムスを利用するのは、宣伝相ゲッベルスの発案であり、ゲッベルスは何人かの占星術師と直に面談した結果、最適の人物としてクラフトを抜擢したのだ。
クラフトの注釈を付けた『ミシェル・ノストラダムスの予言』という書物が刊行されたのは、1940年10月だった。さらに翌1941年2月には、フランス語版も出版されたが、その直後、クラフトの運命は暗転する。
1941年5月10日、ナチス副総統のルドルフ・ヘスが、単身イギリスに渡った。ヘスがなぜこのような行動をとったのか、今となってもはっきりしていない。一説には、独自にイギリスとの単独和平を試みたともいわれているが、ナチス政権内部では、ヘスは占星術師にそそのかされて亡命したのだという意見が大勢を占めた。
ゲシュタポ長官ハインリッヒ・ミューラーはヘスの関係者ばかりでなく、占星術師やオカルティストと名のつく連中を手当たり次第に逮捕させた。宣伝省に協力していたクラフトも例外ではなく、6月12日にゲシュタポに同行を求められた。
翌6月13日にはいったん釈放されたものの、以後クラフトの待遇は囚人同然となった。帰宅も許されず、宣伝省の分館に閉じ込められ、日中は占星術を用いたプロパガンダ活動に従事させられた。
しかし、自分の判断に自信を持つクラフトは、ナチスが望む通りの解釈を拒否したため、8月になると他の部署に回された。このころには、クラフトはだれとも口をきかなくなり、ろくに食べ物も摂ろうとしなくなった。
遂には1943年2月12日、他の囚人たちと一緒に刑務所の雑居房に収監され、そこでチフスを発症した。その後、オラニエンブルクの収容所に移されるが、1945年1月8日、ブッヘンヴァルト強制収容所への移送途中に死亡した。
このようにクラフトの実像は、確かに天才的な占星術師であり、ナチスとも協力関係にあったが、実際にはその期間は短かった。そのクラフトをヒトラーの指南役のように誇大に語ったのは、先述のヴィオレル・ティレアであった。
第2次世界大戦が始まると、ティレアはロンドンに残り、「自由ルーマニア運動」という祖国解放運動に加わった。このときティレアは、イギリス政府に自分たちの運動を支援するよう呼びかけると同時に、クラフトの存在も伝えた。
なにしろクラフトの占いを心の底から信じ込んでいるティレアだから、クラフトとナチスの関わりをかなり大げさに吹聴したようだ。この結果、イギリス政府も亡命ドイツ人のルイ・ド・ウォールという占星術師を雇い入れ、英独占星術戦争とでも呼ぶべき状況が生まれることになる。
羽仁 礼
ノンフィクション作家。中東、魔術、占星術などを中心に幅広く執筆。
ASIOS(超常現象の懐疑的調査のための会)創設会員、一般社団法人 超常現象情報研究センター主任研究員。
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