“地球の磁場”が寿命や身体能力に影響を与えていることが判明! 不老長寿研究の新たな視点

文=仲田しんじ

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    地球上に存在しているだけで、人間を含む生物は重力や気圧、気温、湿度などの影響に否応なく晒されている。新たな研究では、地球の磁場も細胞のエネルギー生成や身体能力、さらには寿命に影響を与えている可能性があるという――。

    磁場がないと生物はどうなるのか

     磁場(Magnetic Field、MF)に関する研究は、惑星間宇宙旅行、MRIをはじめとする医療機器、渡り鳥の磁気受容のメカニズムなど、さまざまな分野で進んでいる。

     たとえば健康に良いと謳った「磁気ネックレス」なども存在するが、地球の自然な磁場である低磁場(Hypomagnetic Field、HMF)曝露の生化学的研究は、健康なモデル生物を対象としており、この目に見えない力が細胞の働きにどのような影響を与えるのかについては、これまでほとんど分かっていなかった。

    ※画像は「Wikimedia Commons」より

     しかし、最近になってこの分野に新たな光が当てられている。英ノッティンガム大学の研究チームが今年9月に学術誌「Aging」で発表した研究によると、地球の磁場は細胞のエネルギー生成、身体能力、さらには寿命にまで影響を与えているかもしれないというのだ。

    「私たちは生涯を通して地球の磁場の中で生きています。磁場は私たちの体、細胞、そして地球上のあらゆる生物を透過していますが、この目に見えない力が細胞の働きに影響を与えるのかどうか、与えるとすればどのような影響かについては、ほとんど分かっていません」と、リサ・チャクラバルティ氏は同大学のプレスリリースで説明している。

     研究チームは今回、神経変性およびミトコンドリア研究の古典的なモデル生物であるショウジョウバエを用いて、地球の磁場がほぼ完全に除去された場合になにが起こるかを検証した。

     比較対象は、健康なショウジョウバエと、ヒトの遺伝性早期発症パーキンソン病(若年性・家族性パーキンソン病)にも関連する遺伝子「Pink1」に変異をもつショウジョウバエだ。後者はパーキンソン病の影響を調べるためによく使われるが、ミトコンドリア機能不全により運動制御に支障をきたし飛ぶことができず、寿命も著しく短い。

     両者を特別に設計された磁気シールドケージに投入し、それぞれの寿命と、容器の壁を何匹が這い上がれるかを観察することで身体能力が測定された。磁場からの遮蔽は、地球の地磁気磁場が生物全体の行動や寿命に及ぼす影響を理解し、その根底にあるミトコンドリア機能や酸化ストレスをさらに詳しく調べるために有効だ。

     そして結果は、興味深いことに磁気をシールドされたPink1変異体は通常よりも約20%長く生きたが、身体能力は低下。対象的に、健康体のハエは身体能力が向上したが、寿命は短くなったのである。

    ※ショウジョウバエ 画像は「Wikimedia Commons」より

    磁場がミトコンドリアの代謝に影響

     ショウジョウバエたちに、いったいなにが起こっていたのか。研究チームによると、2つのグループが異なる反応を示したのは、ミトコンドリアの違いによるものだという。

     ミトコンドリアは細胞内の微小な構造体で、生命活動に必要なエネルギーの大部分を生成する役割を担っている。磁場が弱まると、ミトコンドリアのエネルギー代謝が変化し、ミトコンドリアによって生成される反応性の高い分子であるスーパーオキシドのレベルも変化した。

     研究チームは、ミトコンドリア呼吸(細胞呼吸)の高解像度測定と、高感度量子センサーによる測定を実施し、それぞれの変化を観測。

     Pink1変異体は通常、より多くの活性酸素分子を生成するが、地球の磁場の影響を受けない状態ではそれが劇的に減少していた。このことが寿命の延長を説明する可能性があるという。しかし、壁を這い上がるなどの運動をすると、健康体のハエよりも多くの活性酸素分子を生成した。このことが身体能力の低下を説明する可能性があるのだ。

     そしてこれらの結果は、生物を取り巻く磁気環境が、エネルギー生成、身体能力、寿命といった基本的な生物学的プロセスに大きな影響を与える可能性を示している。

    ※画像は「University of Nottingham」より

     今回の研究結果は、周囲の磁場が健康に(プラスもしくはマイナスの)影響を与えることを示すものではない。単に異なる基礎代謝状態が、磁場の変化に対して異なる反応を示すことが判明したに過ぎない点には注意が必要だ。

    「今回の研究結果は、地球の磁場が、生命が進化の過程で適応してきた生物学的環境の一部を形成しているという興味深い可能性を示唆しています。細胞が磁場をどのように感知し、反応するのかを理解することで、最終的には老化や疾患におけるミトコンドリア機能を操作する新たな方法が明らかになるかもしれません」(チャクラバルティ氏)

     古くなったり傷ついたりしたミトコンドリアは、「マイトファジー(選択的オートファジー)」と呼ばれる仕組みによって分解・除去され、その後に新しいミトコンドリアが作られて入れ替わる。これまでの研究では、この新しいミトコンドリアを増やすことが長寿の鍵であるといわれてきたが、磁場とミトコンドリアの関係を研究することで、長寿研究の新たな地平が拓けてくる可能性も大いにありそうだ。

    【参考】
    https://nautil.us/does-earths-magnetic-field-affect-aging-1285234
    https://www.nottingham.ac.uk/news/could-earths-magnetic-field-influence-how-we-age

    仲田しんじ

    場末の酒場の片隅を好む都会の孤独な思索者でフリーライター。興味本位で考察と執筆の範囲を拡大中。
    ツイッター https://twitter.com/nakata66shinji

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