道後温泉の怪談ストリップは16時27分から……「いこかー」/松原タニシ・田中俊行・恐怖新聞健太郎の怪談行脚

文=松原タニシ・田中俊行・恐怖新聞健太郎

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    事故物件住みます芸人・松原タニシと、オカルトコレクター田中俊行、そして高松で活動する怪談バンドマンの恐怖新聞健太郎——3人の異色ユニットが、行く先々での怪奇体験を公開する。 今回は愛媛県のニュー道後ミュージックを舞台に、DJたらちゃん、そして伝説の怪談師・黒綱重倫がゲスト登場!

    *2020年8月29日記事の再掲載

    伝説の怪談師・黒綱重倫

    タニシ 事故物件住みます芸人・松原タニシです。
    田中 伝説の怪談師・黒綱重倫です。
    健太郎 四国の怪談は俺が守る、恐怖新聞健太郎です。てか田中さん、黒綱なんちゃらって誰ですか?

    山野ヤマメのモデルになった原作者・松原タニシと、伝説の怪談師・黒綱重倫の役を演じた田中俊行。

    田中 実は、8月28日から公開中(編注*初出掲載時)の映画『事故物件 恐い間取り』で亀梨和也さん演じる主人公・山野ヤマメのライバル、伝説の怪談師・黒綱重倫役を、わたくしオカルトコレクター田中俊行が演じさせてもらっております。
    健太郎 え! タニシさん原作の映画に田中さんが出てるって聞きましたけど、まさかのそんなに重要な役だったんですか!?
    田中 そやねん。伝説の怪談師・黒綱重倫。
    タニシ でも名前は劇中には出てこないですよ。一応設定として役名がある、ってことみたいで。決して亀梨さんのライバル役ではない。
    田中 いやいやタニシくん、そうは言っても黒綱は本も出してるからね。『浄霊法講』上ノ巻、下ノ巻。
    タニシ そうそう、ちゃんと小道具まで用意されてるんですよね。映画の装飾・美術のこだわりが細か過ぎてすごい。

    胡散臭い本。

    健太郎 え——、楽しみだなあ。ちなみに田中さん、セリフはあるんですか?
    田中 あるよ、一応。
    健太郎 え、すげえ! どんなセリフなんですか?

    田中 「いこかー」

    健太郎 いこかー!!!
    田中 オンリーで録ったから。
    健太郎 オンリー? オンリーって何ですか?
    田中 わからへん。「じゃあオンリーで録ります」って言われたから。

    ※ オンリー……セリフや効果音など音のみを録音する事。

    タニシ というわけで、田中俊行もチラッと映ってる映画『事故物件 恐い間取り』が全国で上映中なので、皆さん是非映画館で黒綱重倫を探してみてください。
    田中 タニシくん、「チラッと」って言わんといて。ちゃんとオンリーでセリフも録ってるねんから。

    アニソンDJたらちゃん登場

    タニシ ところでこの夏はみんな愛媛県に行きましたよね。
    田中 道後温泉にあるニュー道後ミュージックで開催されている「怪談ストリップ」に俺ら呼んでもらったんよね。
    健太郎 愛媛のアニソンDJ、DJたらちゃんも一緒に行きました。

    DJたらちゃん

    たらちゃん こんにちわー

    タニシ 今回の怪談行脚は、たらちゃんも参加してもらってます。
    たらちゃん よろしくお願いします。
    田中 早速やねんけど、たらちゃん愛媛の怪談を一つ聞かせてもらっていいかな?

    たらちゃん はい。
    ——愛媛では有名な心霊スポットK病院がまだ取り壊される前に、私含め友人や若い人たちが面白がってよく行っていました。
    私の友人の松山市に住む男女4人が「今夜K病院に肝試しに行く」と言ってきたのですが、私は用事があったため参加しませんでした。
    後日、その男女4人のうちの一人の女性Aちゃんが私の家に泊まりにきたので「そういえばこないだK病院に行ってみてどうやったん?」と聞いたところ、「病院内を色々みてまわって何事もなく松山に帰ったんやけど、松山駅について解散して私は原付をとりに駐車場にいったら、原付のシートにメスが刺さってたんよー!」と言っていました。
    私は「なにそれめっちゃやばいやん!」と興奮したのですが、その友人Aちゃんは「それよりその時一緒に同行したB君とあの日から連絡がとれない」と言っていました。
    私はB君とは面識がなかったので、どうなったんだろうと少し気にはなったけど、メスが刺さっていたことも、正直友達まわりがK病院にいったことを知ってイタズラしたんじゃないだろうかと疑っていました。
    K病院にいったひとたちからよく聞くのは「カルテを返してください」と公衆電話から電話があったとか、誰も持って帰った覚えのない注射器が自転車のカゴにはいっていたとか、その類の噂を真似したのかな。くらいでした。
    それからまた数週間たったときにAちゃんと会うことがあったので「そういえばB君どうなったん?」と聞いたら、「最近ニュースみてない? 松山で20代の男の子が殺されたの」と言われたので、びっくりして「え!? なにそれ!」とAちゃんに聞くと「実は、その殺されたのってB君なんやけど、殺されたのがあのK病院にいった数日後で・・・」と。

