街のシンボルになった怪物「モスマン」とUFOの意外な関係/ウェストバージニア州ミステリー案内
超常現象の宝庫アメリカから、各州のミステリーを紹介。案内人は都市伝説研究家の宇佐和通! 目指せ全米制覇!
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アメリカ50州には、それぞれニックネームがある。ニューヨークなら「エンパイア・ステート」、カリフォルニアは「ゴールデン・ステート」、そしてハワイは「アロハ・ステート」だ。この原稿で紹介するニューメキシコ州は、「Land of Enchantment(=魅惑の地)」と呼ばれている。
ニックネーム通り、魅惑的な風景が州内のあちこちで楽しめるニューメキシコ州。ハイ・デザート(高地の砂漠)に広がる赤土と真っ青な空、そしてところどころに生えているサボテンの緑色の鮮やかな対比は実に印象的だ。また、食文化や風習にも、かつてのスペインやメキシコによる統治の影響や伝統が色濃く感じられる。
土着的な都市伝説や民間伝承は過去と現在をつなぐ架け橋であり、歴史と文化、そしてコミュニティの特性を示すものにほかならない。そういう意味で、ニューメキシコ州では「ラ・ヨローナ」と「ラ・マラ・オラ」という超自然的存在にまつわるふたつの話が特に有名だ。どちらの物語も何世代にもわたって多くの人々を魅了してきた。それぞれが喪失、罪悪感、そして超自然的要素をテーマにしている。
ラ・ヨローナ(=泣く女)の物語は、ニューメキシコ州をはじめとするアメリカ南西部全域で知られ、語り継がれている。我が子を誤って溺死させてしまった女性の霊が、後悔の叫び声を上げながら川辺をさまよう――この伝説は、たとえば子どもたちが川辺で遊ばないようにするため、あるいは家から遠く離れた場所に遊びに行かないようにするための戒めとして機能してきた。
伝説の起源は古代まで遡ることができ、そもそもはアステカの女神「シワコアトル(Cihuacóatl)」に由来するという説もある。シワコアトルは母性や出産を象徴する女神で、ラ・ヨローナによく似た鳴き声をあげるのだが、それは大災害の前兆と信じられていた。
また、ラ・ヨローナの伝説はヨーロッパ文化とネイティブアメリカン文化の衝突を反映したものだとする説もある。植民地時代には多くの変革がもたらされ、家族やアイデンティティの喪失にまつわる悲劇の物語が広まった。こうしたネガティブな感情の象徴としてラ・ヨローナが生まれ、家族を失う悲しみや絆が断たれる状態を擬人化した存在となり定着したのかもしれない。
物語にはいくつかのバリエーションがあるが、最もよく知られているバージョンは、マリアという美しい女性を中心に展開する。小さな村に住んでいた彼女は裕福な男性と恋に落ち、2人の子どもを産んだ。しかし、年月が経つにつれて夫はマリアを疎かにし、他の女性に夢中になった。怒りと絶望のあまり、マリアは子どもたちを川に連れて行き、彼らを溺れさせてしまう。しかし、直後に彼女は自分の行為の重大さに気付き、後悔に苛まれながら川で子どもたちの遺体を探し続けたが、流れに呑まれて見つからなかった。絶望し、罪悪感に押しつぶされたマリアは自らも川に身を投じた。
死後、マリアは来世への道を閉ざされ、永遠に地上をさまよう運命となった。彼女の霊は今も失った子供たちを探しながら川辺をさまよい続けている。白い衣装をまとい、「ああ、私の子供たち!」と泣き叫びながら自分の過ちを悔いている。ラ・ヨローナは迷子になった子どもたちを自分の子どもと間違えて連れて行ってしまう。それに、泣き声を聞いた者には必ず不幸や死が訪れる。
ラ・ヨローナが広く知られている一方、ラ・マラ・オラ(=悪い時間)の話はニューメキシコ州以外ではあまり知られていないようだ。ラ・マラ・オラは、寂しい夜道に出現し、弱っている人たちを狙う邪悪な霊として知られている。女性の姿で出現し、死や災いの訪れも告げる。ラ・ヨローナが悲しみを誘う存在であるのに対し、ラ・マラ・オラは純粋な恐怖をもたらす存在でしかない。
ラ・マラ・オラの伝説は、ニューメキシコ州の農村部で何世代にもわたって語り継がれてきたが、起源ははっきりしていない。ある説では、先住民の古代信仰に基づく存在で、魂を収集するためにやって来る邪悪な霊だという。スペインとネイティブアメリカンの超自然的伝説の融合であり、夜や未知、死の不可避さに対する恐怖を具現化した存在だとする説もある。
ラ・マラ・オラは、見る者によって姿を変える能力を持つとされている。黒くて形のない霧や影のような姿で現れることもある。このあたりは、ネイティブアメリカンのシェイプシフターにまつわる伝説との融合かもしれない。黒または白い服を着た女性の姿で現れ、光る目でにらみつけてくるという話もある。ラ・ヨローナが川辺をさまようのに対し、ラ・マラ・オラは荒れ果てた道や人がいない場所に、主に深夜に現れる。
夜遅くになっても移動を続けている旅行者が、奇妙な女性や暗い影のような存在に遭遇することがある。近づいていくと、何かがおかしいことに気づく。周囲の空気が息苦しく、圧迫感に満ちたものになるのだ。ラ・マラ・オラとの遭遇から生還した人々は、死に直面したかのような圧倒的恐怖を感じたと語ることが多い。ラ・マラ・オラを見た者はまもなく、自らが命を絶たれてしまうか、愛する人が亡くなる運命から逃れられなくなる。
ニューメキシコ州に住む多くの人々にとって、ラ・ヨローナとラ・マラ・オラの伝説は単なる怪談ではない。どちらも地域の歴史の複雑さを示すものであり、先住民やスペイン、そして後のアングロ文化の影響を融合させた物語は今もなお進化を続けている。
いずれの存在も、未知の世界や制御不可能な力に対する恐怖の象徴だ。ニューメキシコの美しく広大かつ険しい自然の中、人間という存在の小ささの比喩として、こうした伝説が根付いてきたのも不思議ではない。超自然的な存在が、孤独や脆さなど人間の深い感情にひもづけられるのだろう。
宇佐和通
翻訳家、作家、都市伝説研究家。海外情報に通じ、並木伸一郎氏のバディとしてロズウェルをはじめ現地取材にも参加している。
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