墓を調査する前に生け贄の儀式を実施…! 世界の遺跡を調査する考古学者・大城道則インタビュー

    「考古学者が体験した怖い話」をまとめたレアな本が発売されている。遺跡には幽霊がでるのか?でないのか? 命の危機と隣り合わせで調査する、リアルインディ・ジョーンズともいえる考古学者にインタビュー!

    考古学者が体験した怖い話!

     ポプラ社から、一風かわった考古学の本が発売されている。その名も『考古学者が発掘調査をしていたら、怖い目にあった話』だ。

     タイトルの通り、世界各地をフィールドにする現役の考古学者たちが調査中に遭遇した「怖い話」を集めたノンフィクションである。「ムー」としては「古代遺跡の呪い」「いにしえの幽霊」などを連想してしまうが、現役の学者さんがそんな話を公開してしまって大丈夫なのだろうか……?
     著者のひとりであるエジプト考古学者、大城道則(おおしろみちのり)さんに、ご自身の恐怖体験や執筆の周辺事情などを語っていただいた。

    『考古学者が発掘調査をしていたら、怖い目にあった話』(大城道則、芝田幸一郎、角道亮介著、ポプラ社)
    https://www.poplar.co.jp/book/search/result/archive/8008369.html

    考古学者が語る、調査に欠かせない儀式とは?

    ——(ムー編集部)『考古学者が発掘調査をしていたら、怖い目にあった話』ですが、遺跡関係の書籍で、特に学者さんが執筆されているもので「不思議」「怖い」を前面に押し出しているものは珍しいですね。首が切り落とされた人骨を発掘した夜に強烈にリアルな悪夢にうなされた話、通信手段のない砂漠で車が動かなくなった話など、語られる怖さのジャンルもさまざまです。こういう本は今までなかったんじゃないでしょうか?

    考古学者の大城道則さん。駒澤大学教授、専門は古代エジプト史。

    大城 ないでしょうね。これははじめから堅い本ではなく「調査裏話」的に、面白く書こう、面白く読んでもらおうと思ってさまざまな話を寄せ集めたんです。なので、病気が怖い、事故が怖い、さらに政治的な怖さ、そして怪談的な怖さなど、怖さの方向性もいろいろ。もうちょっと話の数があったらなおよかったんですけどね。

    ーー割合としては事故や病気など、リアルに命の危機がという「怖い話」が多かった印象ですが、ムー的な意味での怖い話、怪談系はやっぱり遺跡調査でもレアなんでしょうか。

    大城 怪談みたいなことは、体験していても語れない、黙ってるってこともあるかもしれないですね。考古学って、どうしても墓を調べることが多いわけで、まあ、いいことではないですからね(笑)。私も若い頃は調査の面白さのほうがまさっていて平気でしたが、歳を重ねるとだんだん「墓を掘る」ということに後ろめたい気持ちがでてくるんです。たとえそれが何千年前のものであっても、お墓はお墓ですから。
     同時に、現地の人もすごく気にするわけです。だから私は調査の前には必ず現地で儀式を行います。調査地域は主に中近東ですが、羊を一頭いけにえに捧げたりする。それを毎年調査のたびに行うんですが、ある年だけその儀式をやらなかったことがあるんですよ。そしたらそのときに限ってトラブルが頻発して、後から思い返したら、そういえば今年は儀式やってなかったな……と。具体的なことは話せませんが、そういうことはあるのかもしれないとも思いますね。

    ——大城さんは本のなかでも「できれば調査隊のメンバーに僧侶を一人加えたいくらい」と書かれていますね。

    大城 これは私が駒澤大学で教えているということもあって書きましたが(笑)、でも宗教は違っても、遺跡の前でお坊さんにお経を唱えてもらったら、現地の人は厳かな気持ちになると思いますよ。そういう気持ちの部分というのはちゃんと伝わるんですよね。
     また、これはコミュニケーションの問題という面もあります。中近東での儀式って、要は羊をさばいてみんなで食べるということなんで、近所の人もすごく喜んでくれる。調査が始まる前には儀式をして、期間が終わったらみんなを集めてパーティーのようなことをやる。僕は自分の先生からそうしたスタンスを引き継いでやっていますが、「日本人は我々と一緒に食事をしてくれる」と喜ばれますし、驚かれることさえあります。
     というのも、ヨーロッパの調査隊は基本的にそういうことはしないようです。隊員たちも無意識に白人/有色人種という壁をつくっているところもあるのかなと感じることがありますよ。やっぱり同じ人間同士ですから、交流は大切です。

