山神の精霊にして僧俗の守護者ゆかりの聖地へ! 全国「天狗」スポット5選

文=本田不二雄

    伝説の魔怪や幻想の妖怪も、実は出身地があり、ゆかりの場所もある。 実在する「天狗」ゆかりの場所を厳選紹介!

    「愛宕山太郎坊」が出現した大杉

    京都府京都市右京区嵯峨清滝町32

     京都市最高峰の霊山・愛宕山に出現し、崇められた天狗がいた。愛宕山太郎坊。その神通力は天地をもひっくり返すともいわれ、多くの眷族を従える日本一の大天狗といわれる。

     古い縁起にこうある。
    「修験道の始祖・役行者と白山の開祖・泰澄が愛宕山に登ろうとした折り、天地鳴動して地蔵菩薩ほか5仏があらわれ、さらに、大杉の上に天竺(インド)の大天狗、中国の天狗の首領とともに、太郎坊が出現した。そして大小合わせて9億余りの眷属が集結し、愛宕山は天狗でびっしり埋め尽くされた」(抄訳)と。

     その、太郎坊天狗があらわれたとされる場所が、愛宕神社の参道17町目(全50町のうち)にある。
     火燧権現跡といい、かつて火産霊命=カグツチ命を祀っていた(現在は石碑を残すのみ)場所だが、そのかたわらに幹の大半を黒焦げにしたものすごい様相の老杉がある。
     その根元に祀られた祠には「太郎坊権現」の文字。そう、このスギこそ太郎坊が影向(出現)したと伝わる「大杉」なのである。

     太郎坊天狗(太郎坊権現)は、火の神・カグツチ命の化身といい、かつては愛宕神社奥之院(現在の若宮)に祀られ、火伏せ(防火)の信仰を集めていた。ちなみに、愛宕神社は「火廼要慎」のお札が有名だが、「天狗さまストラップ守」も頒布されている。ご利益は除災開運、衆生救済とのことである。

    火燧権現跡に残る御神木の大杉。

    鞍馬山護法魔王尊

    京都府京都市左京区鞍馬本町

     叡山電鉄鞍馬駅の天狗オブジェに迎えられ、鞍馬山へ。この山は鞍馬寺が鎮座する霊山として古くから知られ、お山のそこかしこに曰くありげなスポットが点在する。とりわけ日本八大天狗の一、鞍馬山僧正坊がすまう山としても有名で、牛若丸(のちの源義経)に剣術を教えたとも伝わっている。

     一方、鞍馬寺では、その存在を大地の霊王である護法魔王尊と呼び、月輪の精霊・千手観世音菩薩、太陽の精霊・毘沙門天とともに、3神を「尊天」と総称している。その魔王尊が祀られているのが本堂金堂の脇に建つ光明心殿で、翼を有し、鼻高で目をらんらんと輝かせている護法魔王尊の尊容を拝むことができる。

     なお、ゆかりの授与品に「降魔扇」があり、これを開けば強力な魔除けに、あおげば邪気を祓ってくれるという。カード型の「尊天守護」もある。

     その先はいよいよ護法魔王尊ゆかりのエリアだ。山道を進むと、牛若丸が天狗に剣術を習ったという木の根道があらわれ、魔王尊のエネルギーの高い場所とされる大杉権現社、義経堂がある僧正ガ谷へ。こちらも義経の兵法修行の場と伝えられている。

     そして最奥の聖地・魔王殿へ。ここは太古、護法魔王尊が降臨した磐座を有する特別な場所で、ただならぬ神気に包まれている。

    鞍馬寺の奥之院魔王殿。

    天狗の山「高尾山」

    東京都八王子市高尾町2177(薬王院)

