ハロウィンの起源は「古代ケルトの大晦日」! その日は妖精たちが現れやすい!?/魔女が教えるハロウィン 第1回
日本を代表する魔女にして魔術師・ヘイズ中村氏が、ハロウィンについて指南する集中連載! 第1回は、「そもそもハロウィンとは何か」がテーマです。
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スコットランドの北東部にフィンドホーンという共同体がある。1962年に設立されて数年もたたないうちに、世界中の注目を集めた。3人のメンバーからはじまり、半世紀以上が経過した今では約500人を擁するまでになり、奇跡はなおもつづいている。 「体験週間」に参加した筆者による現地レポートをお届け!
イギリス、スコットランドの北東部にあるフィンドホーンという共同体をご存じだろうか。
フィンドホーン湾に面し、北緯は約57.7度。あと900キロも北上すれば、北極圏に到達する。少し離れた海岸まで足を伸ばせば、年に数回、オーロラが見えるという。
最寄りの海岸へは、歩いてほんの数分。あたり一帯は痩せた砂地で、水分や養分が乏しい。周囲を見渡すと、ハリエニシダやハイマツが、吹きすさぶ海風を受けたそのままの姿で、いくぶん斜めに立っている。地面には、尖った葉を持つ背の低い草が根を張り、乾いた土があちこちに露出している。
アイリーン&ピーター・キャディ夫妻とドロシー・マクリーンの3人が、この荒れ地に共同体を設立したのは、1962年のことだ。
3人は、強固な絆で結ばれていた。瞑想の中で、内なる神の声を聞くアイリーン。それを迷いなく実行に移すピーター。自然界の霊的存在と交流できるドロシー。彼らが互いに信頼しあい、ひとつの目標に向かって各々が力を尽くした結果、この地でさまざまな奇跡が起こりはじめた。
また、それに吸い寄せられるようにして、世界中から才能豊かな人々が共同体を訪れ、ある者はメンバーとして共同体にとどまった。こうしてフィンドホーンはしだいに成長していき、現在では、約500人のメンバーが共同体で暮らしている。
日本では1990年代、環境問題に関心を寄せる作家で実業家、ポール・ホーケンの著作『フィンドホーンの魔法』や、共同体の創始者のひとり、アイリーン・キャディの自伝『フィンドホーンの花』、世界中でロングセラーとなっている『心の扉を開く』、日本人ではじめてフィンドホーンの評議員を務めた寺山心一翁(しんいちろう)氏の『フィンドホーンへのいざない』(いずれも日本教文社)などがあいついで発行され、精神世界やニューエイジに興味を持つ人々の間で大きな話題となった。
ところで、多くの人を魅了するフィンドホーンの奇跡、魔法とは何か。
設立初期の代表的な奇跡は、砂だらけの痩せた土地で、常識では考えられないような作物が育ったことだった。重さ18キロを超す巨大キャベツ、27キロのブロッコリー、通常の数倍はあろうかというエンドウマメ、冬に生き生きと咲くバラ……。
しかも、それを可能にしたのは、自然界の精霊や天使たちのサポートだったという。彼らは、土づくりから水や肥料の与え方まで、事細かなアドバイスをくれた。共同体の人々がそれに耳を傾け、忠実に実行したところ、あり得ないような結果になったのだ。まるでおとぎ話である。
じつは、フィンドホーンを「ムー」で取りあげようという話は、2018年から出ていた。ところが、それに向けて関連書籍を読んではみたものの、フィンドホーンがどのような場所なのか、いっこうに像を結ばなかった。
そこで、いっそ現地へ行ってみようと思い立ち、2019年7月、フィンドホーンの「体験週間」に参加した。体験週間とは、この共同体を知るための最初の一歩として、45年以上にわたって実施されているプログラムだ。参加者は、土曜の朝から金曜までフィンドホーンに滞在し、ここでの暮らしを疑似体験する。
体験週間初日の金曜日、バスから降りてしばらくすると、敷地内がオープンでクリアな雰囲気と温かさに満ちているのを感じた。それは、とても気持ちのよいものだった。
そのことと関係があるのかどうか、敷地内の植物はどれも、やたら元気で生育状態がよかった。虫に食われたものや、しょんぼりとしたものは、ほとんど見かけなかったと思う。どの植物も、愛情をたっぷりと与えられて、健やかに育ったような印象だった。犬や猫なら、飼い主に大切にされ、可愛がられているかどうかは、おそらくだれでもわかるだろう。その植物版といおうか、とにかく喜びと幸せに光り輝いているように見えた。
