「怪異と乙女と神隠し」の制作現場で都市伝説が増幅…!? アニメ化記念・原作者インタビュー

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    怪談や都市伝説を題材にしたアニメ「怪異と乙女と神隠し」の原作者・ぬじま氏にインタビュー!

    物語に怪異を織り込む、練り込む

    ――『怪異と乙女と神隠し』は作家として燻りながら書店員として働く菫子(すみれこ)と、謎めいた同僚・化野(あだしの)がさまざまな怪異に遭遇していく物語ですが、都市伝説や怪異をテーマにした作品としてもかなりユニークですね。 “一般ウケ”を狙うならトイレの花子さんや口裂け女といったメジャーなキャラを立てていくのがスタンダードな作戦だと思いますが、本作ではホラー的な事象や都市伝説が生成されていく背景が物語に織り込まれています。ひとつのエピソードを最後まで観ると怪異の本質がわかる、という作り方をされているように思いました。

    ぬじま そうですね、できるだけそういう作品にしたいと思っています。それこそ口裂け女や、ネット怪談ならばコトリバコや八尺様のように知名度があって魅力的なキャラクターはたくさんいますが、さすがにそのレベルはもう有名すぎる。『怪異と乙女と神隠し』では、もう少し奥にある、まだそれほど知られていないような怪異を拾い出していければいいなと考えているんです。
     そんなわけで、都市伝説や怪談がブームの時代ではありますが『怪異と乙女と神隠し』はひときわ地味な作品でもあって、アニメ化していただけるなんて、収録現場の見学にいってもまだウソなんじゃないかと思っていました(笑)。

    ――シンボリックに出現する「!」の標識も、いい具合の知名度の都市伝説、怪談ネタですね。作品に登場させる「怪異」はどう選んでいるのでしょう?

    ぬじま もともと自分がホラーやオカルトが好きだったのですが、あくまで趣味だったので、いざ連載で本格的な知識を継続的に入れ込むとなるとちょっと難しいぞ……と思ったんです。そうしたら担当編集さんが「だったら僕が調べますよ」と知識サイドのフォローを買って出てくださいました。怪談や都市伝説が好きで日頃から調べているという方で、毎回助けていただいています。

    ――担当者との打ち合わせで怪異を決めて、そこからストーリーを練っていくということですか?

    ぬじま それが実は毎回けっこう場当たり的な感じです。今アニメで放映されているあたりの連載初期は特にそんな調子で、「次号の展開が決まらない」「じゃあとにかくなんか引っ張りましょう、最後にフックをつくっておきましょう」というような。
     学校を舞台にしようと決めたところから、編集さんから「教室じゅうが炎に包まれている絵があったらいいですね」とリクエストがあって、「子供の頃にみた昔話で、影を舐めたら相手が燃えてしまうって妖怪がいたぞ……」と、そんな順序です。変なアプローチですね。

    ――漫画的に映えさせたい場面と、怪異の知識と、ぬじまさんの直感というんでしょうか、降りてきたものが偶然に組み合わさって、牛鬼と畦目先生のストーリーが生まれていたとは。さらに、最後の最後に塵輪鬼まで出てきます。民俗学や妖怪の文献を深く調べたことがわかって、驚きました。

    ぬじま 都市伝説にある内容そのままで取り上げるとどうしても薄っぺらくなってしまうんです。実際はこんなだよと解釈されたり補足されたりして“解体”され、怖さや不思議さがなくなってしまうと思うんです。あの八尺様ですら、今ではずいぶん怖くなくなってしまいました。そんな流れを回避して、また不思議さの説得力を増すために「文献をひもといていくと……」といって、もうひとつ奥のストーリーを加えるといった感じです。

    漫画の制作=都市伝説の伝播

    ――エンタメとしてのストーリーの横軸に、文献にもとづいた情報がしっかりと織り込んであることで、簡単に破れない強度が作品に加わっているという印象です。でもだからこそ、かなり緻密に頭から結末までの展開が練られているんだろうと思っていたので、次号の展開を決めていない自転車操業状態だとは意外でした。

    ぬじま 連載漫画は次号への引きが命なので、とりあえず描きましょう、あとは来週の僕たちがなんとかしてくれるでしょ、みたいな(笑)。ただそうやって描いていると、前半のあそこでぽろっと言わせたセリフがつなげられるんじゃないか、打ち合わせでも別の話題でこんな怪談の話をしていたけど、それがこの回で使えそうだね、とそんな感じにつながっていくこともあります。奇跡みたいなこと、意図せず、偶然辻褄があってしまうような。綱渡りですが、そろそろ綱が切れるんじゃないかとも思ってます(笑)。

