北海道の山中にずらりと並んだ謎の仏像群！ 作者も目的も完全不明、白昼夢のような珍風景／小嶋独観

　北海道屈指の人気観光地、旭川市の旭山動物園にほど近い場所に仏像がビッシリ並んでいる摩訶不思議なスポットがある。そこは旭川市郊外の山中にあり、もちろん動物園帰りの観光客が偶然訪れることは絶対に無いような辺鄙な場所だ。木々に囲われた未舗装の道路を進んでいくと、視界が広がり、信じ難い光景が突然現れる。何もない場所に大量の金色の巨大な仏像が並んでいるのだ！

……数日前に大型の熊の目撃情報がこの地域で報告されており、不安が一瞬頭をよぎったがこの光景を見たらそんなことは吹っ飛んでしまった。金色に輝く仏像群は大きいモノでは高さ４～５ｍ。それらが100体程、みな同じ方向を見て並んでいるのだ。珍仏ジャンキーの私としてはこの光景を目にしただけでアドレナリンが出まくり。今なら熊に襲いかかられても取り敢えずドローに持ち込む位にはドーパミンが出まくっているぞ！　仏教パワー恐るべし、なのである。

……スミマセン。勝手にアガっちゃいました。落ち着いて仏像群に着目してみる。仏像群はほぼ金色で、モノはFRP（繊維強化プラスティック）だと思う。

　大型の仏像は手前が観音像で奥が地蔵像。その手前に等身大よりやや小さめの観音像や如来坐像などが並んでいる。

　さて。少し冷静になってこの仏像群が何のためにここに並べられたのかを考察する必要があろう。現時点で私が確実に手にしているのは、いわゆる５Ｗ１Hの内、所在である”WHERE”（どこに？）、そして大量の仏像群である”WHAT”（何を？）、あとはFRPで製作したという”HOW”（どのように）、という情報のみ。では、残りの“WHO”（誰が）、”WHEN”（何時？）、”WHY”（何故？）はどうだろう。

　実は、”WHO”（誰が？）という情報は一切不明である。これはライターとしてはかなり不如意な状況だ。しかし、これ以上調べようがないのもまた事実。これは現地にある「物証」をつぶさに観察してそこから「状況証拠」を得るしかなかろう。だって、周辺には事情を知っていそうな人も誰もいないんだもん……。という訳で「事件は現場で起きている！」的なノリで考察＆妄想を重ねて行こうと思うので、どうか最後までお付き合いくださいませ……。

　改めて仏像群に対峙する。手前の小さな像の幾つかは、まだ金色に塗られていない。つまり、まだ下塗りの状態で完成に至っていない。つまり、この仏像群はまだ未完成なのだ。そこからおぼろげながら”WHEN”（いつ？）が浮かび上がって来る。この仏像群は決して古いものではなく、現在製作中のものが混ざっている程度に、近年作られたものなのだろう、と。しかしさらに仏像群を注視してみると所々破損している仏像もある。

　コレはつまり、決して古くはないものの、北海道の過酷な自然現象に耐えきれなかった仏像もある、という事を示している。何が言いたいかというと、製作途中の仏像がありつつも破損した仏像もある、といった程度の時期に仏像群は製作された、という推理が成り立つわけだ。この辺は長年日本各地の仏像を見てきた不肖私が判定するに、ここ数年に建立されたものと推定出来る。という訳で”WHEN”（いつ？）は大まかながら定まった、という事にする。残された問題は”WHY”（何故？）、”WHO”（誰が？）である。これもまた目の前にある「物証」から読み解くしかない。

　数多く並ぶ仏像群だが、その奥に更に多くの仏像が並んでいる。

　大きさは最初に遭遇した仏像群よりは小振りだが、数が圧倒的だ。800体はあるだろう。

　一見同じ形状の仏像に見えるが、よく見ると数種類の仏像で構成されている。

　大日如来、十一面観音、不動明王、馬頭観音などなど。

　あまりにも大量の仏像が並んでいるので、白昼夢を見ているような気分になって来る。

　しばし呆然としていると、その仏像群の傍らに人間の像が立っていることに気が付いた。

　よく見れば、同じ像が数体いるではないか。

　黒光りする人物の像は金ピカに輝く仏像群とは対照的だ。杖を突いて笑みを浮かべたこの男性、実は蒋介石という人物である。蒋介石とは台湾（中華民国）の初代総統で、台湾では役所や学校の入口などあちこちに彼の彫像が置かれている。近年は民主化が進み、徐々に撤去されつつある。それらの像は台湾の桃園にある慈湖紀念雕塑公園にまとめて置かれているのだ。

　ここで、この施設を作った人物”WHO”（誰が？）の答えが何となく見えてくる。台湾の人、あるいはそれに関連した人が仏像を設置したのではなかろうか？　あくまでも想像だが。

　最後にこの施設の目的である”WHY”（何故？）なのだが…… 仏像群の中に一体だけ、仏像の台座に「萬霊供養」と書かれて奉納者名が刻まれていたので何らかの宗教施設には違いないとは思うのだが、それにしても人のいない山中にこれほど大量の仏像を並べる必然性が何処にあるのだろう？　しかも本堂などの宗教施設を思わせる建物も何もないし、全く判らない。

　でもね。

　ひとつだけ言えるのはこの仏像群がこれだけミステリアスに思えるのは何の目的のために作られたかが全く判らないからに他ならないのですよ。広い日本、合理的な説明もつかない場所がたまにはあっても良いのではないかな、と思いながら仏像群を後にしたのであった。

　最後に仏像群の後にあった小屋を覗いてみた。中は作業小屋兼倉庫のようなところで、蒋介石の像が一体だけ寂しそうに立っていました…。