意識は水の中に宿る!? 天才脳科学者による最先端「脳渦理論」の世界/久野友萬
意識とは、いったい何か? どのようなメカニズムで発生しているのか? 麻酔の知られざる作用を例に、最新理論について深堀りする!
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サイエンスライター・久野友萬の新著『ヤバめの科学チートマニュアル』より、編集部が“ヤバめ”のテーマを厳選! 一部を抜粋して特別公開!
宇宙がひとつではなく、無数にあるというのがマルチバース論だ。
マルチバース論には大きく2種類ある。宇宙創成に関わるマルチバース論と量子力学から導かれるマルチバース論だ。映画などではそのあたりは区別されておらず、私たちの住んでいる宇宙の隣りに別の私の住む宇宙があって、魔法や謎の科学で行き来できるのだと説明されることが多い。実際のマルチバース論は行き来できるようなものではないし、スケールが極端に大きい。
科学も宗教や思想の影響を受ける。
ビッグバン理論の着想が、ベルギー人カトリック司祭で物理学者のジョルジュ・ルメートルから始まったのは偶然ではない。一般相対性理論から膨張する宇宙を導き、膨張するのであれば、宇宙には最初があるはずだとルメートルは考え、その最初の一点を宇宙卵と呼んだ。光あれ、と神は言ったのだ。天地創造である。
やがて宇宙の膨張を示す観測データやビッグバンの残り火と考えられる宇宙マイクロ波背景放射(ビッグバンの影響で今も宇宙全体がわずかに熱を帯びている)が観測され、ビッグバン仮説は定説になっていく。
ビッグバンは2段階にわかれている。
最初に宇宙のすべてのエネルギーが閉じ込められた無限に小さい点があった。ビッグバンが提唱された当初は、これがそのまま爆発したと考えられていたが、宇宙背景放射がどの方向でもすべて同じ温度であることがわかり、問題になった。部屋の中でさえ、天井と床では温度が違うのに、何億光年も離れた場所がまったく同じ温度というのは不自然だ。
そこで考えられたのがインフレーション理論だ。
宇宙には無限小はなく、空間として存在できる最小の長さ=プランク長がある。約1.62×10のマイナス35乗メートルで、これより小さな長さでは物理法則が通用しない。宇宙の最初を考えれば、プランク長1.62×10のマイナス35乗メートルの空間から宇宙は始まったとするしかない。
その1点が一気に膨張=インフレーションした。プランク長が1センチほどになるぐらい、といっても小さすぎてわかりにくいが、同じ比率なら原子核が太陽~地球間ほどの球形に膨張するぐらいの急速な膨張だ。時間にして10のマイナス36秒でそのサイズまで膨張すれば、熱は均一に広がるのだという。宇宙背景放射が均一に広がるこの宇宙が出来上がるわけだ。
インフレーションが起きてから、初めて原子や分子や光や時間といった、私たちの宇宙をつくるすべてのものが生まれ、それが光速で広がり始める。ここからがビッグバンだ。
何もないところから、まず最初にエネルギーと空間のみが爆発的に広がるインフレーションが起き、その後で宇宙卵、宇宙のすべてが詰め込まれた空間が大爆発=ビッグバンを起こして宇宙は広がり始めるのだ。
問題はインフレーションである。インフレーションが起きた時に私たちの宇宙以外に他の宇宙も生まれ、それが今も続いている可能性があるらしい。インフレーションの前はプランク長という量子力学の世界なので、ゆらいでいる。量子力学でいう確率の状態だ。そのため、インフレーションの際に宇宙がほかの宇宙に無数に分岐した可能性があるのだ。
この時に分岐した宇宙は私たちとはまったく別の宇宙で、自分と同じ人間がいるということはない。理論上、無数の宇宙が生まれたと考えられるという、学問的な話である。もちろん実際に別の宇宙があるのかもしれないが、別の時空間にあるので、絶対に確認できない。
宇宙論から派生したマルチバース論は、宇宙はたくさんあるけれど、どの宇宙も今の私たちの宇宙とは一切関係ないというものばかりだ。もう一人の自分と出会う、SF映画に出てくるマルチバースは、量子力学のいうマルチバースを指している。
量子力学では、量子がぼんやりした雲のような確率の状態で存在し、収束条件が決まると一瞬で実体化する。コペンハーゲン解釈という古典的な理解で、これは今も大きくは変わっていない。これが宇宙でも起きているんじゃないかというのが「多世界解釈」で、1957年にヒュー・エヴェレットが提唱した。この宇宙にあるものはすべて量子でできているのだから、量子の世界がミクロにしか影響しないのはおかしい、マクロにも効いているが、私たちがわからないだけだという。
量子力学が効いているなら、宇宙は今もこの瞬間にも確率的に分岐していき、無限に広がるというのが多世界解釈だ。今日の昼に中華を食べたら、中華ではなくハンバーガーを食べた世界や昼飯を抜いた世界などにも分岐すると考える。スパイダーマンのマルチバースはこちらのマルチバースだ。
多世界解釈は思考実験の類いで、数学的にはありえても実際に無限の世界が山積みされていくわけではない。しかし「もしも~だったら」の好奇心を刺激する。
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久野友萬(ひさのゆーまん)
サイエンスライター。1966年生まれ。富山大学理学部卒。企業取材からコラム、科学解説まで、科学をテーマに幅広く扱う。
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