黒い未確認飛行物体たんころばし、怪鳥オドデさまが舞う! 岩手ミステリー案内/黒史郎・妖怪補遺々々

文・絵=黒史郎

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    今月は、「岩手県で補遺々々できないか?」と無茶振りから発掘したことに端を発します。さすが〝ミステリー王国〟岩手。さっそくUFO・UMA的なものを補遺々々しましたーーホラー小説家にして屈指の妖怪研究家・黒史郎が、記録には残されながらも人々から“忘れ去られた妖怪”を発掘する、それが「妖怪補遺々々」だ!

    岩手で妖怪補遺々々

     このたび、本コラムの担当編集者から「次は岩手県で何かありませんか」というご相談をいただきました。はい! あります! 
     岩手県は昔コ(昔話)の宝庫、お化けの話ならたくさんあります。民話集一冊、手に取っただけでも、河童、マヨイガ、ザシキワラシ、かくれ里といった不思議な話が、両手からこぼれるほど集まりますし、なんといっても遠野地方の説話を集めた『遠野物語』があります。
     せっかくですので、今回はそんな岩手妖怪の中でも、「ほいほい的」で「ムー」的な妖怪を捜してみました。

    ぞよっとする黒いものがわらわらと舞う「たんころばし」

     昭和51年発行『岩手の伝説』は、著者・平野直が採集した話や、県下の郷土資料を参考にした話が200篇以上集められた大著です。その中に【たんころばし】というものについて書かれた、200文字にも満たぬ記録があります。このようなものです。

     ーー岩手県紫波郡にあった不動という土地は、六村が合併してできた村でした。後に、また合併して矢巾村となり、現在の矢巾町となります。
     先の合併した六村のひとつ、北伝法寺というところに、大杉が生えていました。この杉には、直径30センチほどの藤がまとわりついていたといいます。
     この杉の生えているあたりでは夜になると、「一斗鍋」くらいの大きさの、なんとも知れぬ「黒いもの」がいくつも立ち現われたそうです。それは寺の北方にある畑の方へ、消えたり現れたりを繰り返しながら、忙(せわ)しい動きで行き交ったといいます。
     これを見た人は、「ぞよっ」と、うそ寒さに襲われたそうです。
     人々はこれを【たんころばし】と呼びました。
     時には、この「黒いもの」が飛び交う中に、【火の玉】も混ざることもあったそうです。

     この怪しいものの呼称【たんころばし】は、どういう意味なのでしょう。
     参照資料には名称の由来に関する記事はなかったので、関係のありそうな情報を捜してみました。
     椀や壺の形をした「ひょうそく」という灯火器があります。中心に灯心を立て、それに火をつけて使うものです。柳田国男『火の昔』によりますと、この器具を東北地方では「タンコロ」あるいは「タンコロリン」と呼ぶそうです。柿の実のお化けではありません。
    「灯火器「ひょうそく」の考証と分類について」(1981)には、岐阜県や奈良県で「おたまじゃくし」のことを「タンコロ」、京都では「松ぼっくり」を「タンコロ」、石川県では「丸くて小さい」ことを「たんころい」というとあり、照明器具の「タンコロ」も、その形状が「小さい椀形」をしていたことから、そう呼ばれたのだろうと考察しています。
     また、「コロバシ」を「転ばし」と考えるなら、「転がる」ように移動するとか、人を「転ばせる」といった行動から名づけられたとも考えられます。

    【たんころばし】は、その姿形も参照資料に詳細がありませんでした。
     なので、少ない情報と先の考察から考えてみますと、「一斗鍋」サイズの「黒くて丸いもの」あるいは、「黒い、お椀形のもの」が、わらわらと群れながら移動する怪異だったのかもしれません。
     群れの中に「火の玉」が混じることもあったとあるので、【たんころばし】は「飛びもの」の怪であることは間違いないと思われます。現代なら「お化け」というよりかは、「UFO」として語られていたかもしれません。これが、あながち見当違いということでもないのです。
    【たんころばし】が目撃された不動村——現在の矢巾町には、南昌山(なんしょうざん)があります。岩手郡雫石町と紫波郡矢巾町との境にある、標高848メートルの「椀形」の山です。
     今ここでは、UFOの目撃が頻発しているようなのです。
     この山は形状が人工的なピラミッド形のように見えることから、「UFO基地」ではないかとも噂されているようで、ネットにもさまざまな情報があり、矢巾町の公式YouTubeでも、同地域で未確認飛行物体の目撃が多いことを公言しています。

    イーハトーブに見た幻

    【たんころばし】は北伝法寺の大杉より現れ、北方に飛んでいったという記述がありますが、南昌山は地図で見ると北伝法寺の北西に位置します。「無数の黒い椀形・飛行物体」が、大きな「椀形」をした山へと帰っていく光景を想像すると、映画『未知との遭遇』のデビルズ・タワーを彷彿させます。

