獣人ヤフー、地下ペンタゴン、正体不明の民族…! 未知の宝庫・米アパラチア山脈のミステリー/ブレント・スワンサー

文=ブレント・スワンサー

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    ミステリー分野で世界的な知名度を誇る伝説的ライター、ブレント・スワンサーが「日本人がまだ知らない世界の謎」をお届け!

    謎多に満ちた土地、アパラチア山脈

     荘厳で広大、時に荒々しい山は、文明の目から隠された恐怖が潜むのに最適な場所だ。北米において、奇怪な物語に彩られた長い歴史をもつ場所のひとつが、東部のアパラチア山脈である。緑豊かな森林、息を呑む絶景、そして数々の不可解な逸話にあふれた古代の広大な山脈だ。

    アパラチア山脈の位置 画像は「Wikipedia」より引用

     カナダ・ニューファンドランド島からアラバマ州中央部まで約2,400kmに及ぶ広大なアパラチア山脈は、4億8,000万年以上前に形成された。現在では平均標高910mと控えめだが、かつてはロッキー山脈に匹敵する高さまでそびえ立ち、途方もない長い年月を経て、現在の高さになった。これほど古く、広大な山脈なのだから、多くの謎が潜んでいるのも当然だろう。それでは、いくつかの謎を紹介していこう。

    アパラチア山脈の絶景 画像は「Wikipedia」より引用

    山脈に潜む奇怪な生物たち

     アパラチア山脈の森と緑豊かな渓谷には、怪獣や未確認生物などが潜んでいるという。最もよく知られているのは、「アパラチアン・ブラックパンサー」だろう。黒い毛のパンサー(豹)とはいえ、その正体はクーガー(ピューマ)やジャガーなど諸説あり、初期入植者の時代から現在に至るまで、数多くの目撃報告がある。1800年代には、民家に侵入しようとしたところをマスケット銃で撃ち殺されたという事例もある(ちなみに、大型の猫で体毛が黒い黒変種=メラニズムの存在が公式に知られているのは、ジャガーとヒョウの2種類だけである)。

     このブラックパンサーよりもはるかに奇妙な生物の存在も報告されている。そのひとつがアパラチア版ビッグフット「ヤフー(Yahoo)」だ。彼らの名前は、その叫び声がヤフーと聞こえることに由来する。ヤフーは褐色の毛で、ビッグフットやサスカッチよりもやや小さく、身長は6〜8フィート(約182〜240cm)と報告されているが、非常に攻撃的で縄張り意識が強く、危険な存在とされる。

    ドワイヨを報じる新聞記事 画像は「Monster Wiki」より引用

     アパラチア山脈を徘徊していると言われる毛むくじゃらの巨大な生物。もう1種は、「ドワイヨ(Dwayyo)」と呼ばれている。 身長7~9フィート(約150~250cm)で、ビッグフットのような猿人タイプではなく、ふさふさした尻尾を持つ二足歩行のオオカミのような姿だという。この獣は、ハンターやキャンパー、パークレンジャーなど、さまざまな人に目撃されており、夜中に耳をつん裂くような遠吠えを聞いたという人も数多くいる。ヤフーと同様、ドワイヨもまた、かなり凶悪な性格で知られており、その地域で起こる牛の切断事件の犯人と目されている。ドワイヨは犬にも躊躇なく襲いかかり、森の中から車に突進してきたり、人を襲ったという報告もある。

     狼に似た獣はもう1種いる。巨大な赤い口とギザギザの牙を持つ黒い犬のような生物で、メリーランド州サウス・マウンテン近郊の田園地帯に出没し、「スナーリー・ヨー(Snarly Yow)」「ブラック・ドッグ(Black Dog)」「ドッグ・ファイエンド(Dog-Fiend)」などと呼ばれる。この生き物の目撃は、古い国道が小川や渓谷を横切る峠に集中している。実際のところ、生身の動物というより幻の獣や妖怪のようなもので、被毛の色や体の大きさを変える能力があるという。また、ハンターの弾丸が体を通り抜けたという報告や、この生き物が壁や木を通り抜けたという報告もある。

     スナーリー・ヨーは、古くからいたずらや騒乱を引き起こしてきた。植民地時代には、馬を驚かせて乗り手を転落させ、その後でふっと消えてしまう事件が相次いだ。この習性は現代にも受け継がれており、スナーリー・ヨーが車の前に現れて運転手を驚かせたり、単に走っている車を追いかけたり、ハイカーの進路に現れることもあるという。悪意に満ちた怪物のように見えるが、スナーリー・ヨーが人を襲うことはない。

