都市伝説「ベッドの下の死体」が現実になったラスベガスのイメージ/ネバダ州ミステリー案内
超常現象の宝庫アメリカから、各州のミステリーを紹介。案内人は都市伝説研究家の宇佐和通! 目指せ全米制覇!
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前回のニュージャージー州に続き、アメリカン・キャラ系都市伝説の代表例を紹介したい。舞台は、東部ウェストバージニア州だ。同州のほとんどが山岳地帯にあたることから「マウンテンステート(山岳州)」というニックネームで呼ばれることもある。
同州西部に位置するポイント・プレザントという町が、ご存じ「モスマン」伝説発祥の地だ。このクリーチャー(あるいはモンスター)は前回紹介した「ジャージーデビル」と同様、土着型都市伝説の主人公かつ不吉な事件のさきがけとされる存在であるとともに、全米のUMA研究家が注目するクリプティッド(未確認生物)でもある。
1966年11月15日、ロジャーとリンダのスカーベリー夫妻、およびスティーブとメアリーのマレット夫妻という2組の若いカップルが、奇妙な生き物との恐ろしい遭遇を報告した。
ポイント・プレザントの町の北はずれにある第二次世界大戦の軍需品基地の廃墟を車で通り過ぎたとき、カップルたちは道路脇に立っている奇妙な生き物を目撃した。人間ほどの背丈だが、幅3メートルほどの大きな翼をもち、両目が赤く光っている。この生き物が飛び立ったとき、4人は急いで逃げようとしたが、時速160キロを超える速度で車を追いかけてきたという。
この最初の目撃から数週間にわたり、ポイント・プレザント各地で謎の生き物の目撃報告が相次いだ。街はパニックと好奇心がないまぜになった空気に覆われ、やがて地元メディアで報道されると警察や新聞社に問い合わせが殺到、噂は近隣の町や隣の州にまで伝播した。やがて小さな街で起きた奇妙な生物の目撃談は全米へと広がり、その外見から「モスマン(蛾男)」という呼び名が生まれたのだ。
モスマン伝説の恐ろしい要素として、町のシンボルであるシルバーブリッジという橋の悲劇的な崩壊事故との関係が挙げられる。1967年12月15日、最初の目撃例が報告されてから約1年後、ポイント・プレザントと隣のオハイオ川ガリポリスを結ぶシルバーブリッジが、ラッシュアワーのさなかに突然崩壊して46人が死亡した大事故は、周辺一帯の住民に決して癒えることのない傷跡を残した。
この悲劇を受け、モスマンの目撃は災厄の前兆であると主張する人々が目立つようになる。「モスマンは破滅の凶兆であり、差し迫った大惨事を人々に警告するために現れた」という解釈を受け容れる人たちが徐々に現れはじめたのだ。
この流れは、ジョン・キールというリサーチャーが1976年に出版した『モスマンの黙示』という本がきっかけになった感が否めない。モスマン現象に関する調査結果が詳細に記されている同書では、謎の生物の出現と橋の崩落事故を結び付け、目撃情報はパターン化できるという持説が展開される。ちなみに、同書は2002年製作の『プロフェシー』という映画の原作にもなった。
モスマン現象はさまざまな理論や解釈を生み、正体に関する議論も尽きない。未確認生物――主流派科学の枠組みではまだ認識されていない未知の生物――であるという説のほか、ヒンドゥー神話の「ガルーダ」やネイティブアメリカンの伝説に登場する「サンダーバード」など、他の文化や民間伝承との共通点を指摘する声、さらにはモスマンが地球外生命体や異次元の存在である可能性を示唆する意見もあるのだ。
実は、モスマンの目撃事例が報告され始めた時期から、ポイント・プレザント周辺では奇妙な光やUFOらしき物体の目撃報告が多くなっている。従って、モスマンは異世界からの訪問者、または次元間を移動し、自由に現れたり消えたりできる生き物ではないか? こうした考え方は、ティム・ロマス博士が率いるハーバード大学の研究チームによる『地球外生命体仮説:未確認異常現象の地球隠棲的説明に対する科学的開放性の考察』という論文でも取り上げられている。
また、この種の事件に関して必ず出てくる見解にも言及しておこう。モスマン騒動は、恐怖とメディアの注目、そしてランダムな出来事にパターンを見出す人間の特性が引き起こした集団ヒステリーであるというのだ。最初の目撃こそ本物だったかもしれないが、後の報告は誇張されたか暗示に影響されたものであり、そこにシルバーブリッジ崩落事故が重なり、モスマンが災厄と深く関わる存在であるという信念がさらに強まったことも考えられる。
モスマンの正体が何であれ、ポイント・プレザントとその周辺地域に大きな影響を与えたことは否定できない。そして、この伝説は町のアイデンティティの不可欠な部分となり、世界中から観光客、研究者、好奇心旺盛な人々を惹きつけることとなった。そういう意味では、パーフェクトな都市伝説と呼ぶことができそうだ。
米国では、ウェストバージニア州という言葉から田舎の小さな町のライフスタイルを思い浮かべる人が多いらしい。ゆったりとした生活に対する憧れがあるのだろうが、その反面、都市生活ならではの利便性は享受できないこともあり、人口が増加し続けるというわけにはいかないようだ。同州の住民はコミュニティ意識の強さで知られており、その絆がモスマン伝説によってさらに緊密になっているともいえるのではないか。
ポイント・プレザントでは、毎年「モスマン・フェスティバル」が開催される。モスマンに関するありとあらゆるものを取り扱うイベントだ。町にはモスマン博物館もある。目撃情報やシルバーブリッジの崩落事故に関する遺物、写真、新聞の切り抜きなどが展示されている。
ポイント・プレザントの入り口では、2003年にメインストリートに設置された金属製のモスマン像が訪問者を出迎えてくれる。山に囲まれた州の静かな街にとって、モスマンは禍々しい存在でありながらも、いまや単なる都市伝説キャラを超え、街のアイコンとして住民のアイデンティティの一部、いや、コミュニティの誇りとして機能しているのだ。
宇佐和通
翻訳家、作家、都市伝説研究家。海外情報に通じ、並木伸一郎氏のバディとしてロズウェルをはじめ現地取材にも参加している。
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