そうした植物の様子は、かつてのように巨大な作物はなくなったものの、この共同体で、依然として奇跡がつづいている証拠のように思えた。
滞在して3日目には、ちょっとした自分の変化に気づいた。なんと、きわめて頑固な肩凝りが、消え失せていたのだ! 自慢じゃないが、幼少期から肩凝りに悩まされて五十数年。肩が軽いなどと感じたのは、いったい何十年ぶりか。ほかの旅行のときに肩が軽くなったという記憶はないので、ひょっとしたら、これもフィンドホーンの魔法かもしれない。帰国したら記事にしなくてはと、メンタル面ではそれなりに緊張していたはずだが、体のほうはすっかりくつろいでいたようだ。ちなみに肩凝りは、フィンドホーンを出発する朝、律儀に舞い戻ってきた。
話を戻そう。
フィンドホーンでは、もちろん現在も奇跡が起こりつづけている。まずは、その礎となった3人の創始者の物語から紹介していきたい。
アイリーンがはじめて内なる声を聞いたのは1953年のことだ。そのとき彼女は、人生のどん底にいた。
「落ち着きなさい。そして、私が神であることを知りなさい」
その声は、聖堂で祈りを捧げるアイリーンに語りかけた。非常にはっきりとしていたので、アイリーンはだれかがしゃべったと思い、後ろを振り返った。しかし、だれもいなかった。
じつは、アイリーンとピーターが結ばれたとき、ふたりはどちらも既婚者だった。ピーターの妻のシーナ・ガバンは、霊的指導者として人望を得ていた人物で、ピーターの師でもあり、アイリーンの存在を受け入れていた。
一方、アイリーンの夫であるアンドリュー・クームは空軍将校で、正直・純潔・無私・愛を信条とする道徳再武装運動(MRA)に傾倒していた。もちろん、妻の不倫を許すはずがない。しかも、夫婦の間には5人の子供がいた。
ピーターとの関係を知らされたアンドリューは、二度と家に帰ってくるなとアイリーンに告げた。これに打ちのめされたアイリーンは、聖堂で祈ることしかできなかった。先述の声は、そのときに聞こえてきたのだ。
声はつづいた。
「私はピーターとあなたを特別の目的のために一緒にさせたのです。あなた方は一体となって働くのです……」
アイリーンはショックを受け、自分の気が変になったと思った。ピーターと出会って恋に落ちるまで、彼女は貞淑で控え目な妻で、精神世界とは何のかかわりもなかった。
だが、アイリーンの動揺をよそに、シーナとピーターは、彼女が神の声を聞いたと確信していた。以後、アイリーンはシーナとともに暮らし、彼女を師として、瞑想の中で内なる神の声を聞く訓練を積むことになった。
とはいえ、彼女らの関係は、円満ではなかった。アイリーンの自伝を読むと、シーナは彼女に対して高圧的で、ささいなことでもひどく叱責したようだ。そのため、アイリーンにとっては非常に辛い期間がつづいた。
途中、とうとう耐えきれなくなったアイリーンが、残してきた子供たちのもとへ一時的に戻ったものの、ふたたびピーターとともに出奔したため、前夫や子供たちとの関係をいっそうこじらせてしまったこともある。
ただ、後年アイリーンは、このときシーナに抱いたネガティブな思いは、自分の心を映したものに過ぎなかったという趣旨のことを述べている。
また、フィンドホーン創設者のひとりドロシー・マクリーンは、もともとシーナの秘書、親友、信奉者で、そのつながりからピーターやアイリーンとの縁を得た。つまり、シーナという女性がいたからこそ、3人の創設者がめぐりあえたともいえる。
やがてシーナとの関係を卒業すると、ピーターとアイリーンは法律的に夫婦となり、職を捜しはじめた。そこで見つけたのが、クルーニーヒルホテルの支配人という仕事であった。
現在、クルーニーヒルは、フィンドホーン財団が所有し、メンバーや訪問客に門戸を開いている。だが、この時点では、神を除いて、だれもそんなことを予想してはいなかった。
幸いなことに、ピーターの秘書兼ホテルのレセプションというかたちでドロシーを雇うことができたので、一同はクルーニーヒルへ移った。
ホテルの経営は、大きなことから小さなことまで、逐一アイリーンの内なる声の指示に従って進められた。
風呂つきの部屋を希望してきた人に、どう対処したらよいか。
従業員として、だれを雇い入れ、どの部屋をあてがい、いくら支払うか。
宿泊客の部屋割りをどうするか。
そんなこともすべて、アイリーンを通じてガイダンスを受け取ったピーターが、忠実に実行した。
あるとき、アルコール依存症の料理長がひどく酔っ払い、料理の支度もせず、床に伸びて動かなくなった。
