巨大ムカデが街を練り歩く! 台南「送天師」祭りで目撃した元日の乱舞/小嶋独観

取材・文・写真=小嶋独観

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    台湾で巨大ムカデに遭遇

     2023年の元日、私は台湾の古都、台南の街にいた。コロナ禍の影響で実に3年ぶりの海外旅行。台湾では空港での検査や隔離期間も撤廃され、自主的な検査を除けば(空港で検査キットを渡される)、やっと実質的に行動規制のない旅が可能になったのだ。もちろん旅の目的は台湾各地にある珍寺巡りなのだが、久し振りの海外の旅ゆえ、初日はリハビリがてら焦らずのんびり観光や買い物でもしようとバスに乗っていたその時だった。

     いきなりバスの脇にとんでもなく巨大なモノが現れたのだ。

     何か虫のような形状のつくりものの上に、人が何人も乗っている。その虫の頭部のキモチワルさと派手な飾りとその周りに大勢の人が集まっている様子に「これは只事ではないっ!」と判断し、すぐにバスを降りることにした。この時点で本日の観光や買い物は消し飛び、この奇妙な集団を追跡する1日になるのであった。

     バスを飛び降りると、先程の巨大なモノはどこかにいなくなっていた。代わりに派手な飾り付けをした車の上にポールダンスのステージが組まれていて、傍らには天女のような恰好をしたお嬢さんがいるではないか。

     その背後にはこれまたド派手に飾られた車や農耕車、山車や楽団など奇妙な出し物が次から次へと現れる。「一体何だこれは!」という思いは一旦封印し、この謎に満ちた集団の全容を把握することに務めた。

     もちろん先程の虫のような巨大なモノの行方を捜しつつ。

     集団は派手な先頭車両、山車や神輿、派手な音楽を鳴らす楽団、大人形、獅子舞、アイドルばりの若い女性ダンサー集団などで構成されている。

     その他、旗や幟を掲げる人や大量の爆竹を鳴らす人やその行列を構成する人達に提供する食料を積んだ車などもいた。

     しばらく集団について歩いていると、ついに最初に見かけた巨大な虫のようなモノに出会ったのだった。

    ムカデ山車=蜈蚣陣(ごこうじん)

     それは無数の手が生えているムカデの形をした山車だった。この山車は蜈蚣陣(ごこうじん)といって色々な祭りに出現しているそうだ。胴体の部分は12台の車両が連結されていて、その側壁にもムカデの胴体が描かれている。さらに尻尾の部分には尻尾のつくりものが付けられていて、長い山車全体で巨大なムカデを象っているのだった。各車両には一人づつ扮装した子供達が動物に跨っていて、飴玉を周囲の人に投げる事になっている。ちょうど休憩時間だったのだろう。昔の貴族のような恰好をした山車の上の子供たちは、ひたすらスマホでゲームをしていました……。

    写真=小嶋独観

     しばらく蜈蚣陣に見とれていると、次から次へと他のグループの行列がやって来る。各グループは各地域の廟を信仰している「講」のような集団で、それが街中の様々な廟に参拝しながら街中を練り歩くという祭りのようだ。ひとグループで50~100人位の規模である。

     街角にある小さな廟の前に到着すると、それぞれのグループ自慢の踊りや演奏を披露していく。

     路地の奥まった場所にある廟などは幾つかのグループで渋滞してしまい、手の付けられない混乱状態に陥っていたりする。

     フリージャズの巨匠、オーネット・コールマンによるソプラノサックスのソロのフレーズを彷彿とさせるチャルメラの甲高いインプロビゼーションが街のあちこちで交錯し、爆竹が鳴りまくる中でダンサーが踊るその様は、まさに狂気乱舞。

    撮影=小嶋独観

     見ているこちらも脳の芯からジンジン痺れてきて気が遠くなってくるのだ。

    撮影=小嶋独観

     後日、台湾在住の知人友人から聞いた話を総合すると、この祭りは送天師といって、ある廟の祭りがあると周辺の廟の関係者が主役の廟をはじめ近所の廟を参拝するというスタイルらしい。

     今回の主宰は六合境馬公廟という廟で、この廟の天師が交陪境(付き合いのある区域の廟のグループ)を見送るから送天師というのだそうな。入手した巡行表を見ると、この日は17のグループが39か所の廟を巡っている。

     そのため、台南の中心部は大量の蔡列にジャックされてしまったかのようだった。この日出会ったグループは驚くべきことにほぼ全てが違う出し物だった。とかく伝統的な様式を重視しがちな我が国の信仰シーンとはあまりにも違う、そのオリジナリティの追及っぷりに心から感動してしまった。台湾では信仰が現代の中でしっかり生きているのだ。

     たまたまだが、旅の初日からあまりにもエネルギッシュな洗礼をくらってしまった。この後どんな珍寺が待っているのだろう。楽しみで仕方がない。

    小嶋独観

    ウェブサイト「珍寺大道場」道場主。神社仏閣ライター。日本やアジアのユニークな社寺、不思議な信仰、巨大な仏像等々を求めて精力的な取材を続けている。著書に『ヘンな神社&仏閣巡礼』(宝島社)、『珍寺大道場』(イーストプレス)、共著に『お寺に行こう!』(扶桑社)、『考える「珍スポット」知的ワンダーランドを巡る旅』(文芸社)。
    珍寺大道場 http://chindera.com/

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