「トミノの地獄」の禁忌が海外にも拡大! 死を誘う呪いの詩の都市伝説を考察/ 遠野そら

文=遠野そら

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    声に出して読んではいけない詩「トミノの地獄」。その都市伝説は海外にも波及している。詩や音楽にまつわる感染のタブーを解説する。

    声に出して読むと地獄が引き寄せられる詩

     軽い気持ちで読んではいけない。後に取り返しのつかない恐ろしい凶事が起こる——。
     日本の都市伝説のひとつに、声に出して読むと呪われる詩『トミノの地獄』がある。 今から100年以上も昔の1919年(大正8年)に発表された西條八十(さいじょう やそ)の詩集『砂金』に収められている作品だ。

     それがなんと、ここ数年で海外でも「呪いの詩」として話題になっているのだ。

    “姉は血を吐く、妹(いもと)は火吐く、可愛いトミノは宝玉(たま)を吐く——”
     

     悲しく重苦しい出だしから始まるこの詩は、「戦争に出兵した少年トミノの悲哀」「地獄をさまよう様子」「遊郭(地獄)へ売られた少女の苦しみ」等と解釈されている。都市伝説として広く知られるようになったのは2004年。四方田犬彦の著書『心は転がる石のように』での記載をきっかけに、「この詩を朗読した者は災いや死に取り憑かれる」といわれるようになったという。

     感染する呪いのような怪奇譚、都市伝説は今や海外にも広がり、「トミノの地獄」は、足に障害を持って生まれたために幼いころから両親の愛を知らずに、ひとり地下牢で飢えと寒さに亡くなった少年(少女)の日記を詩にしたものと解釈されている。この詩には、トミノの悲しみと苦しみが込められており、声に出して読むことで、トミノが生きながら味わった地獄をそのまま引き寄せるのだという。

     古い詩だけに日本語でも想像次第で解釈が変わる表現が多々あるが、海外では英語をはじめ、スペイン語、ヒンディー語、インドネシア語など多言語に翻訳されており、発音記号をつけた日本語、または翻訳したものを朗読している。

     その影響は人によって様々なようだが、朗読した人たちに次々と災厄が降りかかって……ということはないらしい。ともあれ口にしてはいけない禁忌の詩を朗読するブームが世界中に広がっているのは驚きだ。

    「トミノの地獄」を英訳し、都市伝説についても紹介するサイトが増えている。https://davidbowles.us/poetry/tominos-hell-by-saijo-yaso/
    「トミノの地獄(Tomino’s Hell)」はすでにホラーアイコンになっており、ポップなファンアートまで描かれるようになっている。https://indie88.com/tominos-hell-the-cursed-japanese-poem-you-shouldnt-read-out-loud/

    死の誘発は特定の人々にのみ発動する!?

     ただ、「呪いが発動する朗読」の法則性があるとすれば、真言や呪文と同様に正確な理解(術を背景とした世界への参画)が必要であるように思う。

     というのも、インドではある曲の歌詞が、特定の宗派の人にだけ影響を及ぼしたという事件が起きているからだ。
     2006年、インド西部グジャラート州アナンド地区周辺の村で、悪霊に憑依される事件が相次いで報告された。憑依されたのはみな、敬虔なイスラム教徒ばかり。『ジャラク・ディクラ・ジャ(jhalak-dikhla-ja)』という曲を聴いたり、口ずさんだところ、突如、奇々怪々な行動を取りはじめたのだという。白目をむき体が硬直する、暴れる、異様な食欲などの奇行が報告されており、司祭に祓ってもらうことで事なきを得ているが、ジャラク・ディクラ・ジャを「悪霊を呼び寄せる曲」として聴くことを禁止する自治体が出るほどの騒動になっている。

    『ジャラク・ディクラ・ジャ(jhalak-dikhla-ja)』

     実際にジャラク・ディクラ・ジャを聴いてみると、インドらしいリズムのアップテンポな曲で、悪霊が憑依するような雰囲気はない。動画再生回数も2.64億回超えと、インドでは国民的な人気曲だという。しかし、曲中で繰り返される歌詞「アージャ・アージャ(Aaja aaja)」が、イスラム教徒にとっては死者を目覚めさせる言葉であることから、まさに呪文のように発動してしまったと考えられているのだ。

     他にも1993年にハンガリーで制作された『暗い日曜日』は、人の死を誘う曲として一部放送局で放送禁止となっている。これは亡くなった恋人を想い悲しみ自らの命を断つという嘆きの底を感じる暗い曲なのだが、この曲にまつわる自殺が世界各地で多発し、社会現象にまでなった。もちろん当時の暗い時代背景もあるだろう。諸説あるが、ハンガリーではこの曲を聴いて約160人もの自殺者が出たといわれており、人々を死へと向かわせるトリガーがこの曲にあったと思わざるを得ないのだ。

    エルヴィス・コステロの『暗い日曜日』

     古くから人は言葉の持つ不思議な力を信じてきた。古来より儀式の呪文や呪詛など、魂を込めた言葉を発することで単なる偶然とはいい切れない力を享受してきた。
     だが、言葉だけではなく、その声を自身が聴くことでも影響はあるのかもしれない。

    参考
    https://indie88.com/tominos-hell-the-cursed-japanese-poem-you-shouldnt-read-out-loud/
    https://www.koimoi.com/bollywood-news/throwback-to-time-when-himesh-reshammiyas-jhalak-dikhla-ja-was-immensely-popular-amongst-ghosts/
    http://www.tapthepop.net/news/38899

    遠野そら

    UFO、怪奇現象、オーパーツなど、海外ミステリー情報に通じるオカルトライター。超常現象研究の第一人者・並木伸一郎氏のスタッフも務める。

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