     ちなみに南昌山は、宮沢賢治ゆかりの山としても知られています。彼の作品には、この山の名や、この山、その周辺と思われる場所が描写されています。

     童話「鳥をとるやなぎ」では、主人公の「私」が友人の慶次郎から、「飛んでいる鳥を飲み込む【エレキ(エレッキ)のやなぎの木】の話を聞き、一緒に見に行くという展開になります。
     空を飛んでいる鳥が、その楊(やなぎ)のそばを通ると、まるで木に吸い込まれるように、よろよろと落ちていくというのです。作中でも例えとして出ますが、まるで「殺生石」のような恐ろしい木です。
    「鳥の嘴ならきっと磁石にかかる」と慶次郎は断言します。楊の木が、磁力(エレキ)で鳥を引き寄せているというのです。その不思議な光景を二人で見に行こう、という話になります。
     源を南昌山に発する岩崎川を辿っていくと、上流に沿って楊の木が生えている場所があります。でもどれが、噂の「鳥を飲み込む楊の木」なのか、見た目ではわかりません。二人は鳥が来るのを待ちます。「その瞬間」を見たいのですーーしかし、その結末は……。

     本作中では「南晶山」という名が出ます。また、「竜の形の黒雲」の描写があり、これはおそらく、南昌山に【白竜】が棲んでいて、毒の雲で峰を覆って人々を苦しめたという伝承が発想の元になっているのでしょう。
    『銀河鉄道の夜』の舞台も、この山だという説があります。
     南昌山の山頂が、なんとあの「銀河ステーション」だというのです。
    「鳥を吸い込むエレキの楊の木」「山頂の銀河ステーション」ーーそれらは、宮沢賢治の発想した幻想の光景なのでしょうか。
     それとも彼は、この山でなにか不思議なものを見ていたのでしょうか。

    岩手のUMA? オドデさま

     岩手県には他にも不思議な「生物」の伝承が伝わっています。
    九戸郡九戸村に伝わるもので、その名も【オドデさま】。
     県立自然公園に指定されている折爪五滝(おりつめごたき)にある案内板によりますと、「オドデ」というのは二升樽くらいの大きさで、上半身がフクロウ、下半身が人間の「怪鳥」です。「ドデン、ドデン」と奇妙な声を発したことから、この名がついたそうです。
    『岩手の伝説』では【おドテさま】とされ、こんなお話が紹介されています。

     昔、九戸の江刺家岳(えさしがたけ)の山麓に、牛の牧場がありました。
     ある日の夕方、牛番の若者が帰ろうとすると、藪の向こうで光るものが見えました。
     驚いている若者の前に、奇妙なものが姿を見せました。
     光る大きな目を持つフクロウのような頭で、身体の下半分が人間のようです。そんなものが、ヒョコリ、ヒョコリと近づいてくるので、「これは鳥だろうか、人間だろうか」と若者は考えました。すると、その生き物は「これは鳥だろうか、人間だろうかと考えているな」といって、「ドテン、ドテン」と鳴きます。
     この生き物は、若者の考えていることがわかるようです。
     恐ろしくなって若者は逃げました。逃げても「ドテン、ドテン」と鳴きながら追ってきて、「名主のところへ連れてけ」といいます。
     しかたがありません。いわれたとおり、名主の家へ連れて行くと、名主はこの生き物の不思議な力に驚き、これを「神様」のように祀ることにしました。
     すると、この珍しい生き物をひと目見ようと各地から人がたくさん集まってきます。
    【おドテさま】は、人々の前で明日の天気をいい当てます。失くしもののある場所もいい当てます。人々はもっと集まってきます。こうして名主は、お賽銭をたっぷり稼いで、ほくほくでした。
    しかし、そんな名主を見て、「おオドテさま」は彼の屋敷から飛び去ってしまいました。それから【おドテさま】は、牛番の若者のところへ戻ります。そして、「お前はいいやつだから」と、自分の不思議な力を若い牛番に授けるといって、石と化しました。
     でも、無欲な若者は、授かった神通力を一度も使うことなく、牛番として一生を終えたのでした。

     ーーこのようなお話です。
     その姿からは【モスマン】【オウルマン】のようなUMAを彷彿させます。
     もし、お会いになりたいなら、折爪五滝には【おドテさま】の立派な像が建っています。
     アニメ『まんが日本昔ばなし』にも、その姿が描かれています。

    【参考文献・参考サイト/動画】
    松本隆『童話「銀河鉄道の夜」の舞台は矢巾・南昌山—宮沢賢治直筆ノート新発見—』(ツーワンライフ)
    深津正「灯火器「ひょうそく」の考証と分類について」『照明学会誌』第65巻 第5号
    「鳥をとるやなぎ」『新編 風の又三郎』(新潮文庫)
    柳田国男『火の昔』(実業之日本社)
    平野直『岩手の伝説』(津軽書房)
    「ヤハヤハ ビール紀行」
    https://travel.rakuten.co.jp/movement/iwate/201901/
    IAT岩手朝日テレビ「天津木村のへぇ〜 第40回 U.F.O.は終わりました。〜UFOの謎シリーズ①?】
    https://www.youtube.com/watch?v=AuwIp1eAKe4
    https://www.youtube.com/watch?v=0Aud4pnxcS4
    岩手県九戸村
    https://www.vill.kunohe.iwate.jp/docs/202.html
    岩手県矢巾町
    【矢巾町公式】#20 矢巾町の裏話?未確認飛行物体・都市伝説・伝承
    https://www.youtube.com/watch?v=7RpVUl-B62w

    黒史郎

    作家、怪異蒐集家。1974年、神奈川県生まれ。2007年「夜は一緒に散歩 しよ」で第1回「幽」怪談文学賞長編部門大賞を受賞してデビュー。実話怪談、怪奇文学などの著書多数。

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