アイリーンが、どうしたらよいかを内なる神に尋ねると、「もう一杯、彼にウイスキーを飲ませなさい」という答えが返ってきた。思いもよらない答えだったが、ピーターはいつものようにガイダンスを全面的に受け入れ、ただちに実行した。すると料理長はたちまち正気を取り戻し、すばらしい料理をつくったという。
クルーニーヒルで働くようになって2年目あたりから、アイリーンたちは愛の放射というテーマを内なる神からレクチャーされるようになった。
何をしていても愛を放射しなさい、愛をもってすべてを行いなさい、そうすれば結果が表れてくると、内なる神は告げた。
アイリーンたちは、ガイダンスに従って、世界各地で同じような体験をしているグループに、愛のエネルギーを送った。そうすることで、グループ同士が結ばれるというのだ。
愛を送っているとき、アイリーンは、一面識もない相手の容貌などをありありと見ることがあった。後年、アイリーンは彼らの何人かと対面を果たし、そのときのヴィジョンが正しかったことを感動のうちに確認した。
アイリーンはまた、前夫のアンドリューと5人の子供たちにも愛を送り、いつの日か和解できるよう祈った。
子供たちに送った手紙やプレゼントは、いつも開封されずに返送されてきたが、アイリーンは内なる声に従い、愛を送りつづけた。そして、長男のリチャードを皮切りに、ひとり、またひとりと心のつながりを取り戻し、かなりの時間はかかったものの、最終的には全員と穏やかな関係になれた。
なお、愛をもってすべてを行うことや、愛を送るという行為は、現在のフィンドホーンにも継承されている。
あるときピーターは、クルーニーヒルホテルの改修を雇い主に要求するために、自分たちが神のために働いていること、改修は神の指示であることを熱弁し、アイリーンがメモしたガイダンスを見せることまでした。
その直後、アイリーンが受けたガイダンスの内容は、雇い主がピーターの熱弁に当惑し、神がなぜそんなに細かいことまで指示するのか、奇妙に感じているというものだった。
ともあれ、クルーニーヒルは、ピーターたちが着任してから5年のうちに目覚ましい業績を上げ、3つ星から4つ星へ格上げされた。
だが、風変わりな経営をするホテルという評判が立ってもいた。支配人のピーターが、一日に何度もアイリーンの意見を求めにいくし、神の言葉で運営されているホテルだというピーターのコメントが、新聞に掲載されたからだ。ピーターの雇い主は、これを迷惑だと感じたらしい。
1962年の初頭、一同は、トローサックスホテルへの異動を命じられた。そこは、「支配人の墓場」と噂されているホテルだった。
だが、そんな噂とは裏腹に、トローサックスホテルは、谷間の湖に面した美しい場所にあり、クルーニーヒルよりずっと設備が整っていて、しっかりした従業員がいた。噂はたんなる噂であって、すべてがうまくいくだろうとアイリーンは楽観視していた。
しかし、時間がたつにつれて、何かが変だと感じはじめた。普通より上等な住居なのに、従業員たちが文句をいうようになった。また、アルコールを飲む従業員が徐々に増えていった。さらには、前ぶれなく辞めてしまう者、湖で自殺を図る者、妻子を置いてホテルから逃げだす者……。
ついには、いつもなら無尽蔵のエネルギーを発揮して困難を乗り越えていくピーターまでが気力をなくし、物事に対して無関心になった。
ピーターは、クルーニーヒルに戻してほしいと雇い主に嘆願したが、聞き入れられなかった。そして、夏のシーズンが終わったころ、突然、一同は解雇をいい渡されたのだ。
キャディ夫妻とドロシーには、次の職のあても住まいも貯金もなく、所有物といえるのは、一台のキャンプ用トレーラーくらいであった。
やむなく一家は、フィンドホーンの海岸近くにとめてあったトレーラーに移り住み、数週間はバカンス気分で過ごした。ドロシーは、フィンドホーン村に部屋を借りることにした。
だが、バカンスは、長くはつづかなかった。その場所は、ずっとトレーラーをとめておくことができなかったからだ。停留できる場所をあちこち捜しまわった結果、ガラスの破片やゴミが散乱する荒れ野の窪地に落ち着いた。1962年11月のことである。次の職が見つかるまでの一時的な居場所にするつもりだったが、結局、そこが共同体のはじまりの場所となった。
翌年の春、トレーラーが建て増しされてドロシーが合流し、大人3人と子供3人は、一緒に暮らしはじめた。このトレーナーは、今もフィンドホーン内の同じ場所に置かれている。
