知られざる伝承呪術「嶽啓道」継承者! 占呪術師きりん/本田不二雄
日本の長い歴史の裏側で、密かに継承されてきた占いとまじないの秘法を伝える占呪術師(せんじゅじゅつし)がいる。その最後の継承者・きりん師に、いかにして秘法を伝授されたのか、その内容はどんなものだったのか
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そろそろ「年末ジャンボ宝くじ」の季節。高額当選はありえない確率ではあるが、「宝くじの神さま」について知れば、少しでも近づける!?
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「宝くじに当たるような」とは、「ほぼありえない」と同じ意味だ。
いくら努力をしようが、祈ろうが、一日一善を100日行おうが、(たぶん)外れる。確率論的にいえば、そういうことになっている。
それでも、当たる人は確実にいる。つまり、買うほうは結果をまったくコントロールできないが、宝くじに当たる幸運はゼロではないということだ。
だからわれわれは宝くじを買う。降ってわいたタナボタを期待して――。
とはいえ、くじ運を自分に引き寄せる術はまったくないのか。やはりあてのない神頼みしかないのだろうか。
そこで、やや無茶ぶりなのは承知のうえで嶽啓道のき りん師に問うてみた。
見えない因果関係に網をかけ、モノゴトの作用にはたらきかける呪術・まじないの文脈では、宝くじをめぐる事情はどう見えるのか。師のいう「お蔭さま=精霊(的な存在)」とコンタクトをとることで、「宝くじに当たるような」幸運を引き寄せることは可能なのか否か。
き りん師はいう。
「まず、おカネって人格や人徳には興味がないんですよ。頭に入れておくべきは、おカネは大きく動くところでは大きく動く。そういうシステムになっている。おカネの動きはエネルギーの流れそのものですから、大きい川にたくさん水が注ぎ込むように動くんです」
そして、こうつづける。
「ふだん小さい川しか持っていない(小さな金額しか扱っていない)個人のもとに、大量の水が流れ込んだら決壊しますよね」
たしかに、大金を持ち慣れていない人が億のおカネを手にして人生を狂わせるなんてことはありそうだ。
それはともかく、興味深いのは「大きく動くところでは大きく動く」という、同語反復めいた〝法則〟があるらしいことだ。
一例として、き りん師は“宝くじの寺”として話題になっている福岡県の南蔵院(糟屋郡篠栗町)をあげる。
「この寺は、その境内からして地理風水上、お金が入ってくる、運気が上がっていく地形になっていて、寺が発展する理由もわかる気がするのですが、何より、ご住職が一度ならず何度も宝くじに当たっている。そしてそのお金で巨大涅槃像を建立したりなどして、参拝施設を充実させている。おかげで今や、仏教テーマパークの様相です。すると当然、縁起がいいお寺ということで、参拝者も(バスを連ねて)やってくる。だからますます発展する。そういう循環が起こっています」
南蔵院は篠栗四国霊場の総本寺として由緒格式を有する一方、1995年のジャンボ宝くじで1等前後賞合わせて1億3000万円に当選、さらにその数日後には『ナンバーズ4』で140万円を4口、計560万円を当て、その後も大小あわせて30回以上の高額当選を繰り返している寺として有名になった。
「ポイントは自分が溜めこむのではなく、何かのためだれかのために使うこと」とき りん師。
事実、南蔵院の林覚乗住職はあるインタビューで「宝くじ運を引き寄せるコツ」を問われ、「当たったときの使い道をどうするか」だと答えている。さらに、「両親を温泉に誘う、お世話になっている方にお土産を買う、どこかに寄付するとかね、自分のためではなく、社会への還元を考える」のがコツだと語っている(「福岡ふかぼりメディアささっとー」より)。
「嶽啓道では、宝くじの神様、いわゆるタナぼたの神様のことを『ホウジン(宝神)さん』と呼んでいます」とき りん師。
師いわく、宝くじはホウジンさんがつかさどっている。おカネのエネルギーがなぜ大きいところに流れるかといえば、おカネを動かす力が大きいから。いい換えれば、おカネを動かして責任を果たすことができるから。そんな人にホウジンさんはおカネを流すということらしい。
一方で、ときにタナボタを授かっても、「受け取った側がそれに見合った器量がなければ崩壊するようになっている」ともいう。
