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取材=松原タニシ 構成=高野勝久
飢え死にか、天罰かーー。江戸時代、究極の選択を迫られた屋久島を救ったのはひとりの超人だった!
読経によって山の振動を鎮め、屋久島の人たちを救った超人・日増上人の活躍を確認した松原タニシ。だが、屋久島は奥深い。この島の超人はひとりだけではなかったのだ!
屋久島の東部、鹿児島や種子島との間をいききする高速船も発着する安房港の近くには、こんな道がある。
その名も「如竹(じょちく)通り」。そしてここは「如竹廟」。如竹翁のお墓だ。
この如竹さん、泊如竹(とまりじょちく)こそ、日増上人のあとに屋久島を救ったスーパーヒーローなのだ。
屋久島では、如竹さんはとにかくものすごい有名人だ。屋久島の居酒屋にいったらメニューに「如竹焼き」があり、日増上人についても教えてくれた本佛寺のご住職が、如竹さんについてひたすら語り倒すくらいすごい。
ごくごく簡単にいうと、如竹はこの島で「屋久杉を伐ってもいいよ」と初めて宣言した人物なのだ。
その昔、屋久島では杉をきるなんてとんでもないことだった。木はすべてが御神木であり、神様のもの。島民たちはそんな神様の木を切ることを恐れていた。
やがて時代が豊臣秀吉の天下になると、多くの寺社を建立するために全国の良材を探し求めていた秀吉は屋久島にも目を付ける。
そして島津を派遣して調査させ、屋久島にいい杉がたくさんあることを確認するのだが、しかしそのときも島民が大反対したために伐採は実現しなかった。
島の人はあの秀吉にも反対するくらい伐採を恐れていたのだ。
泊如竹は、そんな安土桃山時代の屋久島に生まれた人物。むちゃくちゃ頭がよくて、屋久島の法華宗のお寺で修行したのち「本能寺の変」で有名な京の都の本能寺にいって修行をし、さらに尼崎や鹿児島、さらに琉球まで渡って学問を深める。
やがては儒教にも触れて儒学者としても大成するという、まさに当時のエリート知識人だ。
そんな如竹は70歳をこえてから生まれ故郷の屋久島に戻ってくるのだが、当時、屋久島では杉をきるきらないの問題が再燃していた。
江戸時代、徳川の天下になると、屋久島でも幕府に年貢をおさめなければならなくなっていた。屋久島は花崗岩質の土地で作物は育たない。年貢になるようなものは杉しかないが、木をきったら山の神の怒りがある。でも切らなきゃ飢え死に。島の人たちはどっちを選んでも地獄の板ばさみ状態になってしまったのだ。
そこに登場したのが如竹さんだ。
如竹は、「わしが山の神に木を切っていいかどうか尋ねてくる」といって山に入り、巨大な杉の木に斧を立てかける。
そして7日後にふたたびその木を確認し、「立てかけた斧が倒れているところは切ってはいけない、斧が立ったままになっている木は、神様がきってよしといっている」と島民たちに伝えたのだ。
こうして、以後屋久島の人たちは神様の許しを得た木を安心して伐採できるようになり、年貢の問題も解決。それから1993年に世界自然遺産に登録されるまで、杉は屋久島の特産として取引されるようになったのだ。
この話を教えてくれた本佛寺のご住職によれば、斧が倒れたらNG、立ったままならOKという如竹の判断にはちゃんと意味があり、斧が倒れている=獣が通ったということで、その木は環境を変えないためにも残したほうがいい。斧が立ったままならば動物のいききがないので影響も少ない、ということなのではないか……という(あくまでご住職の見解)。
こうして屋久島の人々は年貢の悩みから解放されたのだが、いっぽうで江戸時代のあいだに伐採された杉は島全体の5〜6割にもなったともいわれる。現在の屋久島には、江戸の伐採のあとで生えてきた樹齢数百年の小杉も多い。
ともかく、こうして島の人々は救われ、如竹さんはヒーローとして語り継がれるようになったのだ。島には立派な石碑もあるし、如竹をまつる祠もある。屋久島に最初にさつまいも栽培を伝えたのも如竹だという。
と、こんなお話をご住職はずっと教えてくれて、なかには検索してもでてこないようなエピソードもあった。それを本にまとめようと計画されているそうだが、ご住職はたぶんもう90代。ぜひ長生きして本をまとめてほしい。
如竹さんのお墓近くを歩いていると、こんな壁画にも出会った。
この人たちが踊っているのは如竹さんを讃えるためにつくられた「如竹踊り」。なんでもはじめは「チコンチコン踊り」といったのだが、いつからか如竹踊りと言い換えられるようになったとか。
チコンチコンの意味はまったくわからないが、なんとなく言い換えた理由には察しがつくような……。
屋久島で神の声をきき、屋久島の全島民を救った超人、泊如竹。その足跡を追うことで、タニシもまた一歩超人に近づいたんじゃないだろうか。この「超人化計画」も、如竹さんのように知恵や情報を後世に伝えられるように頑張っていこうと思う。
松原タニシ
心理的瑕疵のある物件に住み、その生活をレポートする“事故物件住みます芸人”。死と生活が隣接しつづけることで死生観がバグっている。著書『恐い間取り』『恐い旅』『死る旅』で累計33万部突破している。
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