    Aちゃんが言うには、B君は、K病院に行った帰りに松山市のいきつけのバーにそのまま行ったらしく、バーで「K病院にいってきた」と話していたそうです。
    そのとき同じカウンターに居合わせた松山市在住のお坊さんがいたらしいんですけど、その場で仲良くなり、それから数日そのお坊さんと何度かお酒を飲みにいくようになったらしいんですが、そのお坊さんがどうやら同性愛者だったらしく、深酒したB君を自分の家に誘い、無理やり暴行しようとしたところを拒否されたので風呂場の湯舟に頭をむりやりいれて溺死させた、ということだったようです。

    タニシ なんじゃその話!
    健太郎 リアル過ぎる。
    たらちゃん けどこれK病院とBくんが殺されたんって因果関係わからないんで、怪談としては大丈夫かなぁ……と。
    タニシ ただただ怖い話。
    たらちゃん なんかAちゃんがK病院に行った翌週にバーに行ったら臨時休業の張り紙が貼ってあったらしくて、そのときにはすでに殺されてて犯人さがしてたらしいみたいなのも聞いたけどあんま関係ないとおもって話ハショりました。
    田中 でもK病院行った帰りにバーで犯人と知り合ってる。K病院に行かなければ……殺されなかったのかもしれない。
    たらちゃん あ! そういうことか・・・!
    田中 です。
    たらちゃん たしかにたしかに。
    田中 ここに心霊スポットであるK病院とB君の因果関係はあると思います。
    メスが刺さっていた事も怪談的に考えれば、その後のB君が亡くなるのを暗示しているかのように……みたいな。あくまで怪談的に都合よく考えたらですけどね。
    タニシ さすが黒綱重倫先生。
    田中 「いこかー」
    健太郎 そのセリフしかないんですね、黒綱先生は。

    たらちゃん あと、愛媛と何の関係もないんですけど、友達が思い出したって連絡くれた話があって。
    ——中学校のときにテニス部でダブルスしよって、そのダブルスの相方だった子が普段全然スナック菓子とかたべんのに部活の帰りに大量にお菓子買いこんでて、なんでそんなにお菓子買うんって聞いたら「そのうちみんなでたべよかなとおもって」ってゆうて、その日の晩に死んだらしいです。

    健太郎 え!
    たらちゃん さっき電話で急に話されました。中学生の男の子が急性心不全で風呂場で死んだらしいです。結局葬式の時にそのお菓子をみんなで食べることになったって言うてました。
    田中 いいねー、不謹慎やけど……。
    たらちゃん ですよね。まじで愛媛関係ないけどさっき聞いてちょっと「おお!」ってなったので。
    田中 短いしオチあるし、最高。不謹慎やけど。
    たらちゃん 私の話、基本不謹慎なん多いんですよ。
    田中 そこがたらちゃんの良さやなー。

    ポジティブ押しの田中を見守る健太郎とたらちゃん。

    道後温泉「怪談ストリップ」

    道後温泉のストリップ劇場「ニュー道後ミュージック」。

    タニシ さて、ではでは今回怪談ストリップで仕入れた話を、田中さんに語ってもらいましょうか。

    田中 わかりました。じゃあ黒綱重倫風に言うわ。
    ——8月16日と17日、四国で最後のストリップ劇場である、ニュー道後ミュージックに出演した。勿論ストリップではなく怪談語りとしての出演だ。ニュー道後ミュージックといえば夏場だけダンサーの演目が怪談になり「怪談ストリップ」という名で公演するのである。
    噂は関西でも度々聞いていて普通に遊びに行こうかと考えていたのだが、オファーを受けた時、これ幸いと嬉しく思った。

    僕らの出番は4回公演の中の2回、ストリップダンスの合間に怪談を語る。場所は3000年もの歴史を持ち聖徳太子も入ったと言われる道後温泉本館近くにあり、湯上りの浴衣姿のお客様もちらほらと見える。劇場は昭和で時間が止まったかのような空間。ストリップ劇場が潰れていく中、ニュー道後ミュージックは四国だけではなく全国でも貴重な存在なのであろう。
    共演させて頂いたダンサーは牡丹燈籠をストリップを交えて表現し、お露の色気にハッとしてゾッとした。また別のダンサーはエロ紙芝居をしてくれた。演目は同じく牡丹燈籠だが、紙芝居を軸に音楽、歌、動きを合わせた、アプローチが全然違うエンターテイメントだった。
    そんな出演者に触発されて緊張感を持ち、僕たちもその場の空気を楽しみながら怪談語りが出来たかと思う。