「ホウジンさんの差配は喜びごとばかりじゃないからね」ときりん師。ときに恨みつらみといったマイナスのエネルギーが強い人にドンとおカネを渡して、命を奪う(破滅させる)こともあるという。
「ばあちゃん(嶽啓道の先達)たちなんて、自分の生まれ年の運気が悪いときに、必ず宝くじを買うんですよ。で、外れたら胸をなで下ろす。この運気の悪い間も生きていられるねと。逆に当たったらめちゃくちゃ落ち込んでいました」
一般人にはやや理解不能だが、要は、〈宝くじが当たる=背負わなければいけないマイナスの業をもらった〉ととらえるらしい。つまり、ありえない金額をもらうことそのものが不吉だという考え方だ。
「だから当たった何百万のおカネ以上の額を吐き出して寄付をしたり、土木工事など地域還元にあてていました」(き りん師)
しかしこれは、呪術・まじないを生業とする者のセオリーであって一般人のそれではない。重要なことは、「宝神さんのはたらきを自己都合に引き寄せることはできない」(き りん師)という〝真実〟だろう。
つまり、イニシアチブは常にホウジンさんにある。したがって、「ホウジンさんに選んでもらえる(目をかけてもらえる)人にならなくてはいけない」ときりん師はいう。
嶽啓道でいう「ホウジンさん」は、神社に祀られるような神さまではない。もちろん、記紀神話にも登場しない。「(嶽啓道の先達である)ばあちゃんたちの話では、ホウジンさんはダイダラボッチのこと」(き りん師)だと語られていたらしい。
ダイダラボッチとは、全国各地の民話で語られる巨人伝説の主人公だ。デイダラボッチ、ダイダラボウ、デンランボウ、ダンダラボッチ、ダイタボウなど数々の異名をもち、多くは山々を形づくり、その足跡が湖や池をつくったと語られる。いわば、日本という国が編纂した神話以前にもさかのぼる〝国づくりの神〟の原像である。
き りん師によれば、「その地方の代表的な山々が連なるところにホウジンさんがおられる」という。いわゆる神道でも仏教でもない、民俗宗教ならではの大いなる土地神(地主神)を指すようだ。
そして師はいう。
「ホウジンさんがくれるものって、おカネだけとは限らなくて、いわゆる宝だから、五穀豊穣もあったりする。人によってお宝とは何かは変わってくるんですね。おカネの場合もあれば、配偶者を見つけるためにホウジンさんが動くこともある。あと、子宝も大切なお宝ですよね」
その土地の風土とともに命を育んでいた人々が、素朴に信仰してきた神さま。人々の生活実感に根差し、あらゆるプラスの価値(お宝)をもたらす存在――。あらゆるモノゴトにかかわる無数の“お蔭さま”とともに信じられてきたのが、嶽啓道のホウジンさんなのだろう。
それは、神道でいう大国主の神と仏教でいう大黒天が神仏習合し、「ダイコクさん」と呼ばれてきた福神とも深く重なっている。
さて、神さま論はこのぐらいにして、今回のテーマは、宝くじを用いて開運まじないを提案することだ。き りん師の言葉を借りれば「ホウジンさんに可愛がってもらい、目をかけてもらう」ための術法である。
「私のような術者とはちがって、一般読者の方々は、ホウジンさんやお蔭さまに何かしら期待されていると思っていい。未来において、何かプラスのことを生み出す存在かどうかを見定められているんです」(き りん師)
そこで今回は、「年末ジャンボ宝くじ」(第984回全国自治体宝くじ)をそのきっかけにしたい。
師にいわせると、宝くじの当選は、「ホウジンさんが目をかけた人に先払いしている」ことを意味する。仮に1億、何千万円と当たったとして、「その金額は本来はコツコツと働いて稼いでいれば、いつか必ず達する金額」でもある。したがって、当選金は期待金として先に与えられるということだという。
「高齢者の方が高額が当たりやすいなどといわれることもありますが、それは、いい子孫をつくったね、いい人材を育てたねという評価であると同時に、後世の人たちへの期待金でもあります」
したがって、南蔵院の住職のように、当たったら自分以外の誰かのため、何かのために使う、あるいは子や孫のために使うと宝くじ購入の前に決めておきたい。
ではいつ、どんな場所で購入するか。
それはーー後編(2023年11月12日公開)に続く!
本田不二雄
ノンフィクションライター、神仏探偵あるいは神木探偵の異名でも知られる。神社や仏像など、日本の神仏世界の魅力を伝える書籍・雑誌の編集制作に携わる。
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