当時、夫妻の収入は、国から週に1度支給される8ポンドの失業手当てと、1ポンド10シリングの子供手当てのみ。そこで、トレーラーの周囲に畑をつくり、野菜を育てることにした。
問題はほかにもあった。6人がひしめくトレーラーには、アイリーンが瞑想する場所がなかったのだ。内なる神に解決策を尋ねると、「公衆トイレへ行ったらどうですか」という答えが返ってきた。アイリーンは驚いたが、いざ実行してみると、神の言葉の適切さがわかった。早朝と深夜は、公衆トイレを使用する人がいないので、静かな時間を持つには打ってつけだった。それから何年もの間、アイリーンは毎日、悪臭の漂う公衆トイレに何時間も座って内なる神のガイダンスを受け取り、それをピーターたちに伝えた。
このころドロシーは、瞑想中に不思議なメッセージを受け取っていた。それによれば、ドロシーの役割は、大自然のさまざまな力を感じ取り、そのエッセンスと目的を知り、人間界と調和させることだという。また、自然の精霊や野菜の精霊が光の領土に住んでいること、彼らは人間の役に立ちたいと思ってはいるが、同時に不信感を抱いていることを、その声は告げた。
この報告を受けたピーターは大いに喜び、その声ともっと接触するよう促したが、ドロシーは戸惑っていた。
だが、あるとき、ピーターの励ましと自分の好奇心に背中を押されてエンドウマメに意識を向けたところ、明瞭な答えが返ってきた。
「人間よ、私はあなたに話すことができます……」
新たな奇跡のはじまりだった。
ドロシーがコンタクトしたエンドウマメの精霊は、自分が自然の摂理に従って成長し、結実していることを、まず伝えてきた。さらに、自然界の力が顕現する場には、たとえば人間が嫌うナメクジのような障害が発生するが、それもまた秩序の一部であり、ナメクジを養うことくらい、自然界は何とも感じていないと告げた。
人間に対しては、野菜を取りたいだけ取って少しも感謝をしないので、違和感と敵意を抱いているという。しかし、もしも人間が自らの正しい道を知り、なすべきことを行うならば、もっと人間に協力できるというのだ。
ドロシーは仰天し、さっそくピーターに一部始終を知らせた。
こうした精霊をドロシーは「ディーバ(原音に近いのはデーヴァ)」と呼んだ。サンスクリット語で「神」「光の生命」を意味する言葉だ。
ディーバは、その「種」を代表する存在だ。エンドウマメにはエンドウマメの、バラにはバラのディーバがいて、それぞれの種を統括している。
やがてドロシーは、「大地の天使」からもメッセージを受け取りはじめた。大地の天使とは、特定のエリアを支配する霊的存在である。そのメッセージによると、人間がさまざまな精霊と協働すれば、驚くようなことが実現できるというのだ。
ドロシーは天使から、土壌や堆肥のつくり方、水や肥料の与え方について教えを受けたので、一同はそれを実践した。精霊や天使たちは、人間が自分たちのメッセージに耳を傾け、素直に実行する様子を見て、たいそう喜んだという。彼らは、最初のころこそ非友好的だったが、だんだんと友好的になり、ますます助言をくれるようになった。
ソラマメのディーバは、最初の区画は種まきが深すぎたと教えた。
トマトのディーバは、液体肥料を今与えたほうがよいということ、実が少し育つまで風よけはそのままにしてほしいということを伝えてきた。
ホウレンソウのディーバは、葉を強く成長させたいなら、植える間隔をもう少し広くしなさいと告げた。
大地の天使は、どんな天候でも、そこから恩恵が得られること、天使たちを賛美すれば、天使の健康に役立つということを教えてくれた。
また、人間が放射するエネルギーは大きな役割を果たしていて、幸福なバイブレーションを持つ人は、植物によい効果をもたらすと告げた。
1963年6月下旬には、人々が菜園を見にくるようになった。砂地の畑で栽培された作物の成長ぶりを目の当たりにした人は、知人にそれを伝え、口コミで見学者が増えていき、菜園はこの地方の名所となった。こうしたなかで、巨大なキャベツやブロッコリーが育ったのである。
フィンドホーンの作物と土壌は、専門家たちによって調査された。そのだれもが、あのように痩せた土壌から生命力に満ちた巨大な作物をつくることは不可能だと結論した。では、何がこのような奇跡を起こしているのだろうか。IBMの研究員で科学者のマルセル・ヴォーゲル博士は、フィンドホーンを訪れたときに、こう述べた。
「農園の植物は、共同体の意識によって育てられている。その意識がぐらつくか、共同体に不調和・混乱・無秩序が発生したら、植物は成長を止め、輝きを失い、枯死するだろう」