    ジャージー・バリアに描かれたスナリー・ギャスター 画像は「Wikipedia」より引用

     アパラチア山脈の奇妙な生き物は他にもいる。「スナリー・ギャスター(Snallygaster)」は爬虫類と鳥類を掛け合わせたような怪物で、ワニのような頭部に牙の生えたくちばし、鋭い爪、25フィート(約150cm)の翼を持つという。その最初の目撃報告は1730年代まで遡る。同地のドイツ人入植者たちが、空飛ぶ爬虫類の怪物に遭遇し、それを「シュネラー・ガイスト(Schneller Geist)」(「素早い幽霊」の意味)と呼んだことが「スナリー・ギャスター」の語源となった。

     特に1909年の2〜3月にかけて、スナリー・ギャスターの目撃は連発した。「大きな翼、鉄の鉤のような爪をもち、額の中央に目がある恐ろしい獣に出くわした」「機関車の汽笛のような悲鳴を聞いた」という地元住民の証言が新聞に相次いで掲載されたのだ。この記事は全米を熱狂させ、スミソニアン協会が捕獲者に報奨金を与えることを決めたり、セオドア・ルーズベルト大統領自身が狩りに出ることを検討したと言われている。スナリー・ギャスターの習性には超自然的側面もあり、たとえば五芒星がそれを寄せ付けないという話が広く信じられていた。そのため、この地方の古い家や納屋には、現在でも五芒星が描かれている。また、興味深いことにスナリー・ギャスターと先述のドワイヨは敵同士と言われており、両者が壮絶な戦いを繰り広げたという報告もある。

    不気味なヒューマノイドもうようよ

     アパラチア山脈には、謎めいたヒューマノイドの話もある。それらの多くは、同地の炭鉱、採石場、洞窟で起きたものだ。1945年12月26日、「ベルバ第1鉱山爆発事故」という壮絶な炭鉱爆発事故があったが、地元紙に奇妙な証言が掲載された。爆発直後、閉じ込められた坑夫の何人かが、切り立った岩壁に謎の扉が開き、その扉の向こうの明るい部屋から「木こり」のような人物が出てくるのを見たというのだ。その奇妙な人物は、鉱夫たちに「大丈夫だ」と言い残し、秘密の部屋に戻っていったという。

    ベルバ鉱山 画像は「U.S. National Archives and Records Administration」より引用

     謎の「木こり」は他の事故でも目撃されている。ペンシルベニア州シプトンで起きた鉱山事故の生存者2人は、奇妙な服を着た男たちに青い光で誘導されて助かったと証言した。事故の最中、石の壁にはサイケデリックなホログラフィック映像が明滅していたという。坑夫たちを暗闇から外界へと導いた後、やはり「木こり」たちは漆黒の闇へと忍び足で戻っていった。2人の生存者は、別々に質問されても同じ内容を話し、決して妄想や幻覚ではないと主張した。

     ほかにも1981年3月5日付の「The Valley News Dispatch」紙によると、ニュー・ケンジントンの下水道で、子供たちが「人間と恐竜を掛け合わせたような」体長4フィート(約121cm)の生物が這う姿を目撃したという。子供たちはその奇妙な獣を追いかけ、一人が尻尾をつかむことに成功したらしい。

     この恐竜型生物が目撃された場所から数マイルしか離れていないペンシルベニア州ディクソンヴィルには、より不気味な証言がある。1974年7月14日付の「NEWS EXTRA」によると、15人が死亡した1944年の鉱山事故を検証していた鉱山検査官グレン・E・バーガーは、「事故は大地を操る地底人の仕業である」と報告した。というのも、ある生存者が「この世のものではない凶暴な人型生物を見た」と証言したのだ。その生物は、超自然的な能力を使って陥没を引き起こして鉱夫たちの脱出を阻み、救助隊が到着するまで容赦なく攻撃してきたという。そしてバーガーは、「犠牲者の遺体に落石による傷はなく、大きな爪で切られたような傷があり、一部が欠損していた」と主張した。

     同地では、他にも奇妙な事件が起きている。2人の少年が犬を散歩させていると、不思議な穴を発見した。犬は吠えながら穴の中へと駆けていったが、その直後、低く振動するようなゴロゴロという音が奥の方から聞こえてきた。すると、犬は恐怖に怯えながら駆け戻ってきたという。その後、穴は道路工事で埋められてしまった。

    画像は「Atlas Obscura」より引用

     このように、地下で起きる不思議な現象は、何年にもわたり、この地域一帯で報告されている。そして興味深いことに、ペンシルベニア州ブルーリッジ・サミットには、軍が運営する秘密の地下基地があると噂されている。固い石灰岩の地下650フィート(約198m)に位置するというその空間は、「レイヴン・ロック(Raven Rock)」「サイトR(Site R)」「アンダーグラウンド・ペンタゴン(Underground Pentagon)」とも呼ばれ、5つの異なる地下施設が包まれるという。しかも、トンネルを通して(大統領の保養地である)キャンプ・デービッドと相互接続されているが、実態は最高機密とされる。このことを考慮すると、ヒューマノイドやクリーチャーの話は、この地下基地やそこで行われている極秘研究、そして謎めいたネットワークと関連している可能性がある。

