地球の磁場が人間の意思決定に影響している!? 断食で感度が高まる可能性も

文=仲田しんじ

関連キーワード:

    コンパスの針を常に北へと向ける地球の地磁気は、人間にどのような影響を与えているのか。新たな研究は、地磁気が人々の精神を操り、ひいては意思決定まで左右する可能性を示唆している。

    囲碁を用いた驚きの研究

     地図もないのに迷うことなく正確なルートを飛行する渡り鳥は、地球の磁場(地磁気)を感じ取る能力「磁気受容」によって進路を定めているが、この能力は人間にも具わっているという。

     たとえば2019年に「PLOS One」で発表された研究結果では、飢餓状態の男性は地磁気を感知し、食物が置いてある方向を特定できることが報告されている。そして最新の研究では、このメカニズムがさらに複雑である可能性が示唆されている。

     韓国・慶北国立大学の研究チームが「Frontiers in Neuroscience」で発表した研究によると、地磁気は人間の意思決定に無意識のうちに影響を与えているというのだ。研究チームの実験は、囲碁の碁石を用いて行われた。

     囲碁の先手と後手の決め方は「ニギリ」と呼ばれる。まず一方が白い碁石が入った丸い器(碁笥、ごけ)に手を入れて無造作に石をつかんで文字通り“握る”。何個石をつかんでいるのか、この時点では当人にもわからない。その後、もう一方は黒い碁石が入った丸い器から石を1個、または2個取り出す。1個(奇数)にするか2個(偶数)にするかは当人の選択次第だ。そして握っていた白の石が開示されるわけだが、白の石の数と黒の石の数の奇数/偶数が一致していたら、石を交換せずにそのまま対局開始(黒か先手)となる。

     コイントスと違うのは、最初に握った白い石が何個あるかは当人にも不明であり、黒い石を1個にするか2個にするかは根拠のない選択に基づいているという2重の不確定要素が仕掛けられている点である。したがって、単純なコイントスよりもさらに結果はランダムになるのだと研究チームは定義している。

     そして黒い石を1個にするか2個にするか、この根拠のない選択に地磁気の影響が及んでいるのかもしれないと研究チームは考えた。

    wonderfutureによるPixabayからの画像

    地磁気が意思決定プロセスに作用!?

     この問いを検証するため、研究チームは自然の地磁気を遮蔽できる大型電磁コイルで囲まれた遮蔽室を用意した。

     研究チームが募った108名の参加者(男性55名、女性53名)は、仕掛けのない通常の部屋と、この遮蔽室で交互に「ニギリ」を行うよう求められた。先手を獲得した場合には金銭的報酬が与えられ、黒い石の数の選択行為に対するモチベーションも設定された。

     実験に際し、視覚的および聴覚的な手がかりは排除され、参加者には実験に関する情報が一切伝えられず、データ分析担当者にも実験条件が知らされることはなかった。

     また前出の2019年の研究に基づき、男性と女性の被験者を20時間にわたり断食させ、断食が性差反応に及ぼす影響が評価された。さらに睡眠不足の影響を排除するため、実験前に少なくとも6時間の通常の夜間睡眠が課された。

     こうして参加者はさまざまな条件下で「ニギリ」を繰り返し行い、データが収集されたのだ。

    ※画像は「Frontiers」より

     データを分析した結果、短時間断食を行った男女の参加者が遮蔽室で「ニギリ」を行った場合、先手(黒石)になる確率が著しく低くなっていたことが判明した。メカニズムはまったく不明だが、短時間の断食と地磁気がないことが、黒い石の数の選択行為になんらかの影響を及ぼしていることが示唆されたのだ。

     この実験結果は、地磁気の有無が意思決定プロセスの無意識的な要素に影響を与えたことを示していると研究チームは説明する。つまり、われわれは日頃無意識に地磁気の影響を受けていることになるのだが、それを裏付けるように、参加者の98パーセントが実験中に地磁気の有無を知覚することなく、異常なことはなにも経験していないと報告した。また、研究チームによるとごく一部の被験者(残りの2パーセント)は、意識的に明確な感覚ではないとしても地球の磁場からの情報を認識していたという。

     言い換えれば、人間は磁気受容能力をもっているが、それはほぼ意識的な認識の閾値以下で機能しているということである。

    “シックスセンス”の解明へ

     研究者たちは次に、どのような生物学的メカニズムがこの効果を説明できるのかを問うため、1.26メガヘルツに調整された極めて微弱な無線周波数信号を導入した環境で参加者に「ニギリ」を行わせた。

     ちなみにこの周波数は、鳥類とヒトの両方の網膜に存在する光感受性タンパク質である「クリプトクロム」に作用すると予測されている。渡り鳥はこのタンパク質によって地球の磁場を感知して進路を決定しているが、研究者たちはヒトでも同様の役割を果たしているのではないかと考えたのだ。

    Ted ErskiによるPixabayからの画像

     この信号下では遮蔽室と同じく、先手になる確率が有意に低下した。一方で1.89メガヘルツの周波数ではこの効果がなかったことから、1.26メガヘルツで見られる特異的な反応はクリプトクロム仮説を裏付けるものとなった。

     しかし、クリプトクロムだけが有力な仮説ではない。研究チームは有力な仮説としてもう一つ、天然の磁性鉱物であるマグネタイト(磁鉄鉱)が関わる説を挙げている。人の脳内には微小なマグネタイトの結晶が存在しており、理論上はそれらが極小の磁気センサーとして機能し得るのというのである。

     今回の実験を含め、いくつかの有力な可能性が見えてきたものの、人間の磁気受容メカニズムの全貌は今のところ解明まで至っていない。

     渡り鳥、ウミガメ、サケ、そして昆虫でさえ、地球を取り巻く目に見えない磁場を一種の“生物学的GPS”として利用し、広大な距離を移動している。しかし真の謎は、進化の過程で人間が同じような地磁気を感知する能力を、たとえわずかでも受け継いでいるかどうかである。

     意識できないものの、脳が情報を監視していること自体は驚くべきことではない。現在、われわれの脳は血圧や体温から姿勢や呼吸に至るまで、あらゆるものを常に追跡しているが、それを意識的に認識していないだけなのだ。

     磁気受容能力の研究は、まさに“シックスセンス”や超能力の解明にも通じているはずだ。その能力がどこまで及ぶのか、そしてそれが実験室を超えて日常生活にまで及ぶのかどうかは、神経科学における最も興味深い未解決問題の一つであり、今後の研究に大きな期待が寄せられている。

    【参考】
    https://www.popularmechanics.com/science/a73335644/earths-magnetic-field-may-be-controlling-your-mind/

    仲田しんじ

    場末の酒場の片隅を好む都会の孤独な思索者でフリーライター。興味本位で考察と執筆の範囲を拡大中。
    ツイッター https://twitter.com/nakata66shinji

    関連記事

    おすすめ記事