先に述べたように、巨大な作物が育ったのは1970年ごろまでで、それ以降は、標準的なサイズに収まっている。それは、巨大な作物が人々の注目を集め、フィンドホーンに足を運ばせる役目を終えたからだという。
確かに、いつまでも巨大な作物が育ちつづけたら、人々はその現象面だけに目を奪われただろう。真に目を向けるべきは、現象の裏に働く力なのだ。
自然界の精霊とコンタクトした人物は、もうひとりいる。
科学者で作家のロバート・オーギルヴィー・クロンビーだ。フィンドホーンでは「ロック」と呼ばれている。
彼は、フィンドホーンのメンバーがまだ5人だったころにピーターと出会い、自然との共同創造という点で意気投合して、フィンドホーンを愛し、しばしば訪れるようになった。
1966年3月のある日、エジンバラに住んでいたロックは、植物園を散歩中、木製のベンチに腰を降ろし、ベンチの背に接していたブナの大木に肩と頭を預け、周囲を見ていた。
すると、ベンチから25メートルほど離れた木の周囲で、身長1メートルほどの美しい若者が踊っているのが見えた。その姿は通常の人間のものではなかった。両脚は茶色い毛でびっしりと覆われ、先のほうにはひづめがあった。あごと耳は尖り、額には2本の角が生えていた。神話に登場する牧神そのものだった。
彼が近づいてきたとき、ロックは挨拶をしてみた。すると彼は、自分が見えるのかと、驚きをあらわにした。
彼のいくつかの質問に答え、確かに見えていることを証明すると、彼は、植物園の木の生育を手助けすることが自分の仕事だと語った。また、人間が精霊の存在を信じることも助けを求めることもしないから、精霊たちは人間に無関心になったともいった。
ロックが彼に、ある種の人々は精霊の存在を信じ、助けを求めていると話すと、ふたりの間に仲間意識が生まれた。彼は、自分の名前は「クーモス」だと告げた。クーモスは、ロックの家までついてきて、書架をしげしげと眺め、なぜこんなものが必要なのかと尋ねた。彼によれば、人間は、望みさえすればほしいだけの知識を手に入れられるというのだ。
ロックは、牧神クーモスに子供の無邪気さと大自然の叡智を感じた。その後も彼らは何度か会ったという。
同年4月のある晩、街路を歩いていると、ロックよりずっと背が高く、恐るべき力に満ちた牧神が、隣を歩いていることがわかった。
その牧神は、自分が怖くないか、自分を愛しているか、悪魔だとは思わないのかなどと尋ねてきた。ロックは、恐怖はまったく感じないし、愛していると答えた。牧神は満足し、ロックの家の前まで来ると、姿を消した。
さらに、5月にはアイオナ島で、9月にはアッティンガムパークで牧神に遭遇した。アッティンガムでは、牧神と一体化し、牧神の視点から世界を見るという経験をした。
牧神とは、全世界的、宇宙的なエネルギーであり、自然界のどこにでも発見できると、ロックはいう。人間が自然界の精霊や牧神との信頼関係を取り戻し、彼らの協力を求めれば、助けが得られるとも。フィンドホーンは、それが実現された場所なのだ。
ローズマーキーの「仙女の谷」と呼ばれる場所で、妖精の王と対面したこともある。王は、なぜ人間は自然のバランスを破壊し、動植物を殺し、大地を砂漠に変えるのか、それが自分自身を破壊する行動だとわからないのかと、厳しい表情で問いかけてきた。
ロックは、人間は本来、邪悪ではなく、その多くがすべてのものと友好的に暮らすことを望んでいること、自然破壊に心を痛め、地球と自然に平和をもたらそうとしている人間も大勢いることを伝えた。
このような体験と、そこから得た情報をロックはフィンドホーンに提供した。それは今日にいたるまで、重要な指針のひとつとなっている。
また、ロックはフィンドホーンの菜園を訪れたとき、牧神や精霊に援助をため、その地を人間、ディーバ、自然界の精霊の三者が協力しあえる実験室のような場所にした。
このころアイリーンは、菜園をより美しい場所にするため、樹木や花を植えなさいというガイダンスを受け取っていた。そこでロックが牧神に助けを求めると、牧神は、すべての樹木や花をフィンドホーンで健やかに成長させることを約束してくれた。この約束は、現在も守られているようだ。
内なる声に耳を傾け、自然界と協力し、すべての行動に愛を込めたとき、どんなことが起きるのか。
フィンドホーンは、設立当初から今日にいたるまで、一貫してこのテーマを追求してきたといえる。
