知りすぎると生きて帰れない…! タイのお守り「プラクルアン」をめぐる闇とは?(後編)

文=髙田胤臣

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    タイ人に重宝されるお守り「プラクルアン」。しかし、迂闊に外国人が手を出そうものなら、恐ろしい事態に見舞われる可能性もあるという。現地在住ライターが深すぎる闇をレポート!

    (前回はこちら)

    開運お守りプラクルアンを手にしたい人はここに行け!

    「プラクルアン」に限らず、タイのお守りは貸す・借りるものとされる。日本の神社仏閣では、授かったお守りは1年程度で返納して新たに授かるべしという話も聞くが、タイでは借りても返すことはまずなく、一応、効力は一生モノとされる。

     そんなプラクルアンを実際に手にしたいと思っている人もいるだろう。

     素人でも確実に本物を手にするなら、やはり寺院で借りるのが一番いい。ただ日本と違い、どの寺院でも貸しているというわけではない。タイの寺院は市民生活に密接した存在なので基本的には売店がない。寺院周辺でプラクルアンを貸し出す露店があってもニセモノの可能性が高い。

     寺院でプラクルアンの貸し出しがあるのは、多くがイベント的な場面である。寺院に関係する祭り、何かしらの儀式、それから単純に寺院運営の資金集めの場合もあろう。近年は手作りではなく金型で作る量産型が圧倒的だが、いずれでも、ちゃんと僧侶が読経などで何かしらの「パワー」を込めてくれる。貸し出しのあるイベントは事前にメディアなどで告知されるので、コレクターはこれを見て寺院に駆けつける。

    プラクルアン市場はタイ全土、いろいろなところにある。

     とはいえ、タイ語ができないと予定も何もわからないし、そのタイミングで現場にいないと難しい。いつでも入手できる場所となると、プラクルアンのマーケットに行くといい。バンコクで最も有名かつ恐らくタイで一番大きな市場は、タイ最高峰の寺院「エメラルド寺院」や、涅槃像がある「ワット・ポー」近くの「タープラチャン市場」だろう。チャオプラヤ河沿いに位置するプラクルアンと呪物専門市場だ。

    タープラチャン市場はこういった長屋風建物の裏にあるので、隙間の通路に入っていくと見つかる。

     だが注意したいのは、ここにあるプラクルアンは大半がニセモノである点だ。何を本物で何をニセモノと言うか判断は難しいが、量産型で、それほどのご利益が期待できないものがほとんどなのだ。取材したところ、この市場にある商店のほとんどは仏具問屋のようなもので、仲介業者がタイの村々を周って買い集めてきた量産型を置いているそうだ。それでも市場が成り立つのは、ここは信仰心が強い人よりも、アンティークなどのコレクターを対象としているからだ。

    若者のプラクルアン離れ阻止なのか、新しい市場はカラフルなものが多い。

     高尚な本物のプラクルアンを模倣したものも混じっているし、先のように買い集められたご利益のなさそうなものもたくさんある。だから、よほど惹かれるものでない限りは見るだけにした方がいいかもしれない。とはいえ、先述のとおり呪物も売っているし、薄暗くて怪しい市場感は満点なので、観光にもってこいではある。

    プラクルアン市場はニセモノも多い反面、呪物もあるので歩いているだけでも楽しめる。

     プラクルアンを借りる際、必要になるのは寺院なら数十~100バーツ程度。すなわち、500円もしないくらい。しかしタープラチャン市場では20バーツ(約80円)からある。首から提げるためのケースや紐は別途必要になるが、これらは街中のどこでも手に入るので心配はいらない。

    本物がほしい方は注意 手にしてはいけないプラクルアン

     とはいえ、タープラチャン市場ではニセモノを掴まされる可能性が高いなら、本物はどこに行けばあるのかと思うだろう。

    タープラチャン市場の内部。昼過ぎにはどんどん店が閉まるので、わりと午前中に行くことをお勧めする。

     しかし、「本物のプラクルアン」はタイ社会の闇でもあるので、ある程度の価格を超える場合は手出しはしないようにしたい。

     まず、プラクルアンがタイの生活や文化にどれくらい密接したものかというと、プラクルアンで車が買えてしまうほど。高価な本物なら、等価交換が可能なのだ。それくらい、プラクルアンの価値はタイの中では認められている。

     本物の中には何百万円もの価値を具えたものがあるということになるが、このレベルなら恐らく外国人でも手にしようと思えばできる。問題はそれを超える数千万、下手したら円建てで億を超えるようなクラスのプラクルアンだ。

     プラクルアンの歴史はここ100年ちょっとだが、その前身であるプラピム時代を含めればずっと長くタイ文化に根付いてきた。その中で、タイ史に名を刻んだ高僧や歴史的に曰くのあるプラクルアンは希少性もあって高い価値がつく。

     ここでふと気がつくだろうか。

     それほどまで歴史的に貴重なプラクルアンなら、博物館に収蔵されるべきなのでは?

     まさにこれこそがタイの闇の部分で、そういったプラクルアンは発見された時点でタイの権力者(今だと主に富裕層)に渡り、アンタッチャブルな人間関係の中で取り引きが行われているのだ。

    自作の潜水器具で川底に眠るお宝を探す。

     今は掘り尽くされているだろうが、盗掘もあっただろう。盗掘ではないものの、チャオプラヤ河沿いのバンコクのある集落では、男たちが河に毎日潜ってアユタヤ時代や現王朝初期のプラクルアンや陶器などを引き上げている。命懸けで潜っているが、ブローカーに二束三文で買い取られ、生活は向上しない。ほかのブローカーを探そうにも、ブローカー同士のコネクションや縄張りがあって、行動を起こせば身の危険があるので動けない。

    川底にあったアユタヤ時代のプラピムや骨とう品の破片。

     また、一部では博物館から流れたものもある。これらはタイ文化省が盗品リストを作成しており、このリストによって逆に盗品の価値が証明されてしまうこともある。タイ人の場合、一度入手して門外不出にすれば、永遠に見つからない。しかし、外国人が手にした場合は自国に持ち帰ることになるので、このときに危険が迫る。タイの法律では、文化的・歴史的価値のあるプラクルアンを国外に持ち出すには許可がいる。何千万円で借りても、警察にタレコミされたら空港で逮捕と没収は免れない。金だけ取られ、裏コネクションでプラクルアンは売主に返るだけである。

     ……と、そんな話を高額なプラクルアンなどを扱う業者に聞いたが、最後に「もう取材はしない方がいい。知りすぎると生きて帰れない世界だ」といわれた。それくらい、本物のプラクルアンは怖い。というか、ご利益云々よりも結局人間が怖い。

     それでも、もし興味があるなら、誰でも行きやすい市場がある。

    チャトチャック・ウィークエンドマーケットの赤ビル前は週末は安価なアンティーク市場にもなる。

     チャトチャック・ウィークエンドマーケットの横にある赤いビル内だ。BTSモーチット駅からマーケットの向こう側に見える建物である。この中にいくつも高額なプラクルアンを売る店があるので、勇気があるなら交渉してみよう。

    髙田胤臣YouTubeでのレポートはこちら

    髙田胤臣

    1998年に初訪タイ後、1ヶ月~1年単位で長期滞在を繰り返し、2002年9月からタイ・バンコク在住。2011年4月からライター業を営む。パートナーはタイ人。

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