「怪異と乙女と神隠し」の制作現場で都市伝説が増幅…!? アニメ化記念・原作者インタビュー
怪談や都市伝説を題材にしたアニメ「怪異と乙女と神隠し」の原作者・ぬじま氏にインタビュー!
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2021年のオネショタを含め、SNS上でたびたび話題となる「八尺様」。いわゆるネット都市伝説の存在だが、文献上にも…いるはいるは、八尺様のような大きな女性の伝承が!
「ぽぽ、ぽぽっぽ、ぽ、ぽっ…」
ふいに聞こえてくる、初めて耳にする奇妙な声。
庭の生垣の上から帽子だけがひょっこり見え、その帽子が横に移動し、生垣の切れ目から白いワンピース姿に帽子をかぶった女性が姿を現す。
生垣の高さは約2メートル。彼女の背丈はそれを超えていることになるが……。
これは身の丈が8尺(240センチほど)もある、女性の姿をした妖怪です。
白っぽいワンピースを着ており、喪服姿の若い女性、野良着姿の年増の女性といった姿もあります。
頭には帽子など、何かをのせており、「ぽぽぽ」という奇妙な笑い声を発します。
これに魅入られると数日のうちにとり殺されるので、村の人たちは【八尺様】の移動を防ぐため、村境の東西南北に地蔵を建てて祀ったのだそうです。
ーー2021年、この【八尺様】という妖怪がTwitter上で話題となりました。
事の発端は、2008年8月26日、「2ちゃんねる」のオカルト板のスレッド「死ぬほど洒落にならない怖い話を集めてみない?」への投稿です。
それは、この【八尺様】を目撃し、異常な事態に巻き込まれてしまったという〝体験者〟本人による〝体験談〟で、恐らくこれがネットに書かれた初めての【八尺様】の記録だと思われます。
どういうわけか、今年に入ってからTwitterなどSNSで再び話題となり、【八尺様】を題材にしたイラストや漫画がたくさん公開されることとなりました。
この〝体験談〟が実話なのか、創作なのかはわかっておりません。
〝体験者〟の祖父母がひどく【八尺様】を恐れている場面もあるので、〝体験者〟が生まれるずっと前から語られていた妖怪ということなのでしょうが、今のところ、同名の妖怪の記録を見つけられてはおりません。やはり、ネットで生まれた都市伝説のひとつなのでしょうか。
ただ、【八尺様】の名は見つかりませんが、「背の高い女怪」の記録は、いくつか見つけることができました。
江戸時代の医師・中山三柳の書いた『醍醐随筆』には、山中で出会った「大きな女」の話があります。
土佐国の者が、鹿を捕ろうと山の中で鹿笛を吹きました。すると、にわかに山が鳴り騒ぎ、風が吹いたように茅葦が左右に分かれ、何かが歩いてくるのが見えました。
木の間に隠れて鉄砲を構えていると、向こうのふし木(節の多い木)の上に、頭だけが出ています。それは、美しい髪をもつ、きれいな顔をした色白の女性です。ただ、頭から下は木に隠れて見えません。こんな山中で会うには怪しすぎます。思わず鉄砲を撃ちそうになりましたが、はずしたら大変なことになるので、ここはジッと動かずにおりました。
木の上から出ていた女の首は、しばらく周りを見渡すと引っ込んだということです。
只野真葛の『奥州波奈志』には、このような話があります。
ある者が薪を取りに行こうと山に入ったところ、松山の木の間から、髪を乱して歩いてくる女を見ます。色白で、真っ黒な長い髪。その女の頭は松山の梢の上に見えたので、身の丈が2丈はあったはず。つまり、6メートルほどの背丈があったということになります。
これが世にいう【山女】であろうと只野は書いています。
このように、木などの高さのある物越しに見せることで比較しやすく、その女がどれだけ大きかったのかがわかります。こうした効果を狙った(かのような)描写は、【八尺様】登場の場面にもありました。
【山女】とは、どういうものなのでしょうか。
『広辞苑』で引きますと、「深山に住み、怪異をはたらくという伝説的な女。山姥。」とあります。これは山に住む妖怪の一種で、似たものに【山男】【大人(おおひと)】などがあり、5、6尺の高さがある萱の繁る原っぱで腰から下だけが隠れていたという話もあるので、いずれも背が高かったのでしょう。
こういった山中で目撃される異人の記録は、各地にあります。
【山女】の特徴に多く見られるのは、背が高い、裸、髪が長い、肌が白い、など。