では実際に、この行動指針に従って共同体で生活しているメンバーは、どのような体験をしているのだろうか。ふたりの方に話を聞く機会を得た。
ひとりめはトーマス・ミラー氏だ。アメリカ陸軍の軍曹としてアフガニスタンに2回、赴任した経験がある。32歳からフィンドホーンに滞在し、約7年が経過しようとしている。
「戦地での日々は危険と隣りあわせで、常に興奮状態にありました。退任後も平常に戻れず、山登りなど、危険なことがやめられませんでした。
そんなとき、スコットランドへ行きなさいという直感を得て、フィンドホーンの体験週間に参加しました。
体験週間が終わると覚醒したような感じがあり、この共同体にいることが自分にとってよいとわかったのです」
滞在して2年が経過するころ、トーマスは強烈な体験をした。「人間界と自然界とのつながりをつくる特別な会議を主催しなさい」というメッセージを受け取ったのだ。
「まったく未経験のことですが、メッセージを受け取ったからには、天使と協働して全力でやろうと決めました。
すると、ただちに援助がきました。ジュディーとメリーという長老級の人たちと話す機会を得たのです。私のアイデアを話すと、彼女たちも特別な会議の必要を感じていたこと、しかし、彼女たちは担い手ではなく、新人がやってくるとのメッセージを受け取っていたことを教えてくれました」
会議の開催に向けて、トーマスはチームをつくり、一緒に瞑想して会議の場をイメージした。会議を適切に行うためのエネルギーフィールドを瞑想の中でつくり、愛をもって多くの人が集まってくる様子を思い描いた。
会議は大成功を収めた。
ただ、楽な道のりではなかったと、トーマスはいう。自分の内面を整理するために、多くのワークをする必要があったそうだ。
現在は、老朽化したバンガローを取り壊し、その敷地を再開発するというプロジェクトに取り組んでいる。
「寄付金を募り、再開発エリアに新しいゲストハウスを建てるプランを進めています。自然界のエネルギーを包み込むような、フィンドホーン流のゲストハウスです」
プロジェクトを立ちあげる前にチームで何か月も瞑想をし、ゲストハウスの具体的なイメージをトップに提案したところ、OKがもらえたという。
寄付金も順調に集まっている。友人が5000ドルという大金を寄付してくれたし、資金集めの専門家が力を貸してくれることになった。
トーマスに、ひとつ疑問を投げかけてみた。われわれは皆、自分自身と対話していると思うが、聞こえてくるのが内なる声か、エゴの声かは、どこで見分ければよいのだろう?
「それについては、私も学んでいる最中ですが、見分け方はいくつかあると思います。まず、自分が穏やかで落ち着いているときに受け取ったメッセージかどうか。せっかく慈悲深い存在がそばに来ていても、イライラしていると、そのことに気づけません。その意味で、瞑想はとても大切です。また、メッセージの内容がグループ全体にとって役に立つかどうか。さらには、他者との関係性はクリーンか。だれかに対する怒りやしこりは、内なる声を聞くときの妨げになります」
また、内なる声を聞くときは、皆それぞれに違う感覚を働かせていると、トーマスはいう。
「内なる声の内容も、降りてくる方法も、それぞれに違います。だから、その人なりの方法を確立するのがよいと思います。ちなみに私の知人は、内なる声を嗅覚でキャッチします。内なる声を聞き、やろうと決めた瞬間、バラの香りがするそうです」
フィンドホーンという共同体の目的は何かを尋ねると、「完璧には答えられない」と前置きしたうえで、次のように語ってくれた。
「フィンドホーンは私より大きな存在で、私が見ているのは一部に過ぎませんが、世界に何かをもたらそうと意識しているグループだと思います。そのための生きた実験室ともいえます。
この共同体は、皆さんを地球の裏側から連れてくるほどパワフルです。体験週間を終えた後、皆さんがフィンドホーンに何を与えたかを見ることで、この共同体の目的がわかるかもしれません。それをぜひ、皆さんから教えてほしいと思います」
ふたりめは、イギリス生まれのカトリーヌ・スコット氏だ。愛称は「キャット」。2009年に体験週間に参加したことをきっかけに、フィンドホーンのメンバーとなった。
庭師の資格を持ち、野菜を育てるカラーン・ガーデンでの仕事にいそしむキャットの姿は愛くるしく、まるで畑の妖精のようだといわれている。
「小さいころ持っていた絵本に、森の妖精が子供たちを見ている絵がありました。私は妖精を信じていました。母が子供のとき、オーストラリアで妖精を見たことがあるのです。
