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井沢元彦 著
古典文学作品から「能楽」までの真義を「怨霊信仰」という切り口から鮮やかに解明!
「和を以て貴しとなす」。日本最古の憲法の、それも第一条に掲げられた文言である。ことほどさように、この国では古来、人々の「和」こそが何よりも重んじられてきた。
だがそれは、何も日本人が、何でもかんでもナアナアですませてしまう平和ボケした腑抜け民族だったから、というわけではない。
実は日本における「和」の尊重の根底には、底をも知れぬ「怨霊信仰」があるという。キリスト教が西欧の、イスラムが中東の思想的バックボーンであったように、怨霊信仰こそは日本の精神世界の根元であり、文字通りの「原信仰」であった、と著者は喝破する。
さらには、「日本の文化は、実はそのほとんどが怨霊信仰に結びついている」とまで断言するのだ。
著者・井沢元彦氏は、歴史を専門とする作家だが、「歴史学者」ではなく、あくまでも「歴史家」。その心は、「個々の分野の専門家」ではなく、「全体を見通している」研究者であるからだという。
作家としてのデビュー作であり、江戸川乱歩賞受賞作である『猿丸幻視行』(1980)は、そのあまりの斬新さと切なさゆえに、当時の評者も度肝を抜かれたものであったが、その後の名実ともに氏の代表作にして、従来の日本史観を根底から覆した金字塔である「逆説の日本史シリーズ」は、何と現在29巻におよび、なおも継続中。まさに前人未踏の偉業といえる。
本書は、そんな日本史全般に通暁した著者が、『竹取物語』や『伊勢物語』、『源氏物語』や『平家物語』、そして『古今和歌集』といった文学作品から、それらと密接な関係を持つ芸能である「能楽」までを俎上に上げ、それらの真義を「怨霊信仰」という切り口から鮮やかに解明してみせる、斬新な著作である。
当然ながら、もともとそれらの作品についての興味、素養のある人にとっては、各作品の裏の意味に光を当てる、まさに目から鱗の指摘がてんこ盛りで、親しみやすい著者の文体と相まって、大興奮の読書体験となることは保証する。
だが評者としては、ここではあえて、古文や日本史が苦手という学生諸君にこそ、本書をおすすめしたい。最初は取っ付きにくいかもしれないが、巧みな構成と文体に乗せられて読みふけっていくうちに、これらの教科に対する見方が一転、いつの間にやら大得意科目になっているやもしれぬ。

(月刊ムー 2026年06月号掲載)
星野太朗
書評家、神秘思想研究家。ムーの新刊ガイドを担当する。
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