     高尾山薬王院御本社の本尊を飯縄大権現という。その源流は信濃(長野県)飯綱山の神霊で、日本八大天狗の一・飯綱三郎として、あるいは上杉謙信や武田信玄などに篤く信仰された戦国武将の守護神としても知られる。
     御本尊はふつう拝観できない(御祈禱を依頼し入堂できれば拝観可)が、そのお姿はまさに異相で、本来の姿とされる不動明王のほか、大きな嘴と翼を持つカルラ天、霊狐に乗るダキニ天ほか五体の仏神が合体した容貌とされる。それら仏神の霊験を一身にあらわしたお姿なのだ。

     天狗はその飯縄大権現の眷属(随身)で、人々に除災開運、災厄消除、招福万来などをもたらすという。高尾山には天狗伝説が数々伝えられており、いわく、人の心を読む神通力で奉納金をケチった里人
    を笑い飛ばしたり(天狗わらい)、山の天狗をあなどったり、盗賊をなす者には大木を倒して邪魔したり(天狗倒し)、お参りしたいが足腰の弱った人を山に瞬間移動させたり(天狗さらい)するという。邪な者に罰を与え、信心の者を救い、ご利益を与える存在なのだ。

     人気の授与品には、天狗守(開運のうちわで開運招福をもたらす)、護身鏡守(飯縄大権現を映す鏡の御影)、天狗うちわ(時期限定、一振りで魔を祓い、二振りで福を呼ぶ)などがある。

    髙尾山薬王院本社・権現堂前の天狗像。

    「天狗の社」古峯神社

    栃木県鹿沼市草久3027

     一帯の古峰ヶ原は、古くは日光を開いた勝道上人の修行場だったといわれ、長く日光修験道の山伏らによる修行の道場だったという。そのことが、しばしば山伏と同一視される天狗の信仰につながっている。
     別名「天狗の社」とも呼ばれるが、それは、社殿内に奉納されている数多の天狗像や天狗面、天狗の扁額、扇や下駄などの天狗アイテムを見れば納得である。天狗は、古峯大神の使いとして、崇敬者に災難があればただちに飛来し、取り除いてくれるといい、奉納物はその祈願成就の証である。

     なお、参詣者には、個性的で力強い天狗の絵が手描きされた御朱印「天狗朱印」が人気だ。30種類ほ
    どから選べ、直書きも受付可だ。

    古峯神社の社殿に掲げられた天狗面。

    九州一の天狗を祀る「英彦山豊前坊」

    福岡県田川郡添田町英彦山27(高住神社)

     福岡と大分の境にそびえる英彦山は、九州を代表する山岳修験の聖地で、日本八大天狗の一、英彦山豊前坊がすまう山とされる。豊前坊は九州の天狗群の棟梁格といい、その神通力は、深夜しばしば山で大音響をたて、木が倒れる音を響かせるという「天狗倒し」で知られている。配下の天狗を使い、欲深い者には子供をさらって家に火を付け、心正しき者には願い事を叶え、守護するともいう。

     その北東中腹に鎮座する高住神社の拝殿には、「豊前坊」の神額が掲げられ、その本拠であることを教えてくれている。その社前には幹回り9メートル超の「天狗杉」が天を突き、社殿裏には磐座の天狗岩がそびえるこれ以上ない雰囲気で、素焼きの人形に入った天狗みくじがかわいい。

    その他の「天狗」スポット

    大雄山の道了尊 神奈川県南足柄市大雄町1157
    佛現寺の天狗の詫び状 静岡県伊東市物見が丘2 ー30
    大杉大明神と天狗海存 茨城県稲敷市阿波958(大杉神社)
    奥山半僧坊 静岡県浜松市北区引佐町奥山1577ー1
    相模坊大権現 香川県坂出市青海町2635(白峯寺)
    金刀比羅宮奥社の天狗神 香川県仲多度郡琴平町琴平892 -1

    「ムー」2023年11月号別冊付録から抜粋
    https://www.amazon.co.jp/dp/B0BYNFDY22/

    本田不二雄

    ノンフィクションライター、神仏探偵あるいは神木探偵の異名でも知られる。神社や仏像など、日本の神仏世界の魅力を伝える書籍・雑誌の編集制作に携わる。

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