大人になり、都会で仕事をするようになっても妖精を信じていましたが、ハードワークのなかで、いつしか妖精のことを忘れていきました」
都会での生活はストレスが多かったのだろうか。キャットの家族はアルコール依存症を患い、彼女自身も30歳のときにブリストル市でリハビリをした。
そのときに、「回復したいなら高次のパワーを信じなさい」というメッセージを受け取ったという。
「ブリストル市では、雑誌の仕事をする男性と知りあいました。その雑誌は、ポジティブな変化をテーマにしたもので、彼のサポートを受けて記事を書きはじめると、スピリチュアルでマジカルな出来事が起こるようになったのです。ウェールズに拠点を置く魔術団体に参加したこともあります。この時期に、アイルランドの妖精について多くのことを学びました」
やがてキャットは、人生を変えなくてはいけないと思い立ち、大学へ戻って庭師の資格を取った。しかし、ふたたび都会で働きはじめると、妖精のことは忘れてしまった。
ハードワークをこなして家を買ったものの、カーテンを開くと、レンガの建物が見えるばかりだった。そこで家のそばに小さな美しい庭をつくったが、もっと広い空間が必要だと思った。
2009年、友人に誘われてフィンドホーンの体験週間に参加した。
「フィンドホーンのことは知っていました。野菜畑へ行くと、ハッピーな気持ちになりました。そして、ようやく妖精のことを思いだしたのです。
翌月、フィンドホーンへ戻り、自然の中で行うスピリチュアルなプログラムに参加して、木との対話を学びました。参加者の多くが妖精を見ることのできる人たちでした。私には見えなかったけれど、存在を信じていました」
ここでキャットの人生が大きく変わった。都会を去らねばならないと気づいたのである。
「ただ、私の家には19歳の年老いた猫がいました。一緒に行こうといってみたのですが、行きたくない様子で、1年後に亡くなりました」
キャットは家を売り、フィンドホーンへ来て、カラーン・ガーデンで仕事をするようになった。
「たくさん瞑想して、たくさん本を読みました。ロックの本とドロシーの本がマイベストです。自然との共同創造は、最も重要なことだと思います。デイビッド・シュパングラーにも影響を受けました。彼は、1970年代にアメリカからフィンドホーンへやってきて、教育プログラムをつくった偉大な神秘家です。私は、すべてのものに意識が宿っているということを彼から学びました。建物にも魂が宿り、あなたが挨拶をすると『こんにちは』と反応してくれます。そのとき、建物があなたに向かってキラキラするのがわかるでしょう。これは私にとって、とても大切なことです。すべての存在が生き生きとしている世界に住みたいからです」
内なる声に耳を傾けるとき、キャットがよりどころとするのは、自分自身のイマジネーションだ。その中で目にするものは、スピリットからのメッセージだと思っているという。
キャットは毎週火曜に「ビー・メディテーション」という瞑想の会を開いている。あるとき瞑想中に、とても大きな蜂の妖精が、すぐ近くまでくるというヴィジョンを見た。その蜂は、「カラーン・ガーデンにもっと花を植えてほしい」と訴えた。そこで、蜂のためにたくさんの種を買うようになった。種を買うのを忘れると、本物の蜂が姿を見せて思いださせてくれるそうだ。
「自然との共同創造は、私の大好きなテーマ。今の私たちにとって、最も大切な取り組みだと思います。
温暖化、公害、人口過密、プラスチックによる汚染など、地球はたくさんの問題を抱え、虫や動植物、あらゆる種が絶滅の危機に瀕しています。多くの人がそれを見て見ぬふりで、何事も起こっていないかのように生活しているけれど、見てみぬふりなんて、私にはできません。
私は地球の一部で、蟻やリンゴと同じように、地球に属しています。だったら、母なる地球を助けるために、自分にできることをしなければ。だから私は、カラーン・ガーデンで蜂とのワークをするのです。
今、私は54歳です。あとどれくらい生きているでしょうか? 死ぬときに後悔したくありません。
きれいな靴が履けない、スピードの出る車が持てないといったことで、人生を後悔する人はいません。人は、人生をちゃんと生きなかったことで後悔するのだと思います」
体験週間の最初に、フィンドホーンは、グループの一部という生き方ができる場所だとの説明を聞いた。といっても、グループに自分をなじませるという意味ではない。ひとりひとりが独立した大切な存在でありながら、グループの一部でもあるという生き方だ。
