ハーブ、煙、聖水、音……精霊の力で浄化する/ムー旅メキシコ・呪術編

文=遠野そら

    様々な呪術文化が混在するメキシコ。独特の宗教感が存在し「怪しげ」とも「カオス」とも伝えられているが、その実はただのオカルトとは言い切れない、深い精神世界文化があった。

    アステカ式の「浄化」

     メキシコシティ中心地にあるソカロ広場。ここは毎年独立記念日前日、大統領や国民が広場に集まり「ビバ・メヒコ!(メキシコ万歳)」と叫ぶことで有名だが、古くはアステカ文明の要所として多くの神殿が建設されていた場所である。スペイン人侵略によりその多くが破壊されてしまったが、今も地下には無数のアステカ遺跡が眠っているとされる聖地だ。

     ムー旅メキシコでは、ここで古代アステカ発祥の浄化「Limpia(リンピア)」を体験。リンピアとはその人のエネルギーフィールドを浄化し保護するお祓いの一種である。ここでは「聖水」「お香」「ハーブ」の他、ホラ貝の「音色」が必須で、これが古くから続くアステカ式のリンピアなのだという。

    広場周辺ではアステカインディアンの羽根や衣装に身を包んだストリート祈祷師が数多くおり、あちこちからホラ貝の音が響き渡っていた

     まず聖水で手や頭、腕を清めると儀式がスタート。全身もうもうと炊かれた香の煙を浴びながら、祈祷師が呪文を唱え、ホーリーバジルで全身を清めてくれる。最後は厄がついたハーブを足でグイと踏みけると、ホラ貝が「ブオーー!」と鳴り響き儀式は終了。

     ハーブの香りを深く吸い込み、まるで体の中から浄化されたような気持ちである。著者の他、モノガタリ木村と望月も同じ儀式を受けたが、なぜか望月だけ何度も肩を祓われていた。

     最初はその個性的な出で立ちに驚いたが、広場には他にも同じような衣装を身につけた祈祷師やダンサー達がたくさんいた。観光客へのパフォーマンスもあるとは思うが、東西南北の4方向と、大地、天空に祈りを捧げる様子は今なお根付いているアステカの精神世界文化を感じることが出来た。

    メキシコ人類博物館に展示されていたケツァル鳥の羽の王冠(レプリカ)

    ソノラ呪術市場での「お祓い」

     メキシコの血塗られた歴史からも大きな影響を受けているメキシコの精神世界文化。その象徴がメキシコシティにある「Sonora(ソノラ市場)」――通称、魔女市場である。ここはスペイン人が持ち込んだキリスト教と、先住民族の土着信仰が融合した市場で、メキシコ呪術にまつわる全てが揃うといわれている。

    市場周辺には屋台や行商がひしめき合っており、車両1台が通るのもギリギリであった。

     ソノラ市場自体は超巨大なガレージで、幅1メートルほどの通路を挟んで400を越える店舗がびっしりと並んでいた。なかには普通のマーケットでは見かけない品々――蛇の皮、鳥の羽、馬の尻尾に、乾燥させた薬草、媚薬、悪魔を召喚する呪具――や、宗教的置物、さらには鳥やウサギといった動物も売られており、怪しさ満点。それもそのはず、今も現役の魔女やシャーマンたちが様々な呪具を買いに来るのだそうだ。

     恐る恐る穀類や薬草を販売していた店で話を聞くと、ここでは儀式の内容や用途にあわせて配合も可能だという。他にも不眠症や痛風といった”漢方薬的”な調合もしており、それを求めに来る客も多いそうだ。

    「モテる」「フェロモンが出る」「愛をつなぎ止める」「恋人と復縁する」など数十種類もある媚薬石鹸や香水。
    なかには「金持ちにある」「勝負運が上がる」といった具体的な目的に合わせて使うものも。

     迷路のように入り組んだ通路をさらに進んでいくと、現れたのは自然治療では難しい事象に対応する「呪術エリア」である。ここは世界各地の信仰や秘教の置物や呪具が所狭しと並んでおり、どれもオリジナリティ溢れる店ばかり。死神の姿をかたどったサンタムエルテ像の横には、イエス・キリストの赤ちゃん人形。他にも、ナシミエント(キリストの降誕)や、サタン像、目と内が縫い合わされたキューバ発祥の人形、お面、骸骨――。だが、これは統一性がないわけではなく、おそらくこの地に伝わってきた宗教や信仰の集合体なのだろう。

     他にも多種多様な店が混在していたが、ここでも「Limpia(浄化)」の看板を発見!ムー旅メキシコを代表し、望月が体験してみることに。ここでは魔女らしき女性がリンピアを行ってた。話を聞くと2種類の聖水と薬草、そして煙を使って浄化をするのだという。

     まず聖水で清めた赤いろうそくで全身を強くこすると、次は顔、頭、体、全てに聖水を浴びるように吹きかける。魔女は終始目をつむりながら呪文を唱えており、何かに祈っているようだが、この時点ですでに望月はかなり濡れている。

    聖水でビッショリ濡れたハーブでこすられる。

     そして次は聖水で清めた薬草で全身をくまなく祓うのだが、これがかなり強い。「ビシッ!ビシッ!」と叩くように祓うと、痛みで望月も思わず声が。しかし魔女はまったく気にかける様子はなく、おもむろに葉巻をくわえると今度はその煙を望月に吹きかけていた。狭い店内は煙で真っ白――。そして最後にもう一度薬草で全身をバシバシ祓えば儀式は終了である。

     リンピアが終わった望月の顔は聖水でビシャビシャ。髪の毛や肩にも薬草が付着しており、儀式の激しさを物語っている。そして、最後に特製のブレスレットとろうそくをもらうのだが、なぜか望月はここでも「強く恨まれている」と言われてしまった。前回の占いでの鑑定結果といい、望月にいったい何があったのだろうか。

     今回のリンピアは体感的にハードなように見えたが、これも古くから代々伝わる儀式で、人に憑く不浄なものを取り払う意味があるのだという。

     ソノラでのリンピアにはホラ貝がなかったが、ムー旅メキシコ最終日に受けた「テマスカル」など、古代アステカの儀式には「聖水」「薬草」「煙」「音」が必須なようだ。この根本には、人間と自然を調和させ、邪を排除する意味があるのだという。

    テマスカルで煙とホラ貝の浄化を受ける筆者。

     自然への畏敬が根本にあるメキシコの精神世界文化。彼らの生と死に対する思い、そして当時の人々は何を祈り捧げていたのだろうか。

    アステカカレンダーとして知られる太陽の石。生け贄の石でもあったという。

    遠野そら

    UFO、怪奇現象、オーパーツなど、海外ミステリー情報に通じるオカルトライター。超常現象研究の第一人者・並木伸一郎氏のスタッフも務める。

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