    ルーツのわからない未知の部族も

     さらにアパラチア山脈には、人類学上の謎も存在する。1690年、アパラチア南部の荒野を歩いていたフランスの商人たちが、奇妙な光景に出くわした。生い茂った草をかき分けながら進んでいた彼らは、丸太小屋が整然と並んだ町に出た。その町には、オリーブ色の肌をした人々が住んでおり、ヨーロッパ人のような顔立ちで、ひげを生やし、目や髪は明るい色をしていた。商人たちは、新大陸を植民地化したムーア人の一団だと確信したが、この発見は否定され、忘れ去られた。

     その後、この地域の先住民たちから、荒野の奥深くに住む不思議な風習を持つ白い肌の人々について報告が相次いだが、それが真剣に取り上げられることはなく、ほとんどが民間伝承や迷信と見なされていた。ところが、先述の商人たちの発見から約1世紀後、ジョン・ザビエルというフランス人がテネシー州のニューマンズ・リッジ地域で謎めいた人々に再び出くわす。村人たちは明らかにヨーロッパ的な特徴を持ち、片言の英語を話していた。彼らは自分たちを「ポーティ・ギー(Porty-gee)」または「メルンジョン(Melungeon)」と呼び、互いにアングロ姓で呼び合っていた。 自分たちの出自や先祖について尋ねられても答えることができなかったり、答えを拒んだりした。村には文書による記録がなく、人々は議論することも嫌った。驚くべきことに、メルンジョンたちは敵対的なことで知られる同地の先住民族と友好関係を築いていた。

    画像は「USA TODAY」より引用

     時代とともに多くの入植者がこの地域に押し寄せるにつれ、メルンジョンたちはいったい何者なのか、多くの学者を悩ませた。イスラエルの失われた部族という説から、知られざる探検家の子孫だという説まで、さまざまな意見が飛び交うも、結局誰にもわからなかった。残念なことに、この地域が入植者の洪水に見舞われるにつれ、謎めいた彼らは差別を受けて隔離され、19世紀には「有色人種自由人」に指定され、土地の所有や公教育の利用が禁止され、選挙権も事実上剥奪された。その結果、彼らの多くは先祖代々の土地から移り住み、20世紀にはテネシー東部やバージニア西部の人里離れた場所にわずかに残るのみとなった。

     多様化する風景の中で、メルンジョン自身も自分たちが何者で、どこから来たのか疑問を抱き始めた。もともと後世に情報を伝える唯一の方法として口頭伝承が採用されていたが、時間の経過とともに失われてしまったようだ。彼らは自分たちをネイティブ・アメリカンではなく、別個の集団として認識していた。この謎は今日に至るまで人類学者たちを悩ませており、メルンジョン族はアメリカ最大の人類学的謎のひとつと呼ばれている。

     メルンジョン族は長い年月をかけて孤立から抜け出し、主流社会の仲間入りを果たしたが、彼らの多くはいまだに南部アパラチアの人里離れた貧困地域に住んでいる。彼らの民族的、言語的、文化的、地理的起源に関する謎は解決からほど遠いまま、熱い議論が続いている。ヨーロッパ人、アフリカ人、アメリカ先住民の三者が混血した存在である可能性が高いというのが大方の見解だが、確かなことはわかっていない。荒唐無稽な理論も無数に存在し、近年のDNA検査では地中海の人々とのつながりが示され、謎はますます深まっている。

    メルンジョン族 画像は「Wikipedia」より引用

     現代では、このトピックへの関心が再び高まり、メルンジョンの末裔たちが連帯して「メルンジョン・ヘリテージ・アソシエーション」のようなグループを結成し、文化を保護し、アイデンティティを探る動きもある。しかし、本格的な研究が行われるまでは人類学的な謎であり続けるだろう。

     奇怪な獣、地下の秘密のトンネル、謎のヒューマノイド、そして人類学的なパズル――。アパラチア山脈は間違いなく怪奇現象が多い場所だ。アパラチアン・トレイルは、ジョージア州のスプリンガー・マウンテンからメイン州のカタディン山まで、風光明媚な森林地帯が約3,500kmにわたって続く。ハイカーに人気のスポットだが、そこに向かうことを決めたら、森から目を離さないようにしてほしい。何があなたの背中を見ているかわからないのだから。

    Brent Swancer(ブレント・スワンサー)

    豪ミステリーサイト「Mysterious Universe」をはじめ数々の海外メディアに寄稿する世界的ライター。人気YouTubeチャンネルの脚本、米国の有名ラジオ番組「Coast to Coast」への出演など、多方面で活躍。あらゆる“普通ではない”事象について調査・執筆・ディスカッションを重ねる情熱と好奇心を持ちあわせる。日本在住25年。『ムー』への寄稿は日本メディアで初となる。

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