言葉にするのは簡単だが、非常に難しいことだ。しかし、フィンドホーンでは、それが実践されている。これこそ奇跡といえるかもしれない。
そのベースにあるのは、ひとりひとりが、共同体と世界をよりよい方向へ変容させようと意識しつづける姿勢だ。その姿勢に、内なる声を聞く、愛をもって行動する、自然との共同創造という3原則が加わった結果、今のフィンドホーンがある。
ただ、「今のフィンドホーン」とひと口にいっても、その内容は多岐にわたり、すべてをここで書きつくすことはとうていできない。
組織としては、フィンドホーン財団をはじめとする40以上の企業や団体が、ネットワークを築いている。財団の財源は、居住メンバーが納める税金的なもの、寄付金、さまざまなプログラムへの参加費用が中心だ。
また、各国からの訪問客を常時、迎え入れている。たとえば2018年には、61か国から2000人以上がフィンドホーンを訪れ、ワークショップや特別な会議に参加した。それ以外にも、1000人以上が日帰りのプログラムやツアーを体験している。
エコビレッジとしての側面も持つ。共同体の建物のほとんどに温水暖房用のソーラーパネルが組み込まれ、南側の窓は大きく、北側の開口部は最小限にして、暖房効率を高めている。また、4機の風力タービンがあり、電力の供給率は100パーセント以上だ。さらに、バクテリア、藻類、微生物などの力によって水を浄化する「リビングマシーン」という廃水処理施設をヨーロッパではじめて導入し、最大500人の下水処理を行うことができる。
カレッジもあり、フィンドホーンで生まれたトランスフォーメーション・ゲームのファシリテーターになれるコース、3週間の英語学習コース、スピリチュアリティーと健康について学ぶコースが設置されている。
「ツリーズ・フォー・ライフ」という環境保護団体も活動している。カレドニアの森林の再生を目指して植林活動を行っているそうだ。
最後に、フィンドホーンで日常的に行われている3つのことを具体的に紹介しよう。気分が乗ったときには、これらのことを真似してみてほしい。かの地を満たすエネルギーの一端に触れられるのではないかと思う。
◆瞑想
一日3回、サンクチュアリーと呼ばれる瞑想ルームに希望者が集まり、一緒に瞑想をする。実感としては、ひとりで瞑想を行うよりも、集団で行うほうが静寂の中に入りやすい。
◆ハグ
フィンドホーンでは、一日3回ハグをすると安心感が得られ、6回ならなおよく、12回すれば最高に幸せになれる、といわれているそうだ。とにかく皆、何かにつけてハグをする。これがなかなかよくて、クセになる。
◆アチューンメント
直訳すると調和、適合、同調。何かをはじめる前、一同が輪になって手をつなぎ、目を閉じ、気持ちをひとつにして感謝と祈りを捧げる。ある人がこれを日本の職場で実践したところ、雰囲気がよくなり、作業効率が格段にアップしたという話を聞いた。
これ以外では、南フランスのテーゼ村で歌い継がれる賛美歌をアレンジした「テーゼ」を一緒に歌ったり、ヨーロッパ各地のフォークダンスをアレンジした「セイクリッド・ダンス」を一緒に踊ったりする。テーゼもセイクリッド・ダンスも、平易で美しいメロディーやリズムを持ち、だれでもすぐにできるところがミソだ。つまり、そういう音楽を、体を使って皆で楽しむことが、心をオープンにしてつながりを構築するポイントなのだろう。
もうひとつお伝えするとしたら、フィンドホーンの食事は、とてもおいしかったということだろうか。
食材は野菜が中心で、あとはさまざまな穀物のパン。ライスもわりと出てくる。卵がOKな人のために、ゆで卵なども用意されている。がっつりした動物性タンパク質が恋しくなるかも、と思ったが、いらぬ心配だった。色鮮やかな野菜料理は圧巻で、質量ともに満足できるものだった。
料理の腕をふるうのは、シェフとボランティアスタッフ。もちろん素材もすばらしいのだが、彼らが愛をもって料理に臨んだ結果が、おいしさを倍増させているのかもしれない。
あの野菜料理をお目当てに、もう一度、フィンドホーンへ行ってみようかと思っている。
(2020年2月7日記事を再編集)
文月ゆう
ムー的ライター。とくにスピリチュアリズム方面が好物。物心つくかつかないかという年齢のころから「死」への恐怖があり、それを克服しようとあれこれ調べているうちにオカルトの沼にはまって現在に至る。
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