    ……ところで気になった事が一つあった。公演時間だ。4回の公演は毎時30分始まりなのだが1回目だけ「16時27分」からと中途半端なのだ。
    オーナーのKさんに尋ねてみると興味深いことを教えてくれた。
    「16時27分」は入り口、外に設置してある古時計に由来するという。この時計は縦60cm・横30cm程ある所謂振り子時計。針は「16時27分」で止まっている。

    「16時27分」で止まっている時計。4時27分かもしれない。

    Kさんがこの店を引き継いだのは15年前、そして怪談ストリップをやり始めたのが2年後の2007年。「怪談ストリップ」の準備のとき、Kさんはふと劇場内の時計と謎の市松人形があることに気づいた。演者が小道具として持って来てくれたものだと思い、劇場内にその時計と市松人形を飾ることにした。

    数日後……客が妙な事を言いだした。踊り子さんがダンスを終えるとポラタイムとして客が記念撮影する時間があるのだが、撮影した写真の踊り子さんの後ろにいくつも人の顔が映ると言う。勿論踊り子さんの後ろに人はいない。あの時計があるだけだった。また別の客はショーの途中に時計の針が逆回転しぐるぐる回るのを見たと言う。
    Kさんは気持ち悪かったが公演を続けた。すると照明器具や空調が次々と壊れて、物理的にショーが出来なくなったのだ。また外から劇場に電話はかかるが中からはかけれないという不思議な現象などなども………。結局第一回目の「怪談ストリップ」は1週間も経たずに公演を中止することになった。8月いっぱい公演は続ける予定だったのに……。

    もしかしたら時計と市松人形が原因なのかと、Kさんは調べることにした。だがそもそも、誰がいつ持って来たのかわからない。どうしていいかわからず、時計と市松人形は楽屋のダンボールに入れて保管する事にした。その時にはじめて気づいたのだが、時計の裏には謎の血痕がついていた。

    時計の裏には、結構な量の流血跡みたいなものが残されている。

    翌日のこと。「キャッ!」と出番前の踊り子が悲鳴をあげた。段ボールに詰めて保管していたはずの市松人形が、何故かゲストの楽屋で使う台所の部屋に移動している。こんなイタズラをするものもいなく、不思議に思いながらもう一度ダンボールに詰めた。しかししばらくすると、またそこから出て台所に移動する。全く怪異を信じない当時の照明スタッフがそんな筈はないと自らダンボールに詰めて自分の楽屋部屋に保管した。しかし翌日台所に……。
    この市松人形は歩き回るようだ。

    人形を封じ込めた段ボール箱。残念ながら人形自体は残っていないが、箱の大きさからそこそこサイズの市松人形だったようだ。

    あまりにも気味が悪いので、人形を供養する神社に送りことにした。
    (黒綱でなく田中としてはもったいないと思うが……)
    後日供養代として二万円払ったそうだ。Kさんはどこの神社かは失念したそうだ。

    2年目の「怪談ストリップ」を始める前、本格的にKさんはお祓いをした。1000年以上前から信仰を集めている松山を代表する神社、道後温泉を見守り続けた「伊佐爾波神社」に。それからは怪異もなくなり客足も増えた。
    そして残った時計は劇場の中でなく入り口に飾る事にした。怪談ストリップと共に現れた時計なのだから、怪談ストリップの時期だけお店の入り口に飾ろうと思ったらしい。そして時計の止まった針が指す「16時27分」を怪談ストリップの開演時間と定めた次第である。

    お祓いをして時計を飾ってから、みんなに助けてもらい何とかやっていけてる。Kさんはこの時計はもしかしたら守り神になっているのかもしれないと言っていた。
    ぼくは、曰く付きのものを祀る事によって守護神とする祟り神と近い考えだなと思った。

    噂ではこの時計の前で記念写真を撮ると心霊写真が撮れるという。行った際はぜひこちらで記念撮影を。また怪談期間が終われば時計は外されスタッフの一人が一年間預かるという謎の風習もできたらしい。来年は預からせて下さいと言っておいた。

    その時計の前で記念写真。いまのところ心霊写真にはなっていない。

    タニシ 来年は田中さん持って帰るんや……。てか、黒綱さんってそんな独白調で喋るイメージだったんですね。
    健太郎 実際の映画でのセリフはなんでしたっけ?

    田中 「いこかー」

    中央は、やはり何かと同行する後輩芸人のにしねザタイガー。「ニュー道後ミュージック」はコロナ禍によって存続の危機も囁かれたが、クラウドファンディングで全国から支援が集まった。

    松原タニシ

    心理的瑕疵のある物件に住み、その生活をレポートする“事故物件住みます芸人”。死と生活が隣接しつづけることで死生観がバグっている。著書『恐い間取り』『恐い旅』『死る旅』で累計33万部突破している。

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