    ――ある回で「語られることによって怪異が強化されたり、変化したりしていく」という印象的なセリフがありますが、ぬじまさんと担当さんの打ち合わせのやりとりがまさに噂話の伝播や、怪異が語られて強化されていく過程そのもののようですね。

    ぬじま この漫画の制作工程じたいが都市伝説のプロセスに似てる……かっこいいですね! 「この漫画は都市伝説のような作り方をしている」(笑)。
     そう、個人的な密かな願いとして、この作品からひとつでも怪談、都市伝説が生まれたらいいなとも思っているんです。ここから生まれてネットで定着するくらいのものが、ひとつでもできたら理想的です。今のところそれに一番近いのが、「逆万引きの本」かなと思っているんですが。

    ――作品での最初の怪異ですね。万引きの逆で、菫子と化野が働いている書店の棚に見知らぬ本が増えている、という。

    ぬじま 僕は書店でアルバイトしていたことがあるんですが、そこで本当にあった話がもとになっています。「逆万引き」という単語はなくても、これを経験している書店員さんは多いんじゃないでしょうか。アニメを機にこれが広まって、いつか朝里樹さんの『現代怪異事典』の続編に一項立てられたりしたらおもしろいですよね。

    ――作品にはぬじまさんの実体験が反映されている部分もあるんですね。物語の舞台になっている街ですが、作中では「新しい街だから新たな怪異が入ってきやすい」といったセリフもありました。具体的にモデルになった街があるんでしょうか?

    ぬじま 連載をはじめるにあたって「実在する場所をモデルにしませんか?」という提案があり、自分が勤めていた書店があった街、川崎をモデルにしています。川崎は工業都市として近年になって大きく発展した街で、古い伝説のようなものが少ない土地なんですよ。そこで「逆に、ないからこそ新しく生まれていくんだ」と展開させていくことになりました。僕が働いていた書店もそうですが、作中でモデルに使ったビルやお店には現存しないところも多いんです。消えていくものを作品に記録する、記憶を残すという気持ちもあります。それも生まれては消える街を舞台にしているからこそですね。

    「わからなさ」の結末は…アニメでどうなる?

    ――「聖地」ではないですが、川崎を知っている人はそこに気をつけて鑑賞するとより面白いかもしれませんね。怪談、怪異として語り直され、生成され続けて、現場が活きていくことになります。

    ぬじま 今は怪異の神秘性や寿命が短くなっているんじゃないかと感じています。この作品は、怪異を消費しないように、また消費されないようにしていきたいと思っているんです。そのためには物語に少し分からない部分を残して、難解にはなりすぎず、でもわからないところがあるから続きを読みたい、という形を維持していきたいと思っています。曖昧な、わからない状態を愛でるような作品にして、読者、視聴者の方にも「なんだったんだろうね」と語り合ってもらえるような、そこを楽しんでもらえたら嬉しいです。

    ――『怪異と乙女と神隠し』の魅力でもある「わからなさ」が、アニメでどう表現されるのかも興味があります。

    ぬじま そうですね、アニメは望月智充さんという大ベテランの方が監督をつとめてくださって、アニメの枠組みのなかで漫画をどう展開したらいいのかといったことをお任せしています。全話の脚本を見せていただいているんですが、見せ方や感情移入のさせ方など、ずっとこちらが勉強させてもらっている感じです。漫画はまだ連載中ですが、アニメとしての結末はどうなるのか、監督だったらどんな結末を描くのか、そこを見せてもらうのも楽しみですね。

    ――菫子さんのミステリアスさも、また化野くんの正体についても、アニメはもちろん原作でもまだまだ謎が多いですね。

    ぬじま その謎を語ったところが、この物語の終わりになるのかなと思います。どちらの結末も楽しみにしていてください!

    <作品情報>
    アニメ「怪異と乙女と神隠し」

    2024年4月10日(水)より好評放送・配信中!
    詳細は公式サイトにて https://totokami.com/onair.html

    原作 ぬじま「怪異と乙女と神隠し」(小学館「やわらかスピリッツ」連載中)
    キャスト 緒川菫子:ファイルーズあい、化野 蓮:山下大輝、化野 乙:幸村恵理、畦目真奈美:堀江由衣、シズク:高橋李依、天地のどか:会沢紗弥、時空のおっさん:内田夕夜、駅係員:野沢雅子 ほか
    監督・シリーズ構成 望月智充
    アニメーション制作 ゼロジー
    製作 「怪異と乙女と神隠し」製作委員会
    ©ぬじま・小学館/「怪異と乙女と神隠し」製作委員会

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