別府に実在した鬼・件・鵺・人魚のミイラ写真に戦慄! 八幡地獄「怪物館」の絵葉書コレクション
密かに話題の古書店「書肆ゲンシシャ」の店主・藤井慎二氏が、同店の所蔵する珍奇で奇妙なコレクションの数々を紹介!
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構成=伊藤綾 編集=千駄木雄大
いま密かに話題の古書店「書肆ゲンシシャ」の店主・藤井慎二氏が、同店の所蔵する珍奇で奇妙なコレクションの数々を紹介!
「驚異の陳列室」を標榜し、写真集や画集、書籍をはじめ、5000点以上にも及ぶ奇妙なコレクションを所蔵する大分県・別府の古書店「書肆ゲンシシャ」。
まるで、温泉街には似つかない雰囲気だが、SNS投稿などで同店のコレクションが話題を呼んでいる。その奇妙さに惹かれ、九州のみならず全国からサブカルキッズたちが訪れる、別府の新たな観光スポットになった。
知覚の扉を開くと、そこは異次元の世界……。ようこそ、書肆ゲンシシャへ。
――今回も「妖怪の写真絵葉書」がテーマです。前回は「鬼の骨」を紹介してもらいました。
藤井慎二(以下、藤井) 別府の鬼伝説でいうと「八幡竈門神社」には「鬼が一晩で造った」とされている九十九段の石段もあります。
――竈門神社は『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』がヒットした時、アニメの聖地巡礼でたくさんの人がお参りしたことでも話題になりましたね。物語の舞台は東京なのですが、主人公・竈門炭治郎と同じ名前で、かつ鬼の伝説があることで、『鬼滅の刃』ファンが押し寄せました。
藤井 コロナ禍にもかかわらず、多くの人が訪れたというのは素晴らしいことだと思います。ちなみに、別府の隣、大分市にも鬼伝説はあります。「うみたまご」という水族館や高崎山の近くに「鬼神社」があります。
――そのままじゃないですか。
藤井 なんでもこの地には呪術を使うと畏れられた老婆がいて、彼女が亡くなったときの顔が「鬼のような形相」だったため、鬼を祀る神社が建立されたそうです。これがその神社の絵馬です。
――死者に向かって鬼のような形相とは、ずいぶんな言いようですね。
藤井 小さい神社ですが、今も鬼のお面を奉納し、境内に飾っています。この間、こちらの鬼の絵馬がネットオークションに出品されていたのですが、数万円で落札されていました。
――そんなプレミア付きの神社だったのですね……。しかし、田舎の小さな神社のグッズでも買い手がたくさんいることに驚きますね。
藤井 ほかにも大分県には中津市の耶馬溪と、宇佐市にも鬼のミイラが存在していました。中津市のミイラは所蔵していた羅漢寺が火事にあった際に、一緒に燃えてしまいましたが、その写真絵葉書が残っています。
――中津、別府、高崎山、宇佐と、大分各地に鬼の伝説はあるんですね。宇佐の鬼は今も一般公開されています。
藤井 宇佐の十宝山大乗院にある鬼のミイラは、ツチノコ、河童、人魚、鬼、キマイラ、バジリスクなど、世界中の怪物がまとめられた写真集『万国怪物大博覧会』(南方堂)にカラー写真が載っています。全長約2メートルとあるので、別府と同様にかなり大きい鬼ですね。
――最近のアスリートを見ていると、2メートルでも驚かなくなりましたが、昔の人にとってみればその大きさに圧倒されたんでしょうね。
藤井 この鬼は大正14年に5500円、現在の価値に換算すると約2500万円以上で取り引きされたそうです。宇佐市もゲンシシャから近いこともあって、「鬼巡り」のついでに立ち寄られるお客さんもいます。
――鬼巡りの一環で立ち寄られる古本屋は、おそらくゲンシシャくらいでしょうね……。
藤井 この本によると、日本産の怪物ミイラはヨーロッパに輸出されていたそうです。また、別の鬼の写真絵葉書には「真か? 偽か? 謎の頭と片腕、何れにしても一大驚異」と記されています。昔は、お客さんを呼ぶための広告・チラシのような絵葉書もあったようです。
――これも大分県内の鬼ですか?
藤井 いえ。4枚組の絵葉書のようですが、ほかに周辺情報が一切ないのです。ただ、富山県の永願寺に同じような鬼の頭部と腕のミイラがあり、それだと推測されます。
――当たり前ですが、大分だけではなく全国各地に鬼のミイラはあるのですね。
藤井 鬼だけではなく人魚の写真も複数ありまして、なかでもこの絵葉書の写真は有名ですね。人魚の正面から見た姿と、背面からみた姿がセットになっています。
――いや、初めて見ました。人魚なのに、漫☆画太郎の漫画に登場するキャラクターのような顔をしていますね……。
藤井 残念ながら、これも「人魚の写真」としか情報がなく、一体どこで展示されていたものなのかがわからないんですよね。
――それだけ、全国各地に人魚がいたということですか?
藤井 そうでしょうね。そして、こちらの絵葉書も別の人魚の写真です。ただ、「1300年以上前に発見された人魚の写真」としか記載がないため、こちらも詳細は不明。和歌山県の人魚と推測されています。絵葉書が売られていた年代は「郵便はがき」の文字や、仕切り線などを見ると、おおよそわかります。見分け方を紹介している本や、サイトもありますので、要チェックです。
――妖怪だけではなく、この手の怪しい絵葉書は、これまでもたくさん蒐集されてこられたのですか?
藤井 古本の延長で、数えきれないぐらい絵葉書も持っています。マニアックな絵葉書は、古本屋の片隅で売られていたり、ネットオークションに出品されたりしています。まだ見たことのない珍品もたくさん眠っていることでしょう。さらに、『怪奇絵はがきの世界』という「珍事件・怪事件ライター」の穂積昭雪氏が制作した同人誌もあるのですが、そこには前回紹介した八幡地獄の怪物館の鬼や人魚の写真絵葉書の別バージョンが載っています。
――それなりの数が流通していそうな気もしますが、こういうマニアが喜ぶような絵葉書というのは、今はどれくらいの相場になるのでしょうか?
藤井 モノによっては高いですが、1枚で10万円を超えるものはあまりないです。
――ということは、数万円はするということですね……。その辺のトレーディングカードよりも高値かもしれません。
書肆ゲンシシャ
大分県別府市にある、古書店・出版社・カルチャーセンター。「驚異の陳列室」を標榜し、店内には珍しい写真集や画集などが数多くコレクションされている。1時間1,000円で、紅茶かジュースを1杯飲みながら、それらを閲覧できる。
所在地:大分県別府市青山町7-58 青山ビル1F/電話:0977-85-7515
http://www.genshisha.jp
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