ブラジルに来襲した吸血UFO「ルス・チュパチュパ」の恐怖!/ハイ・ストレンジネスUFO事件FILE 3

文=羽仁 礼 イラストレーション=久保田晃司

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    世界中から無数に報告されるUFO事件。単なる目撃情報から、異星人との直接的なコンタクトまで、その内容は実にさまざまだ。中でも、特に奇妙で不可解な遭遇事件を「ハイ・ストレンジネス事例」と呼ぶ。奇想天外な7つの接近遭遇事例を紹介する!

    ブラジルを恐怖に陥れた無気味な“吸血”UFO

     闇夜に浮かぶ巨大な脳との遭遇は確かに無気味な体験だが、1977年のブラジルでは、まさにホラー映画を地で行くような怪事件も発生している。事件は地元のポルトガル語で「ルス・チュパチュパ」、つまり「吸血光」と呼ばれている。

     それは、1977年7月のことだった。このころ、ブラジル北部の大西洋岸、アマゾン川河口を擁するパラ州や、その南部に隣接するマラニョン州の沖合で、しばしば奇妙な飛行物体や光点が目撃されていた。
     飛行物体の形状はさまざまだった。太鼓のような円筒形で、窓や出入り口は見えないと報告されることが多かったが、末端がY字に分かれたものや、長さが90メートルもある樽形の母船らしきものが目撃されたこともあった。目撃者の総数は400人にも上るといわれている。
     ブラジルは以前からUFO目撃の多発地帯である。UFOの出現自体はそれほど特別なことではないが、当時の沿岸住民を恐れさせたのは、この謎の飛行物体や光体が人間を襲い、血を吸っているように思われたことだ。
     このとき、UFOが目撃者の近くまで降下して青白い光線を照射すると、光線を浴びた目撃者は身体が麻痺して動かなくなり、体内の血が抜かれているように感じるという事件が相次いだのだ。
     被害者はまた、頭がぼんやりして身体のあちこちが痛くなったり、ときには皮膚が剥がれたり、火傷を負ったりもした。皮膚に小さな穴がいくつか空いているのが確認されたこともある。
     ある人物は、物体から光線の照射を受けた途端、全身の力が抜けていき、脱力感が激しく、そのまま死ぬのではないかと思ったと証言している。実際、病院に運ばれた者が何人もいるし、死亡した者もあると噂された。
     被害者を調べたウェライデ・カルヴァルホ医師は、被害者の赤血球が減少しているのを確認したという。また同医師は、症状が放射線障害に似ていることも確認した。そこでこの光体は現地の言葉でルス・チュパチュパ、つまり「ヴァンパイア・ライツ」(吸血光)、あるいは「悪魔の光」と呼ばれるようになったのである。
     こうして地域の住民は夜間の外出を嫌がるようになり、子どもたちは外で遊ばなくなった。漁師たちも船を出し渋った。地元住民の多くは、これらのUFOは海からやってくると信じ、実際それらが海から出たり入ったりして船や村落を照らす光景が何度も目撃された。
     周辺の村や村落は毎夜警備を行い、一部の住民は花火を爆発させて吸血光を追い払おうとした。教会に集まってひたすら祈る者たちもいた。
     地元警察は、最初この報告を信用していなかったが、このようなパニックになるとほおっておけなくなった。

    1977年7月、ブラジル北部で目撃されたUFOについて報じる地元の新聞。
    撮影されたUFOの写真。さまざまな形状のUFOが出現していたことがわかる。

    目撃者の中には、皮膚に傷や火傷のような痕が残った者もいる。写真の女性は、目撃したUFOの中に何者かが乗っていたのを見たという。

    調査担当者の謎の死とブラジル政府の隠蔽疑惑

     さらにこのころ、パラ州のブラガンサという町では、「フィッシュ・ウーマン」という謎の女が頻繁に姿を見せ、地元民を恐れさせた。
     この若い女が何者でどこに住んでいるのか、どこから来たのか、だれも知らなかった。ただ、金髪で白い肌をしていたので、明らかに外国人と思われたが、彼女は姿を現すと必ず、地元の市場で100キロ、ときには200キロという大量の魚を買っていくのだった。
     ある噂では、彼女はパラ州のカフエイロにある小さな小屋にひとりで住んでいるということだったが、そこに近づいた漁師の何人かは、彼女が水の上を歩いているのを見たと述べている。また、彼女が住むという家には、毎晩不思議な光が見られたという証言もある。
     マルガリーダという女性は、ひとりで夜道を歩いているとき、突然金髪の美しい女とでくわした。女は手首までぴったりとした長袖の黒いブラウスを着て、手袋をはめていた。彼女はマルガリーダに対し、ここで何をしているのか、子どもは何人いるのか、このような場所をひとりで歩いて怖くないかと訊ねると、突然魔術のように姿を消した。
     7月17日には、バッラ・デ・コルダにあるノヴァ・メリア牧場の牧場主ホアン・バティスタ・スーザが、むぎ藁帽子形のUFOが着陸し、中から身長1メートルくらいの人間が現れるのを目撃した。
     ついにはパラ州ヴィジア市のホセ・イルドネ・ファヴァチョ・ソエイロ市長が空軍に助けを求めた。

     こうして10月から「プラトー(円盤)作戦」と呼ばれる空軍の調査活動が開始された。これは、UFO調査に特化したものとしては、ブラジルで最初の軍事作戦といわれている。
     指揮するのはウイレンジ・ボリヴァル・ソアレス・ノグエイロ・デ・ホランダ・リマ大尉で、大尉と隊員たちは4か月の間、多くの目撃者と面談し、実際に謎の飛行物体の写真を撮影したりした。最終的に2000ページの文書、500枚の写真、16時間分の動画などが揃った。ところが、翌年になって吸血光騒ぎが収束すると、作戦は調査結果を発表することなく、突然打ち切られた。
     1997年に至り、ホランダ・リマ大尉が集めた資料が機密解除され、一部資料が公開されることになった。このとき公開された資料には、吸血光の正体に迫る内容はなかったが、この機会に大尉がブラジルのUFO雑誌のインタビューに対し、これまで明らかにされなかった証拠をあげたことがある。しかしこのインタビューの3か月後、大尉は自宅で首を吊った姿で発見されたのだ。
     以後ブラジル政府は、吸血光事件についてずっと口をつぐんでいる。吸血光の目撃はその後報告されていないが、じつは密かに出現しつづけているとの噂もある。フィッシュ・ウーマンやホランド・リマ大尉の謎の自殺との関係も、不明なまま残されている。

    ブラジル政府が実施したUFO事件の調査活動「プラトー作戦」の調査資料。
    プラトー作戦を指揮したウイレンジ・ボリヴァル・ソアレス・ノグエイロ・デ・ホランダ・リマ大尉。のちに謎めいた死を遂げている。

    ●参考資料=「宇宙人大図鑑』(中村省三著/グリーンアロー出版社)、「UFOと宇宙」第18号/64号/66号/67号(ユニバース出版社)、『FLYING SANCER REVIEW』1994年8月号(FSR Publications)

    (月刊ムー 2025年1月号掲載)

    羽仁 礼

    ノンフィクション作家。中東、魔術、占星術などを中心に幅広く執筆。
    ASIOS(超常現象の懐疑的調査のための会)創設会員、一般社団法人 超常現象情報研究センター主任研究員。

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