    発掘は、危険と恐怖と隣り合わせ

    ——大城先生が体験されたいちばん怖いことってなんでしょう? 本にも書かれていますが、遺跡に閉じ込められるとか、誰もいない遺跡や砂漠でトラブルに見舞われるって恐怖ですよね。遺書をかこうと思うレベルの出来事はありましたか?

    大城 遺跡ではないですけど、飛行機の操縦があまりに荒くて、これは遺書を書いた方がいいのかと覚悟したことはありましたね。砂漠のまんなかで車が動かなくなったこともありますが、遺跡ではもう必死で帰ろうと努力しますね。そこで死ぬかもとは考えません。

    ——国によっては強盗に襲われるようなこともあるんでしょうか?

    大城 いまのところ強盗の経験はないですね。調査していた遺跡に泥棒が入ったことはありましたけど。

    ——ジャンルでいうと「人怖」系の恐怖ですね! 大城さんご自身は怪談的な経験はあまりないということですが、調査隊のみなさんも同様なんでしょうか?

    大城 私の調査範囲はエジプトや中近東ですが、土地柄としてあまり「幽霊」という概念がないのかなという感じもしますね。たとえばイギリスでは幽霊の出る城があったりしますが、砂漠の国では聞いたことがない。アフリカでもサハラ以南の地域には占い師も多いですし、中南米はそうした部分がアフリカより強いですよね。そういう土地では霊的な話も多いのかもしれません。この本でもペルーを調査されている芝田幸一郎先生のパートには、幽霊系の怖い話がありました。
     でも、そもそも考古学って、墓や遺体を触る仕事ですからね。遺体を分析して「これは首をきられているようだ」とかやるわけですから、あまり霊感が強い人は向かない仕事なんじゃないでしょうか(笑)。

    遺跡調査中のワンシーン。

    考古学者からみて「ムー」ってどうなの……?

    実は大城さんは、昨年ベストセラーとなった『地球の歩き方ムー』の考古学サイドの監修者でもある。考古学者、それもエジプトのピラミッド研究の専門家からみて、正直なところ「ムー」ってどうなのだろう……?

    「地球の歩き方ムー」 https://hon.gakken.jp/book/2080171600

    ——『地球の歩き方ムー』の考古学監修者でもある大城先生ですが、「ムー」は読まれたことありますか? じつはムーTシャツもお持ちだそうですが。

    大城 ムーTシャツは普段着に使ってます。ムーのトートバッグも持ってますよ。立場的にあまり肯定するわけにはいきませんが、「ムー」はそんなに嫌いじゃない(笑)。
    『地球の歩き方ムー』も、一冊のなかにいろんな説があって、考古学者からみてもいい線いってるなというものもあるし、これはマズいぞというのもあります。『地球の歩き方ムー』では、そこはエンタメとして、それらの説に対して僕たちが考古学の説をぶつけ、読者さんが両方を読んだうえでより興味を持ってくれれば成功なんじゃないかなと思いました。監修を受ける話をしたら「いいんですか先生?」とはいわれましたけどね。
     もちろん世の中には、これを本気にされたら困りますよ、という本もありますよ。たとえばそれが小説であっても、微妙なラインというんでしょうか、面白いけど事実ではない、というものもあります。そういうのは学生さんが信じてしまうので困るなというのがあります。線引きの問題ですね。

    ムーTシャツで本物の遺跡に……!

    ーー普段着にムーTシャツはもう立派なムー民です! 考古学界全体としては「ムー」はどんな見られ方をしてるんでしょう?

