音の怪異か、演奏者の霊か? 音楽室の定番「ピアノの怪」/学校の怪談

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    放課後の静まり返った校舎、薄暗い廊下、そしてだれもいないはずのトイレで子供たちの間にひっそりと語り継がれる恐怖の物語をご存じだろうか。 学校のどこかに潜んでいるかもしれない、7つの物語にぜひ耳を傾けてほしい。

    音楽室の怪異

     学校の中で理科室に並び怪談が語られやすいのが音楽室だ。有名なのは音楽室に飾られた音楽家たちの肖像画にまつわる怪談だろう。ベートーベンの肖像画の目が光る、目が動いてこちらを見る、体の向きが変わる、憤怒の形相になる、絵から抜け出すなどの話が全国の学校で語られている。
     ベートーベン以外にもバッハやモーツァルトの肖像画を対象として同じような話が語られることもある。
     ほかにもバイオリン、太鼓、鉄琴や木琴などの音が聞こえてくるという話もあるが、この類いの話で最も多いのは、やはりピアノである。今回はそんなピアノの怪について紹介しよう。

     よく語られるのは、放課後や真夜中、だれもいないはずの音楽室からピアノの音がする、という話だ。その音を出すものの正体は不明な場合と、死者であるとする場合が多い。
     たとえば日本民話の怪・学校の怪談編集委員会編『学校の怪談4』には、学校の音楽クラブに所属していたピアノが得意な少女がいたが、家にピアノがなく、学校のピアノを借りて練習していた。将来はピアニストになることを目指して日々練習に励んでいたが、ある秋の日の夕方、家に忘れた楽譜を取りにいこうと小学校の裏門を出たところで車に撥ねられ、死んでしまった。
     その後、彼女の家族は大好きだった音楽室が見える場所に、と小学校の裏山に少女の墓を建てた。しかしそれからというもの、放課後になるとだれもいない音楽室から寂しげな曲を弾くピアノの音が聞こえるようになった。その学校では、亡くなった少女がピアノを弾きにきているのだろうと語られるようになった、という話が載せられている。

     これのもとになったと思しき話が松谷みよ子著『現代民話考7』にあるが、こちらでは舞台は静岡県の小学校とされ、裏山に墓を作ったのは音楽室からピアノの音が聞こえるようになったため、少女の父親が、少女が好きだったピアノのある音楽室が見える場所に墓を建てた、という話として語られている。

     このような死者が訪れてピアノを弾くという話は古くから語られていたらしく、同書には1949年ころの話として、群馬大学学芸学部の校舎の講堂で真夜中にピアノの音が聞こえるようになったが、その音を鳴らしているものの正体は死んだ女性だったという話がある。
     その女性は生前ピアノを習っており、結核を患って周りから止められているにも関わらずこっそりと弾いていたほどピアノが好きだった。その後、女性は結核で死亡したが、そのピアノでは音が鳴る以外にも血が滴る、ひっかき傷のようなものが現れる、鍵盤に血の跡があり、その通りに曲が鳴ったという話が語られていたという。

    死者がピアノを弾く

     同書にはほかにも岩手県盛岡市の師範学校にて、ピアノやオルガンの練習個室でうまく弾けないのを苦にして夜に自殺した人がおり、夜になるとその部屋に幽霊が出るという話や、栃木県真岡市真岡小学校に昭和40年代前半ころに七不思議のひとつとして伝わっていた話が載っている。
     ある女の子が本堂のステージにあったピアノを弾いていたところ、突然ピアノの蓋が閉まり、指をすべて切断されて死亡した。その少女がピアノを弾きに現れるという話や、岩手県盛岡市上田の師範学校でピアノがうまく弾けないのを苦にして自殺した人がおり、その現場となった練習用の個室に夜になると幽霊が出る、と語られていたという話などが載る。

     死者とは明言されない謎の存在がピアノを弾いている場合もある。たとえば常光徹編著『みんなの学校の怪談 赤本』には忘れ物をして午後8時に学校に行き、音楽室の前を通りかかったところ、ピアノを弾く音が聞こえたため、中を覗くと女の人がいて「一緒に弾きませんか」といった、という話や、やはり忘れ物を取りにいった帰りに音楽室の前を通ると「エリーゼのために」が聞こえてきたため、中を覗くと手だけが鍵盤の上を走っていた、という話が載せられている。
     さらに、小学校においてピアノがあるのは音楽室だけではない。校歌などの合唱のため、子供たちが集まる体育館にもピアノは設置されている。この体育館のピアノにも怪異譚が語られることがある。

     山岸和彦と恐怖委員会編『怪異!学校の七不思議』には、ある小学校の体育館でひとりの少年が遭遇した怪異について記されている。
     少年と友人ふたりがソフトボールの練習の帰り、日が暮れた後に学校を探検してみようということになった。この学校には七不思議が伝わっており、最後のひとつが、だれもいない体育館のピアノから音が聞こえてくるというものだったが、3人がそれを確かめようと体育館に侵入し、ピアノに近づくと、突然ピアノの音が鳴り響いた。
     3人は慌てて逃げだしたが、その後のことは覚えていないという。

     このように、学校のピアノというものはさまざまな怪異を起こす。校歌を歌ったり、音楽の授業だったり、ピアノは学校生活の中で多くの場面で使われる楽器だ。しかし同じく音楽の授業で頻繁に使う鍵盤ハーモニカやリコーダーなどとは違い、ピアノは大きく、容易に動かすことはできない。だれもいない夜の学校の中でぽつんと佇むピアノの姿、そんな想像が、怪異を連想させるのかもしれない。

    (月刊ムー2024年8月号より)

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