熊野の山中では、野猪の群れを追いかける「白い女」が目撃されており、随筆『秉穂録(へいすいろく)』には、同山中で《大きな女の死骸》が発見されたという記録があります。身長が8尺ほどもある女の死骸で、これを見た者によると、その髪は足に届くほど長く、口は耳のあたりまで裂け、目は普通よりも大きかったそうです。
日向国飫肥領(宮崎県宮崎市中南部、日南市全域)の山中では、猟師の仕掛けた菟道弓(うじゆみ)という罠に怪しいものがかかったという記録があります。これは全身が女の形をしており、人に似ていますが人ではありません。何も身に着けておらず、色はことのほか白く、長い黒髪を生やしていたそうで、これを「山の神」や「山女」だという人たちもいました。
菟道弓の菟道とは獣の通り道のことで、獣は同じ道を行き来することが多いため、そこに猟師が罠をよく仕掛けたそうです。そんな場所を通って罠にかかってしまうなんて、山の住むものの行動としては、あまりにも迂闊です。祟りが怖いということで死骸は処理もされず放置され、そのまま腐るに任せていましたが、とくに祟りなどはなかったそうです。
【山女】の類は、好奇心が強いのでしょうか、人に近づこうとする傾向があるよう見えると、柳田国男は著書『山の人生』に書いています。
山小屋で入り口に蓆(むしろ)を垂らしておくと、それをわざわざめくりあげて中を覗き込んでくるとか、山小屋で囲炉裏に当たっていると見知らぬ女が入ってきて、囲炉裏の反対側に無言で座ったという話がよくあったそうなのです。
熊本県球磨郡四浦村では、吉という木挽が五箇庄の山で「奇妙な行動をとる女」に遭っています。彼が山小屋にいると、いきなり髪の長い女が黙って入ってきて、にこにことしながら、しきりに自分の乳房をいじっていたそうです。これは奇妙です。驚いた吉は小屋を飛び出し、鉄炮を持って大勢の者を連れて戻ってきましたが、すでに女の姿はなかったそうです。
これは明治のころの話です。肥後の湯前村の奥、日向の米良との境の仁原山にアンチモニーの鉱山がありました。その事務所に住んでいた原田という人が、ある晩、少し離れた場所にある小屋へ行きました。そこで労働者たちと談話に興じていると、時々、小屋の屋根に小石が打ち付けるような、ぱらぱらという音がします。
なんだか気味が悪いので、もう帰ろうと小屋を出ていくと突然、背の高い女が3人現れ、そのひとりが原田の手を強くつかんできたのです。3人はほとんど裸で、何かを言っていますが、混乱している彼に聞き取ることはできません。大声で助けを呼ぶと小屋にいたみんながやってきたので、女たちは嶺のほうへと上って去っていったということです。
島根県邑知郡大和村には、【大女房】と呼ばれていたものがいたそうです。ある家で、風呂を外で沸かして入っていると雨が降ってきたので、この【大女房】が来て、ひょいっと風呂ごと抱えて移動させたといいます。これは山の異人や妖怪ではなく、ただ大柄で力持ちの女性が少し大袈裟な表現を使われて語られていたのかもしれません。
他に背の高い女の姿の妖怪で知られているのは、山陰地方に伝わる【七尋女房(ななひろにょうぼう)】でしょう。10メートル以上の背丈がある女の妖怪ですが、必ずしも大きな姿のままで現れるわけではなく、小~普通サイズから、いきなり大きくなって見せて脅かしたり、斬りつけられたことで岩と化したりします。また、正体がキツネやネコともいわれているので、大きく見えるのは幻で、それゆえ自在に変えられるのかもしれません。
【八尺様】は人によって見え方が違う妖怪でもあるので、こちらに近いかもしれません。
大きな女の人の姿の妖怪は日本以外にもあります。南米チリ中部クリコには、夜の12時になると墓場から背の高い女が現れるといわれていたそうです。この女は人が近づくと小さくなって、スカートを引き裂くなどの悪さをするもので、一番鶏の鳴き声を聞くと墓の中へと戻っていったそうです。こちらも身長の伸縮が自在のようです。
参考文献
柳田国男『山の人生』
柴田宵曲編『随筆事典 奇談異聞編』
島根大学教育学部国語研究室『島根県邑知郡大和村昔話集稿』
R・ラバル『チリの民話』
「死ぬほど洒落にならない怖い話を集めてみない?196」5ちゃんねる
(2022年1月5日記事を再編集)
黒史郎
作家、怪異蒐集家。1974年、神奈川県生まれ。2007年「夜は一緒に散歩 しよ」で第1回「幽」怪談文学賞長編部門大賞を受賞してデビュー。実話怪談、怪奇文学などの著書多数。
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