    大城 わりとみんな好きですよ。特に遺跡好きでは「ムー」を知らない人はいないでしょう。学生でもそうですね。遺跡好きと、日本史系の学生は「ムー」を避けて通れない。

    ——若い方も「ムー」を読んでくれているんですね! たしかに、「ムー」では遺跡の特集も多く組んでいます。またピラミッドも常連の企画ですが、エジプト専門家として「ムー」のピラミッド記事はどうでしょう?

    大城 「◯◯はピラミッドだった!」的な記事ですね。たしかに、人工物であるかどうかの議論を脇におけば、世界中に山を信仰する文化はありますから、そことどう繋げていくかでしょうね。
    ピラミッド説のある青森県の黒又山とかね、私も行きましたよ。やはり実際に見ないとわからないことがありますから。実は、自然にできたピラミッド型の山と人工のピラミッドをどう接続するのかという問題は、ピラミッド研究のひとつの課題だと思っています。ムーさんには申し訳ないけれど、たとえ黒又山が人工ピラミッドでなかったとしても、地元の人にとってそこが信仰対象だったということは十分に想像できますよね。ピラミッド型のものは、世界中で信仰対象になっている。では、なぜあの形が求められるのか。それを考えるのも研究の面白いところです。
    これもムーさんには申し訳ないけど、私はピラミッドは宇宙人でなく人間がつくったものだと考えていますが(笑)、技術的にはつくれる、どうつくったかも研究されているけれど、私は「なぜ作ったか」のほうにも非常に興味があるんです。建造方法は建築工学だとか理系の先生のジャンルだと思いますが、「なぜ」の部分にフォーカスするのが、歴史学系の考古学者の役割かなと考えています。

    ——第一線のピラミッド研究者は黒又山までいくんですね。最近気になっている未発掘、未確認のピラミッドなんてあるでしょうか?

    大城 いま注目しているのが、モーリシャスです。モーリシャスにきれいなピラミッドがあるんですよ。YouTubeなどにもアップされていますが、明らかに石積みで、綺麗に階段状になっている。またカナリア諸島にも似たようなものがあります。世界各地の島嶼にピラミッドがある。それが墓かどうかはまだわからないんですが、昔からあるものだとはいわれているそうです。そうなると、何のためにそれをつくったのか気になりますよね。
     ただ、いざ調査となると大変なお金がかかる。私たちもクラウドファンディングを募って500万円ほど寄付していただいたことがありますが、一回の調査でそのくらい使ってしまうんです。もしモーリシャスに調査にいく機会があったら、ムーさんもぜひご協力ください(笑)。

    国によってずいぶん異なるUFO観

     最後に、UFO事情についてもきいてみよう。

    ——メキシコもピラミッドが多い地域ですが、メキシコでは「未発掘のピラミッドから出土した」といって現地の人がこんなものを売っていたりします。楽しくUFO話をする現地の人がたくさんいるんですが、エジプトではどうでしょう?

    メキシコで話題の「謎の異星人遺物」。UFO型の石に描かれるのは異星人?

    大城 エジプトではUFOの話は聞いたことがないですね。やっぱりエジプト人にとって、ピラミッドは自分たちの誇りじゃないですか。だから、それを外の何者かがつくったっていうのはあまりいわないんじゃないかなあ。

    ——なるほど、意外な地域差が明らかになりました。非常に興味深い『考古学者が発掘調査をしていたら、怖い目にあった話』ですが、続編はあるんでしょうか?

    大城 実はこの本を読んで、俺もそういう話あるよ、書きたといってくれている研究者もいるんですよ。周囲にも声をかけていますし、私自身も、シャワー室の電球が漏電していて感電死しかけた話など泣く泣く割愛した「怖い話」がまだあるので、機会があればもっと集めてまとめたいですね。

    ——もし「幽霊を見た」「UFOを目撃した」という先生がいたら、匿名でもいいのでぜひ「ムー」にご一報ください!

    webムー編集部

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