2ちゃんオカ板で語られた謎の巨女「八尺様」/朝里樹の都市伝説タイムトリップ
都市伝説には元ネタがあった。白いワンピースを着た巨大な女はどこから来たのか。
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ネット発の都市伝説妖怪でも、いまだ注目度の高い【八尺様】。その〝大きな〟存在を、実話として記録した昔の文献から補遺々々しました。ホラー小説家にして屈指の妖怪研究家・黒史郎が、記録には残されながらも人々から“忘れ去られた妖怪”を発掘する、それが「妖怪補遺々々」だ!
身の丈が八尺(240センチ)ほどもある女性の姿をした妖怪【八尺様】——それを大きく越える怪異が登場するアドベンチャーゲーム『百尺様』の開発が先ごろ発表されました。
【八尺様】といえばネット発とされる都市伝説。近年に再ブレイク(?)し、その人気はまだまだ衰えていないようで、同怪異をテーマとした創作物や、その正体に迫る考察などがネット上で多数確認できます。
妖怪補遺々々でも、この怪異にちなんで「大きな女性の姿をした妖怪」をいくつか紹介しています。その中で、宮崎県の山中で見つかった「猟師の罠にかかっていた八尺ほどの女の死体」について書きましたが、今回は「実話」として記録された同型の話をご紹介したいとおもいます。
宝暦のころ、高知県長岡郡豊永に寿之助という猟師がいました。
この人物は「オス」という猟法で猪を捕ることを得意としていました。オスとは獣の通り道に糸を張っておき、獣が引っかかると鉄砲から弾が発射されるという仕掛けです。「据銃」と呼ばれ、人も引っかかる危険があるので現在は禁止されている猟法です。
ある日、寿之助は楓カ森と呼ばれる、猪がたくさんいる山にオスを仕掛けました。
翌朝、サテ獲物はかかっているかなと見にいった寿之助は、大変驚きます。
オスにかかっていた死体は、猪ではありません。
それは、人のようなものでした。
花や木の葉でつくったものを腰につけ、腰から上には何も身に着けていない女性です。髪は腰のあたりまで伸び、肌は雪のように白く、顔かたちは貴人のように美しい人ですが、普通の人ではありません。身の丈が八尺ほどもあったのです。
寿之助は、ふたりの仲間を呼んできました。
オスにかかった死体を見たふたりは「これは楓カ森の女神に違いない」といって、そんなものを罠にかけた寿之助の身を案じました。今すぐ西福寺の住職を呼んで、念仏でも唱えてもらわないと祟られるぞ、と。
さっそく西福寺へ行って住職に事情を説明しますと、楓カ森に女神などいないから、それは【天狗の花嫁】だろう、といいます。
この山には天狗がいるという言い伝えがあるからです。
ただ、八尺の女の鼻は、天狗のように高くはありません。
住職を連れて楓カ森に戻ると、大きな女の死体はそのままそこにありました。
実物を見て、住職は不思議に思います。
これほど背が高いのだから、オスに掛かったとすれば、弾丸は腰から下に当たっているはず。それでは、致命傷にはならないはずだというのです。
なるほど。本来は猪を獲るために仕掛けた罠ですから、猪の致命傷になるような位置で設置されているはず。この大きな女にとって、それは腰より下の位置になります。
弾はどこに当たったのかと死体をよく調べてみますと、驚くべきことに、死体には弾丸が当たった傷はひとつも見当たりません。
不具合でも生じたかと鉄砲を調べますと、弾丸が射出された形跡はあります。
いったいここで何があったのか。彼女の身に何が起こったのでしょう。
考えられるのは、心臓麻痺。いわゆる、ショック死です。
弾丸が発射された音に驚き、心臓が止まってしまったのです。
なんにしても、このままにはしておけません。
住職が読経して懇ろに弔うと、八尺の女はその場に埋葬されました。
その後、寿之助は「天狗の花嫁の墓」と刻んだ石碑を建て、彼女の霊を慰めました。
それから祟りなどは起こらなかったそうですが、八尺の女の正体は謎のままです。
次も同じく高知で本当に起こった事件です。
明治のころ、土佐郡神田村(現・高知市)で、こんな出来事がありました。
大雨の降る夏の夜。ある農家の家で、飼っている馬が突然騒ぎだしました。
何事かと厩(うまや)に行くと、大切な愛馬の姿がありません。
いったい何が……まさか、逃げだしたのかと飼い主は大慌てです。
すぐに捜しに出たくとも、外は大降り。松明をつけられません。しかし、明かりがなくてはどうにもできないので、しかたなく朝を待ち、夜が明けてから隣家の人に手伝ってもらって馬を捜索しました。
しばらくして、馬は異常な状態で発見されました。
裏山の大松の枝の股に引っかかっていたのです。
馬が自分でやったとは考えられませんし、当然ながら人のなせる業でもありません。
大騒ぎになって、数十人の村人で綱や細引きを使ってなんとか馬を下ろしました。
馬の体に怪我はありませんでしたが、ひどく衰弱しており、4、5日苦しんだ後に死んでしまいました。原因は不明とのことです。
「天狗の花嫁」のような、大きな人の仕業かもしれませんね。
長崎県壱岐郡勝本町本宮菖蒲田(現・壱岐市)、山神山の裾に【鬼火石】という石がありました。
この石のあたりには毎晩、背丈が十尺(約3メートル)ほどの男が現れました。現れて何をするのかというと、火を焚いたのだそうです。
この火は、その土地では【鬼火】と呼ばれています。
同郡芦辺町にも、春の小雨が降る夜によく鬼火が焚かれたそうです。そこに現れる大男(鬼)は腰に「つづれ(継ぎ接ぎしたボロ布)」をつけており、足を広げて立っていたそうです。他、芦辺町の他の地区や郷ノ浦町、石田町(すべて現・壱岐市)にも、大男が鬼火を焚いた場所があるといいます。
民俗学者の山口麻太郎は、これを実際に見たという人から話を聞いています。
ひとつは、郷ノ浦町志原平川堤の下手の畑、もうひとつは同町小牧竜化塚の向こうの山裾。夜遅く、腰に何かをつけた大男が立ちはだかって、前後左右に動いて火を盛んに焚いたのだそうです。
このような、実際に目撃された「大きな人」の記録は民俗資料でたびたび見つかります。都市伝説の【八尺様】の正体は、こういった記録から見えてくるかもしれません。
【参考資料】
小栗久夫『半田の伝説』
山口麻太郎編著『西海の伝説』
小島徳治『土佐奇談実話集』

黒史郎
作家、怪異蒐集家。1974年、神奈川県生まれ。2007年「夜は一緒に散歩 しよ」で第1回「幽」怪談文学賞長編部門大賞を受賞してデビュー。実話怪談、怪奇文学などの著書多数。
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